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岸田首相、有事の際の日米の指揮命令権統合を否定

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
2021年11月に陸上自衛隊朝霞駐屯地で実施された自衛隊観閲式で巡閲する岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国による台湾有事が現実味を増す中、自衛隊とアメリカ軍の一体運用を強化する動きが出ている。ただ、自衛隊の最高指揮官である岸田首相は1日、有事の際の自衛隊と米軍の指揮命令権の統合について否定的な考えを示した。

●「自衛隊と米軍は各々独立した指揮系統に従って行動」

岸田首相は同日、英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員である筆者の質問に書面で回答し、「自衛隊による全ての活動は、米軍との共同対処を含め、我が国の主体的な判断の下、憲法、国内法令等に従って行われるものであり、自衛隊及び米軍は各々独立した指揮系統に従って行動している」と述べ、有事の際の日米の指揮命令権の統合を否定した。

さらに、「この点は日米防衛協力のための指針においても、『自衛隊及び米軍は、緊密に協力し及び調整しつつ、各々の指揮系統を通じて行動する』こととしている」と指摘した。

そして、「他方で、指揮系統が別であっても、それを前提として、平素から日米で共同訓練などを重ねており、平時から緊急事態に至るまで、緊密な協議や適時の情報共有、調整等を適切に行うことなどにより、いかなる事態に際しても、自衛隊と米軍で整合のとれた対処ができると考えている」と述べた。

筆者は先月28日の岸田首相の記者会見に抽選に当たって出席したが、質問時間に指名されなかったため、官邸報道室を通じて岸田首相に書面で質問していた。電子メールで1日、回答を受け取った。

岸田首相の筆者の質問への回答。
岸田首相の筆者の質問への回答。

●元米海軍幹部「有事の指揮命令、日米で統合必要」

有事の際の自衛隊と米軍の指揮命令権の統合をめぐっては、先月21日に日本経済新聞と米戦略国際問題研究所(CSIS)が共催したシンポジウムで、ゲイリー・ラフヘッド元米海軍作戦部長が、有事の際に自衛隊と米軍が一体となって作戦を遂行しやすくするための「統合本部体制が必要だ」と指摘、有事の指揮命令や情報共有を日米が一体となって運用すべきだと主張した。

ラフヘッド元米海軍作戦部長のように、日米間では最近、台湾有事を見据えて米韓と似たような有事の際の指揮命令構造を作ろうとする意見が出ている。

北朝鮮と対峙する韓国では、1950~53年の朝鮮戦争以降、韓国軍と在韓米軍の戦時の作戦統制権(OPCON)は米軍が握っている。戦時の効率的な作戦を遂行するために米軍との「米韓連合軍司令部」が1978年に創設された。米韓が「重大な緊張状態や軍事介入の可能性がある」と判断すれば、韓国軍兵士約60万人は米韓連合司令官を兼務する米国人の在韓米軍司令官の指揮下に入る。

ただし、有事の際の指揮命令権は国家の主権に絡む問題でもあり、韓国ではかねて米軍からの戦時作戦統制権の返還を求める動きがある。特に「自主国防」を掲げた盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権や文在寅(ムン・ジェイン)政権でその動きが目立った。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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