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海上自衛隊の最新鋭もがみ型護衛艦「くまの」が就役――半世紀ぶりの「フリゲート」配備

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海上自衛隊の最新鋭3900トン型もがみ型護衛艦「くまの」(三菱重工業提供)

海上自衛隊の新型3900トン型護衛艦である「もがみ型」2番艦の「くまの」が3月22日、就役した。岡山県玉野市の三菱重工マリタイムシステムズの玉野本社工場で同日、引き渡し式と自衛艦旗授与式があった。

「もがみ型」は、軍事力増強を続ける中国の海洋進出をにらみ、全長1200キロに及ぶ南西諸島を中心に日本の海上防衛の一翼を担う次世代の多目的フリゲートとなる。将来的には22隻を建造する計画となっている。海自にフリゲートに分類される艦が正式に配備されるのは、半世紀ぶりとなる。

「くまの」は、機雷戦と水陸両用戦を担当する横須賀基地の掃海隊群に配備される。海自関係者によると、掃海隊群司令部のある同基地で様々な運用試験が予定されている。

●艦名は熊野川に由来

海上幕僚監部広報室によると、艦名の「くまの」は「熊野川」に由来する。この名を受け継いだ日本の艦艇としては、旧海軍の最上型重巡洋艦「熊野」、ちくご型護衛艦10番艦「くまの」(2001年除籍)に続き、3代目となる。

「くまの」は、多様な任務への対応能力を向上させた新型護衛艦(FFM=多機能護衛艦)の2番艦となる。1番艦「もがみ」は2021年3月に三菱重工業長崎造船所で命名・進水式が行われたものの、いまだ艤装工事や性能試験を実施中で、少し遅れて2022年4月に海自に引き渡される予定。

もがみ型護衛艦は年2隻のペースで建造が進められている。1番艦「もがみ」と3番艦「のしろ」と4番艦「みくま」が三菱重工業長崎造船所で、2番艦「くまの」が三菱重工マリタイムシステムズ(旧三井E&S造船玉野艦船工場)でそれぞれ建造されてきた。海幕広報室によれば、「もがみ」と「くまの」は当初ともに2022年3月に海上自衛隊に引き渡され、就役する予定だったが、ガスタービンエンジンの納期が遅れた「もがみ」の就役は来月となった。「のしろ」は2022年12月、「みくま」は2023年3月の就役をそれぞれ予定している。

海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」(海上幕僚監部広報室提供)
海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」(海上幕僚監部広報室提供)

●半世紀ぶりの「フリゲート」

もがみ型は、新型の多機能護衛艦(FFM=Frigate Multi-purpose/Mine)となる。FFはフリゲートの艦種記号を意味する。海自にフリゲートに分類される艦が正式に配備されるのは、アメリカから貸与されたくす型護衛艦(元米海軍タコマ級哨戒フリゲート)の最終艦「かや」(元サンペドロ)が護衛艦籍を除籍された1972年3月以来、半世紀ぶりとなる。

とはいえ、筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーではかねて、就役中のあぶくま型護衛艦6隻をフリゲートに分類している。

●FFM「高烈度の海上作戦を補完」

「増大する平時の警戒監視への対応と、有事では他の護衛艦が実施する高烈度の海上作戦を補完することを想定している」

岸信夫防衛相は2020年11月17日の記者会見で、FFM導入の目的について、こう述べた。

「高烈度の海上作戦」とは、有事の際の対地攻撃や対潜戦、対空戦、対水上戦などを指すと思われる。

FFMは平時の警戒監視活動を手厚くして軍事的な空白地域を埋める。そして、いざ有事となれば短時間で戦力を集中し、南西諸島に配備された陸上自衛隊のミサイル部隊と連携しながら、中国軍を東シナ海にとどめて西太平洋への進出を阻止するのが狙いだ。米軍が来援するための時間稼ぎにもなる。

海上幕僚監部は、「FFMが有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などの各種活動に活用できる」と説明。さらに「従来は掃海艦艇が担っていた対機雷戦機能も備える」と強調する。機雷掃海能力や対潜能力は、米海軍が海自にとりわけ期待する分野でもある。

FFMは対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備え、魚雷発射管やミサイルなどの電波を受けやすい機器を艦内に格納する。船体もロービジビリティ(低視認性)を重視した灰色と化しており、レーダーに映りにくい「ステルス護衛艦」とも称されている。

海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」(三菱重工業提供)
海上自衛隊の最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」(三菱重工業提供)

●全長133メートルでコンパクト化

FFMは基準排水量3900トン、全長133メートル、全幅16.3メートルで、船体がコンパクト化され、小回りがきく。少子高齢化による海自の人員不足を踏まえた省人化と船価を抑えて実現した初の護衛艦となった。

海幕広報室によると、「もがみ型」の乗組員は「あさひ型」といった通常型の汎用護衛艦の半分程度の約90人。建造費も1隻約460億円と、700億円を超える「あさひ型」の3分の2程度にとどまっている。なお、乗組員約90人のうち、約10人は女性自衛官になる予定。

FFMの速力は30ノット以上。ガスタービンエンジンはイギリスのロールス・ロイス社から川崎重工業がライセンスを得て製造したMT30を1基搭載する。ディーゼルエンジンは2基を搭載し、ドイツのMAN社製の12V28/33D STCとなっている。軸出力は7万馬力。

主要装備品としては、米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(DDG-81以降)やタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と同じ62口径5インチ(127mm)の砲を1基、近接防空用艦対空ミサイルであるRAMブロックIIA(RIM-116C)ミサイルのSeaRAMを1基、垂直発射装置(VLS)を1基、艦対艦ミサイル(SSM)装置を左右両舷に1式、対潜システムを1式、対機雷戦システムを1式、無人水中航走体(UUV)を1機、無人水上航走体(USV)を1艇それぞれ搭載する。VLSとUSVは後日装備となる。

●海自フリゲートとして初めてVLSとUSVを搭載へ

中国海軍に詳しい米戦略予算評価センターのトシ・ヨシハラ上級研究員は著書『中国海軍VS.海上自衛隊』で、中国海軍のVLSセルの約半分は駆逐艦に搭載され、残りの半分はフリゲートに搭載されていると指摘する。その一方、海自のVLSセルはすべて駆逐艦と巡洋艦に集中していると指摘する。しかし、もがみ型にVLSセルが搭載されることで、日本でもようやくあぶくま型護衛艦6隻を含めた国際標準の「フリゲート」の中で初めてVLSが導入されることになる。

2021年11月に閣議決定された令和3年度補正予算では、FFM用のVLS2隻分の取得経費として84億円が計上された。

また、USVも海自の「フリゲート」として初めての搭載となる。

「もがみ型」は護衛艦としては初めて「クルー制」を導入する。複数クルーでの交代勤務の導入などによって稼働日数を増やすことにしている。

海幕広報室によると、2018年12月に閣議決定された2019年度から23年度の「中期防衛力整備計画」(中期防)に基づき、10隻の3900トン型FFMを建造する。将来的にはFFMを合計で22隻建造する計画となっている。

防衛省は、2018年策定の防衛大綱で定めた護衛艦54隻、潜水艦22隻体制を目指している。海自のホームページによると、現有の隻数は護衛艦48隻、潜水艦22隻となっている。日本の主力潜水艦そうりゅう型の後継となるたいげい型1番艦「たいげい」は3月9日に就役したばかり。これで、防衛省・海自は防衛大綱で定められた潜水艦22隻体制(=そうりゅう型12隻+おやしお型9隻+たいげい型1隻)を実現した。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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