日本銀行の金利据え置きで為替が大幅円安に、今後の金利の見通しと生活への影響
2024年4月26日に日銀から発表された当面の金融政策運営について、ほぼゼロ金利を維持することとなりました。金融緩和政策については、従来と変わらず日本国債を購入し、緩和を継続することとなりました。結果は急激な円安を招いています。これから日本の金利や物価は生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
■政策金利の据え置きの根拠
2024年4月26日に発表された「経済・物価情勢の展望(2024年4月)」によると、物価上昇は2024年には2%台後半になる見通しだが、2025年と2026年には2%程度にとどまる見通しとあります。世間のニュースを見る限り、この点に注目が集まっているようですが、筆者はもう1つの理由にも注目しています。
それは、金融リスクです。直近3月にマイナス金利を解除したばかりで、1か月では金融市場における影響が行き渡ったとは言えません。金利を引き上げると、住宅ローンや企業の借入金利が上昇しますが、株価も下がる要因になります。
日本銀行が金利を上げるには、1つには物価が安定的に2%以上の上昇を複数年で続けること、もう1つは株式市場が上昇傾向にあることだと思われます。マイナス金利解除は、日常生活にほぼ影響のないレベルの金利引上げでした。一方で、日経平均株価は41,000円から37,000円の間を行きかう展開で、やや下落基調です。日本を代表する株式指数である日経平均が順調に右肩上がりに推移していないと、現在の物価動向では金利を引き上げるに心もとないと考えても不思議ではありません。
既に金融緩和政策の1つであるETFを購入しないこととなっている点も、株価に影響を与えている可能性があり、今後は日銀による株式市場の下支えがないため、株式指数の上下動の幅が大きくなることも懸念されます。
■円安による物価上昇
日銀が金利据え置きを発表し直ちに反応したのは、円ドルの為替市場です。1ドル155円から158円に3円の円安となりました。下落率は1.9%ですが見覚えのない次元の円安になりつつあります。
小学校の社会科で学ぶように、日本は戦後の食生活の洋風化に伴い、食料品の輸入が多くなっています。また、採算のとれる価格で利用できるエネルギー資源に乏しいため、エネルギーも輸入に頼らざるを得ません。他にも医薬品、衣類、電子部品など日常生活に必要な様々なモノが輸入されています。
そのため、同じモノの輸入品価格が円安により高くなり、生活費を押し上げる可能性が高まります。円安による物価高が見込まれますから、今後2025年、2026年の物価水準が現時点(2024年4月)より高くなれば、金利引上げを留める理由はありません。
従って、リーマンショックやコロナショックのようなことが突発的に発生しなければ、遠くない日に金利を引上げることは既定路線のように思われる情勢です。
■物価上昇による家計余力の減少
円安で直ちに影響を受けるのは私たちの生活です。まず、海外旅行に行く敷居が高くなります。コロナ禍を耐えて、ようやく海外で羽を伸ばしたり、異文化で学ぶ機会を得ようと考えている家庭には支出が大きく増加します。
日常生活においても、円安による価格転嫁が行われると家計の余力が減り、場合によっては赤字になる家庭も出てくるでしょうから、生活困窮に陥る人もいるかもしれません。そういった意味では、給付金・定額減税一体措置はタイミングがよいという見方もできそうです。
物価が上昇することで、給与の実質的な価値が下落しますから、知らぬ間に給料が減らされていることになります。
■物価上昇による年金の実質減価
物価が上昇すると、給料だけでなく年金も目減りします。1つには、年金額が実質的に目減りしますから、預金、株式、投資信託など保有する金融資産が少ない高齢世帯は支出のやりくりに苦労する可能性があります。
また毎年改定される年金額は、物価上昇には追い付かないように設計されているため、支給される年金額が目減りします。
なかなか日の目を見なかったマクロ経済スライドが、ようやく本格的に機能することになりそうです。
■物価上昇による預金の実質減価
金融資産をたくさん持っている家庭でも、預貯金の目減りは大きな問題になりそうです。物価上昇が毎年2.5%だとすると、4年で10%、8年で22%円の価値が目減りします。騙されたわけでも無いのに、資産が毎年2.5%ペースで減少することになります。
虎の子の資産が、なすすべもなく減っていたことに、気が付くのは物価が1.5~2倍になったころでしょうか。物価上昇への対策として、うかつに金融商品を買わないように、注意しなければなりません。
■物価上昇後の金利引上げ
日銀は既に金利引上げまでの道のりを描いているでしょう。今の日銀の金融政策は、多少なりとも経済を学んだ者からすると、違和感なく理解できるわかりやすさがあります。わかりやすいがゆえに、プロの海外投資資金に翻弄されやすいとも言えますが、金融リテラシーを高めれば対策も打ちやすいと言えるでしょう。
守りの物価上昇対策は家計見直し、攻めの物価上昇対策は世界的な投資資金の波に合わせた銘柄物色と言えそうです。
短期的には、住宅ローン金利が据え置かれた点はあんしん材料と言えそうですが、これから毎月のように開催される金融政策決定会合に注目するといいでしょう。