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W杯メンバー選考の注目ポイント。技術かスピードか、マイボール重視かプレッシング重視か

杉山茂樹スポーツライター
スピード系の第一人者・伊東純也(写真:岸本勉/PICSPORT)

 カタールW杯に臨む日本代表のメンバー発表を明日(11月1日)に控え、注目ポイントを整理したい。

 23人枠が26人枠に拡大されたことがなにより大きい。選手交代枠が3人から5人に拡大されたことに関連した変更になるが、選手起用の選択肢はこれでグッと広がった。とりわけW杯のような短期集中型トーナメントには大きな影響が出る。

 有利に作用しそうなのは選手層の厚い、駒を揃えた国、すなわち実力上位国だ。選手交代の機会、すなわち監督が試合中に采配を振る機会はおのずと増える。監督力も成績に反映されやすいと考えるのが自然だ。

 日本も前回のロシア大会より選手層が格段に厚くなった。この4年半の間に急増した欧州組の数がそれを物語っている。落選する選手のレベルは史上最高だろう。

 一方で、絶対的な選手は少ない。トップのレベルは上がっていない。よく言えば粒ぞろい。駒は豊富だ。率直に言えば、森保監督次第である。26人の選考もその一つ。この瞬間から采配は始まっている。

 26人という数は、プロ野球でベンチ入りできる人数と同じだ。オリックスの優勝に終わった日本シリーズではその26人の顔ぶれを、試合毎にいじることができた。次の試合に何人かを入れ替えて臨んだ。

 W杯はそれが出来ない。日本を出発した26人で全試合を戦う。日本が掲げる目標=ベスト8から逆算すれば、森保監督はこの26人で5試合(ほぼ中3日)を戦う計画を練ることになる。

 選手交代5人制の下で加速したのは、できるだけ高い位置でボールを奪い、相手の守備の態勢が整う前に攻めきろうとするプレッシングサッカーだ。その主役として最初から飛ばすことになるアタッカー陣は(4-2-3-1で言うなら前の4人は)フルタイム出場させず早めにベンチに下げる。プレッシングを重視すれば、動きが鈍ってからでは遅い。その前に交代させる。仮に90分間戦えない体調であっても大迫勇也を選びたくなる理由だ。オリックスの先発投手ではないけれど、半分持ってくれれば十分なのである。まさに森保監督には、リリーフ投手を早いタイミングでつぎ込もうとするオリックスの中嶋聡監督に通底する采配が求められる。

 23人から26人に3人増えた分は、駒の絶対数が必要なアタッカー陣により多く振り分けられるべきなのだ。最終メンバーの選考で真っ先にチェックすべきポイントである。

古橋亨梧(写真:岸本勉/PICSPORT)
古橋亨梧(写真:岸本勉/PICSPORT)

 選出されたアタッカー陣のタイプにも着目したい。スピード系と技術系がどれほどの割合で選考されたか、だ。プレッシングに適しているのはスピード系。候補選手は古橋亨梧、前田大然、浅野拓磨、伊東純也となる。彼らのスピードは相手DFに脅威となるだろう。相馬勇気もどちらかと言えばこのタイプに含まれる。

 前回ロシア大会には存在しなかったタイプの選手たちでもある。この4年半の間に日本に吹いた新しい風は、新しいレギュレーションと相性がいい。

 一方、技術系は久保建英、堂安律、三笘薫だ。彼らも当然プレッシングに参加するが、最大の持ち味はやはり足技になる。日本サッカーはこの足技を最大の拠り所に右肩上がりを続けてきた。ボールを保持する時間の長い、いわゆる支配率の高いサッカーを実践することが、近年可能になっている。前回ロシアW杯は、そうした傾向が大舞台で確認できた始めての大会だった。

 だが、その方法論で今回、ドイツ、スペインに勝てるかと言えば難しいと言わざるを得ない。差は詰まってきたが互角には遠い。その差を縮めたいと願う弱者にとって、プレッシングはやはり欠かせない手段となる。そのうえプレッシングには不調がない。忠実で勤勉で真面目な日本人の気質にも適している。

三笘薫(写真:岸本勉/PICSPORT)
三笘薫(写真:岸本勉/PICSPORT)

 増えた3人分はどこに割り当てられるか。アタッカーの中ではスピード系、技術系のどちらに優遇されるか。プレッシングの最重点ポイントを相手のサイドバック(SB)とすれば、それと対面するウイングの枚数が増えそうである。南野拓実の当落はそれ次第ではないか。

 アタッカー陣の争いの方が、後方の選手の争いより興味深く映る。マイボール時のサッカーと相手ボール時のサッカーのどちらを優先するか。要はバランスなのだけれど、選手選考に透けて見えるであろう、森保監督の胸の内に注目したい。

 後方の選手では冨安健洋が気になる。選考されることは間違いないだろうが、問題は場所だ。所属のアーセナルでは右SBでプレーするが、代表ではこれまでセンターバック(CB)中心だった。守備的MFでプレーしたこともあるが、森保監督がそのメインのポジションをどこに考えているかで、顔ぶれは変動しそうだ。

 右SBなら激戦になる。酒井宏樹、山根視来。所属のFC東京で、最近もっぱら右SBとしてプレーする長友佑都も候補の1人になる。左SB1本では厳しくても、右もできる多機能性が評価されるなら選出される可能性は増す。

 いずれにせよ、選手起用や作戦の選択肢が広がるような26人を森保監督には選んで欲しいものである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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