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ユーロ準決勝デンマーク対イングランド戦。疑惑のPKから考察するVAR時代における「ホームの利」

杉山茂樹スポーツライター
イングランド対デンマーク。問題のPKシーン。メーレはスターリングに反則をしたのか(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

 ユーロ2020準決勝、イングランド対デンマーク戦の延長前半14分。イングランドのラーヒム・スターリングがエリア内で倒れ、PKの笛が吹かれた時、判定は覆るものと思っていた。ところが、VARによる検証を経ても、オランダ人のダニー・マッキーリー主審が下した判定は変わらなかった。このPKをハリー・ケインが決め、イングランドの決勝ゴールとした。

 このイングランド贔屓の笛。以前ならさほど違和感に襲われることはなかった。サッカー界は、長年にわたりホームタウンディシジョンを肯定してきたからだ。「アウェー戦ではPK1本分覚悟せよ」と、普通に言われてきた。

 VARはこの考え方を真っ向から否定する仕組みだ。VARの採用は、ホームの利、アウェーの不利というサッカー文化が、これから衰退に向かうであろうことを示唆している。

 白か黒か、ハッキリしない曖昧さがサッカーの魅力と言えば魅力である。運が結果に及ぼす影響は3割と言われる。その何割かは審判の判定に委ねられる。50%だとすれば、審判の判定が結果に占める割合は15%だ。しかしこの数値は、VARに移行すれば大幅に減る。限りなくゼロに近づけば、3割と言われる運が結果に及ぼす影響も半減する。サッカーの競技性は、よくも悪くも一変する。

 映像を解析することで、判定が限りなく中立的になることは、悪いことではない。歓迎すべき話になるが、審判の判定に大きな影響を受けてきたサッカー史を振り返ると、一抹の寂しさを覚えることも事実。

 今回のユーロはそうした意味で新鮮だった。「オフサイド・ディレイ」ってどうなの? 近い将来、何らかの手が加えられることは確実だろうとか、突っ込みを入れたくなる瞬間は幾度となくあったが、準決勝のイングランド対デンマークのPKシーンは特別だった。ハリー・ケインがPKをあっさりと決める光景を画面越しに捉えると、時代に逆行する判定に対し、行き場のない不審の念に襲われるのだった。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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