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「亡き夫の仕事を引き継ぐ」ナワリヌイ氏妻のユリアさん プーチン政権打倒目指した戦いの先頭に立ち上がる

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
プーチン大統領が私の夫を殺したと訴えるユリア・ナワリヌイ氏(YouTubeより)

2月16日に獄死したロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(享年47歳)の妻ユリア・ナワリヌイさん(47歳)は19日、亡き夫のYouTubeチャンネルに初めて出演し、民主的で自由なロシアを実現するための夫の仕事を引き継ぎ、プーチン大統領との戦いの先頭に立つことを誓った。

「こんにちは、ユリア・ナワリヌイです。今日はこのチャンネルで初めてお話ししたいと思います。私はこの場所にいるべきではなかった。このビデオを録画すべきではなかった。私の代わりに別の人がいるはずだった。しかし、その人はウラジーミル・プーチンによって殺されました。3日前、ウラジーミル・プーチンは私の夫、アレクセイ・ナワリヌイを殺害しました」

黒服を着たユリアさんは神妙な面持ちで、「私はアレクセイ・ナワリヌイの仕事を続ける」と題したYouTube動画の冒頭、こう切り出した。8分50秒にわたるロシア語でのこのビデオ演説の間、彼女は時折声を震わせながら強く訴え続けた。

「私たちが(アレクセイと私たち自身のために)できる最も重要なことは、戦い続けることです。以前よりもさらに激しく、より必死に、より激しく。これ以上のことは不可能に思えることは分かっていますが、私たちはもっとやらなければなりません。私たちは皆で力を合わせて団結し、この狂った政権を打倒すべきです」と述べ、プーチン政権打倒のために政治勢力として結集するよう呼びかけた。

そして「プーチンはアレクセイ・ナワリヌイという人物を殺害しただけではなく、私たちの希望、自由、そして未来も殺そうとしたのです」とプーチン大統領を強く非難した。

ロシア当局はナワリヌイ氏の遺体の遺族への返還を拒否している。これに対し、ユリアさんはプーチン政権が死亡に関与したとの見方を示した上で、「ノビチョク(猛毒の神経剤)の痕跡が消えるのを待っているのだ」と述べ、時間稼ぎだと批判している。ロシア当局は遺体を隠し続けることで、自らのストーリーや見立てに沿った都合の良い形で情報や事実をコントロールしていくとみられる。

●「私は自分の国も自分の信念も放棄したくない」

獄死したナワリヌイ氏は当局による逮捕から3年の節目の日に当たる今年1月17日、次のようにFacebookに投稿していた。

「私は自分の国も自分の信念も放棄したくない。一にも二にも裏切ることはできません。自分の信念に価値があるなら、喜んでその信念に立ち向かう必要があります」「今はあきらめずに信念を持ち続けるしかない」

ナワリヌイ氏は2020年に毒殺未遂に見舞われ、なんとか一命を取りとめたものの、療養先ドイツから翌年にロシアに帰国し、空港でその場で当局に逮捕された。亡命先で自らが無価値になることよりも、死に至るリスクをも覚悟し、刑務所の塀の向こうからプーチン体制を非難し続けた。プーチン大統領が反対勢力に対する抑圧を強める中、ナワリヌイ氏はロシアにおける自由の戦士(フリーダムファイター)として、新たな尊敬を勝ち取り、そして、命を落とした。同氏の信念の強さや勇気を称えるとともに、プーチン政権に対する国際的な批判が改めて高まっている。

妻のユリアさんは19日、ベルギー・ブリュッセルを訪れ、ヨーロッパ連合(EU)のミシェル大統領らと会談し、欧米諸国との連携を強めた。西側社会からの共感や支援を得ており、プーチン大統領にとっては今後目障りで厄介な存在になるだろう。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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