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中国軍57機の大規模軍事演習、台湾侵攻計画を浮き彫りに

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
中国人民解放軍部隊を閲兵する習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

中国は台湾侵攻の際に実際にどのように戦力を配備するのかーー。中国人民解放軍が1月8日に台湾周辺で実施した今年最初の大規模軍事演習は、そのシナリオの一端を浮き彫りにしている。

特に今回の軍事演習中の中国軍機の動きは、中国軍が台湾侵攻の際に「台湾とフィリピンの間に広がるルソン海峡での航空・海上優勢の確保を目指す」とのこれまでの見方をぐっと強めるものとなった。

●実戦的演習

中国人民解放軍で台湾方面などを管轄する東部戦区の施毅(シー・イー)報道官は8日、台湾周辺の海域と空域で「統合戦闘即応性パトロールと実戦的演習」を実施したと発表した。具体的には、中国人民解放軍の統合作戦能力を検証するための「陸上目標への攻撃と海上目標への突撃」に重点を置き、外部勢力と台湾独立分離主義勢力の挑発的な行動に断固として対抗することが主な目的だったと説明した。

台湾国防部は翌9日付の声明で、台湾周辺で中国人民解放軍の航空機延べ57機と艦艇延べ4隻の活動を確認したと発表した。

特に台湾国防部が発表した図は、中国軍機57機のうち、中高度長期耐久型無人機(MALE)「BZK-005」の3機とH-6爆撃機の2機がルソン海峡上空に飛行したことを示している。ルソン海峡は、北から南の順でバシー海峡、バリンタン海峡、バブヤン海峡の3海峡から成る。

1月8日に台湾とフィリピンの間に広がるルソン海峡上空の台湾の防空識別圏を横切る形で往復した中国軍機の飛行経路(台湾国防部より)
1月8日に台湾とフィリピンの間に広がるルソン海峡上空の台湾の防空識別圏を横切る形で往復した中国軍機の飛行経路(台湾国防部より)

中国軍機がとった今回の飛行経路は、台湾海峡でのこれまでの中国軍機の飛行とは大きく異なる。台湾海峡では通常、中台の中間線を短時間破った後に中国本土に向けて方向転換する。

台湾国防部が公表した図は、BZK-005無人機とH-6爆撃機が中国に戻る前に台湾島南部をルソン海峡に沿って約645キロ(約400マイル)も飛行したことを示している。このような飛行経路は珍しく、直近で最後に行われたのはジョー・バイデン米大統領が2023年の国防権限法に署名する2022年12月23日直前の同月21日から22日だった。同法では、台湾に対して今後5年間で最大100億ドル(約1兆3300億円)の軍事支援を行うことが明記された。

●重大な海上交通路

ルソン海峡は、アメリカ海軍がグアム、南シナ海、台湾海峡の間で艦艇を展開する際に利用されている主要な海路だ。また、中国と台湾の間で紛争が発生した場合、ルソン海峡は、高雄市や台南市を含む台湾島の主要な人口密集地にとって、有事の際に確保しなければならない重大な海上連絡交通路(SLOC)となる可能性が極めて高い。

また、台湾島の最南端からルソン島北端までは約350キロしか離れていない。人民解放軍による今回の大規模演習は、中国が台湾に侵攻した場合にアメリカやその他の軍隊がこの重要な海上交通路にアクセスするのを防ぐために、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦術を採用する能力を強化していることを示している。

アメリカ軍にとっては、台湾有事の際のフィリピン基地の使用の可否は、作戦に大きな影響を与える。フィリピンのマルコス新政権は日米との防衛協力の強化に乗り出している。

BZK-005は海上偵察任務のために人民解放軍海軍航空隊 (PLANAF) によって定期的に配備されている水上監視プラットフォームだ。一方、H-6は長距離戦略爆撃機で、その派生型は対艦ミサイルを搭載できる。

中国軍機57機を展開する直近の大規模演習は、アメリカ連邦議会下院が対中強硬派のケビン・マッカーシー氏を第55代議長に選出した翌日に実施された。マッカーシー氏は、女性初の下院議長として通算4期にわたって議長職を務めたナンシー・ペロシ氏の後任となる。中国は2022年8月、ペロシ氏がアメリカ連邦議会議員のグループとともに台湾を訪問した際、激しく反発し、かつてないほどの軍事演習を強行した。中国軍は弾道ミサイル5発を日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させた。

中国官営メディア、環球時報の英文版「グローバル・タイムズ」は8日、2023年初となる台湾周辺での大規模演習をめぐり、匿名アナリストの言葉を引用し、「新下院議長に選ばれたケビン・マッカーシーは人民解放軍が送ったシグナルを理解すべきだ」と述べた。グローバル・タイムズは、中国政府が国際社会にメッセージを発信する媒体として頻繁に使用されてきている。

中国は台湾を中国内の1つの省と位置付けている。習近平国家主席は武力行使も辞さない構えで中台の「祖国統一」を図る姿勢を何度も示してきている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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