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防衛予算概算要求、護衛艦「いずも」と「かが」の軽空母化改修に423億円 工事完成はいつ? #F35B

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
艦首が四角形に改修され、4月に初めて出渠した護衛艦かが(秋山健さん撮影、提供)

防衛省は8月31日、2024年度防衛予算の概算要求を過去最大の7兆7385億円とすることを決めた。2023年度当初予算の6兆8219億円と比べて13.4%増えた。年末の予算編成で全額が認められることはないかもしれないが、来年度予算が10年連続で過去最大を更新することは確実だ。

主な事項としては、ミサイルや戦闘機など空からの脅威に迎撃ミサイルなどで対応する「統合防空ミサイル防衛能力」関連に約1兆2713億円、敵の射程外から長射程ミサイルで攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」関連に約7551億円をそれぞれ盛り込んだ。

●核保有国の隣国3カ国からの脅威

防衛費の大幅増額の背景には、中朝露という核保有国の隣国3カ国からの軍事的脅威が増していることがある。とりわけ中国の著しい軍事拡張だ。2023年度版防衛白書によると、中国の2023年度国防予算は、表向きの公表ベースだけで約1兆5537億元(約31兆740億円)に及び、日本の4.5倍以上に達した。中国の国防費は過去30年間で約37倍に急増した。このため、防衛省はスタンド・オフ・ミサイルの早期配備を目指し、南西諸島周辺を中心に防衛力強化を急ピッチで進めている。

●いずも型護衛艦の改修に423億円

来年度概算要求では、海上自衛隊史上最大の艦艇であるいずも型ヘリコプター搭載護衛艦1番艦「いずも」と2番艦「かが」に、短距離離陸と垂直着陸が可能なステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう、改修費全体として423億円が予算要求された。F35B搭載に向けたいずも型護衛艦改修費としては、これまでに2020年度に31億円、2021年度に203億円、2022年度に61億円、2023年度に52億円がそれぞれ計上されている。

戦闘機搭載を可能にする「いずも」と「かが」の軽空母化は、太平洋への進出がめざましい中国軍を念頭に抑止力を強化する狙いがある。軽空母化改修は、5年に一度実施される「いずも」と「かが」の大規模な定期検査を利用して、それぞれ2回にわたって行われている。

艦首が四角形に改修された護衛艦かが(2023年8月30日に「呉湾艦船めぐり」撮影、提供)
艦首が四角形に改修された護衛艦かが(2023年8月30日に「呉湾艦船めぐり」撮影、提供)

●「いずも」もいよいよ艦首改造へ

海上幕僚監部によると、「いずも」改修については、2回目の改修が始まる来年度は420億円を要求した。内訳は艦首を四角形に変更するための本体改造費に407億円、着艦誘導装置や空中線移設、衛星通信装置の改造など関連装置費用に13億円をそれぞれ盛り込んだ。

いずも型護衛艦のもともとの艦首は台形。海幕によると、細い先端部分での乱気流を抑えてF35Bを安全に運用するために、甲板を横に付け足して四角形にすることが必要となっている。

海自横須賀基地を母港とする「いずも」は2019年度末からジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場で1回目の改修工事が実施され、2021年6月末に終了した。具体的には、特殊な塗装などによる飛行甲板の耐熱処理工事や誘導灯の設置などが行われた。飛行甲板には艦首から艦尾まで1本の黄色い標示線(トラムライン)も引かれた。

海上自衛隊最大の艦艇であるいずも型護衛艦1番艦「いずも」。1回目の改修が既に終わり、飛行甲板に黄色の標示線(トラムライン)が引かれた(写真:海上自衛隊)
海上自衛隊最大の艦艇であるいずも型護衛艦1番艦「いずも」。1回目の改修が既に終わり、飛行甲板に黄色の標示線(トラムライン)が引かれた(写真:海上自衛隊)

●かが改修費は3億円

「かが」改修については、来年度は3億円を要求した。内訳は各種試験費に1億円、衛星通信装置など関連装置の改造費用に2億円を盛り込んだ。「いずも」の420億円という来年度要求額と比べて少額な理由は、「かが」は既に艦首形状を四角形に変更する大掛かりな工事を終了したためだ。

海自呉基地を母港とする「かが」は2021年度末から広島県呉市のJMU呉事業所で1回目の改修が始まった。そして、「いずも」に先駆けて艦首が四角形に改修され、前甲板部分が以前と大きく変わった姿で今年4月20日に初めてドックを出た。

艦首が四角形に改修され、約1年ぶりに出渠した護衛艦かが(2023年4月20日に秋山健さん撮影、提供)
艦首が四角形に改修され、約1年ぶりに出渠した護衛艦かが(2023年4月20日に秋山健さん撮影、提供)

「かが」の1回目の改修は今年度に終わる予定だ。2回目の改修は2026年度から実施される。

海幕の最新情報によると、「いずも」と「かが」の軽空母化改修はともに2027年度に完了する予定だ。

●2024年度は7機のF35Bを取得へ

防衛省は来年度予算で、「いずも」と「かが」に搭載するF35Bの7機の取得費1256億円を概算要求した。航空自衛隊はこれまでにF35Bの取得費として2020年度に6機793億円、2021年度に2機259億円、2022年度に4機510億円、2023年度に8機1435億円をそれぞれ計上した。空自は計42機のF35Bを導入する計画で、初号機は2024年度末までに配備される予定だ。

防衛省は、F35Bの国内配備先としては宮崎県新富町にある空自新田原基地を計画している。2024年12月には「臨時F35B飛行隊」(仮称)を新設する予定だ。前述したように、「いずも」と「かが」の軽空母改修の完了は2027年度が見込まれており、両艦の飛行甲板に日本のF35Bが実際に発着艦するのはまだ月日がかかる。航空と艦船ファンにとっては待ち遠しさが募る日々になるかもしれない。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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