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北朝鮮、日本列島越えの新型中距離弾道ミサイルの3つの「異例」

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
北朝鮮が4日に発射した新型中距離弾道ミサイルとそれを視察する金正恩氏(労働新聞)

北朝鮮は、今月4日に日本列島を越える形で発射したミサイルについて「新型の地対地中距離弾道ミサイル」と表現した。その上で「敵により強力で明白な警告を送る」という朝鮮労働党中央軍事委員会の決定に基づく発射だったと明らかにした。合同軍事演習を実施する日米韓3か国への対決姿勢をぐっと強めた格好だ。

この新型の中距離弾道ミサイル(IRBM)は当初、これまで何度も発射されたことのある火星12との見方が優勢だった。しかし、北朝鮮が10日に公開した写真を見ると、これまでに見られなかった新たな形状をしている。火星12と火星10(ムスダン)に続く3番目のIRBMになる。北朝鮮は新型IRBMの名称を公表していない。

米カーネギー国際平和基金の上級研究員、アンキット・パンダ氏ら北朝鮮の軍事に詳しい内外の軍事専門家は、この新型IRBMの3つの「異例」を指摘している。

第一に、北朝鮮はこれまで中長距離弾道ミサイルを最初に発射する際は、通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で行ってきた。しかし、防衛省の発表によると、今回の新しいIRBMはいきなり日本列島を越えて約4600キロメートル飛行し、北朝鮮の弾道ミサイルの中でこれまでで最長の飛距離を記録した。これは、核・ミサイル開発を主導する北朝鮮の国防科学院が新型ミサイルにかなりの自信を持って発射したことがうかがえる。

北朝鮮が4日に日本列島を越える形で発射した新型中距離弾道ミサイル。バーニアエンジン(小型補助エンジン)が見えない(労働新聞)
北朝鮮が4日に日本列島を越える形で発射した新型中距離弾道ミサイル。バーニアエンジン(小型補助エンジン)が見えない(労働新聞)

第二に、2017年の火星12の発射実験とは異なり、この新型ミサイルの最初の発射は、地上プラットフォームの発射台ではなく、発射台付き車両(TEL)から行われた。米シンクタンクのCSISによると、北朝鮮は2017年4月に行った火星12の最初の3回の発射に失敗。以後、同年9月の6回目の発射前までは、ソ連時代のベラルーシで開発された大型軍用車両MAZ-547の改良型TELへのダメージを避けるために、あえて地上発射台を利用していたとみられる時期があった。しかし、今回の新型IRBMのいきなりのTELからの発射は、エンジンを含めて新たなミサイルに対する強い自信をうかがわせる。

第三に、北朝鮮は今回、国営メディアが特別報道をせずに、新型IRBMを導入したことだ。北朝鮮は通常、新型の中長距離ミサイル発射はプロパガンダの狙いもあり、大々的に報じてきただけに、今回の新型IRBM発射が9月末以降の一連のミサイル発射と一緒にまとめて報じられたことに特別感を感じられない。

しかし、北朝鮮が今回公開した新型IRBMの2枚の写真を見る限り、火星12とは違う特徴がある。

まず火星12とは異なり、この新型ミサイルには主エンジンだけでバーニアエンジン(小型補助エンジン)が見えないことだ。火星12と火星14はいずれも、推力ベクトル制御を補助するための小さなバーニアを備えた中央推力ノズルを利用していた。これは、今回の約4600キロという最長の飛距離が示しているように、エンジンの性能が優れていることを示唆している。以下のツイートの添付写真は4つのバーニアエンジンを備えた旧来の火星12だ。

一方、以下は新型IRBMの写真の拡大版だ。

また、新型IRBMの弾頭部分の形状も、火星12とは大きく違っている。ノーズ・コーンと呼ばれる弾頭の先端部分が短くなっている。北朝鮮が他のミサイルの設計に対応しない新たな再突入体(RV)を保有、あるいは保有を目指している可能性がある。

いずれにせよ、この新型ミサイルは北朝鮮の今後の軍事パレードにも登場する可能性がある。さらなる情報を収集するうえでも注目される。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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