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「ジャニーズ長男坊の責任感」か「テレ朝・日テレの報道談合」か──東山紀之発言の問題点

松谷創一郎ジャーナリスト
5月21日、テレビ朝日『サンデーLIVE!!』より。

ジャニーズ関係者として謝罪

「今回の喜多川氏に対する元ジュニアたちの勇気ある告白は、真摯に受けとめなければなりません。実際に被害を訴えられていることは、本当に切実で残念でなりません。未成年に与えた心の傷、人生の影響は計り知れません」

「心を痛めた全ての方々、本当に申し訳ありませんでした」

 5月21日朝、テレビ朝日『サンデーLIVE!!』でそう話したのは、ジャニーズ事務所に所属する東山紀之氏だ。ジャニー喜多川氏の性加害問題を取り上げた同番組で、東山氏はジャニーズ事務所の関係者として謝罪した。

 5月14日夜の藤島ジュリー景子社長の声明から、それは1週間後のことだった。その間、櫻井翔氏が月曜日のキャスターを務める日本テレビ『news zero』ではこの性加害問題を扱ったものの、櫻井氏は画面からフェイドアウトしいっさい言及することがなかった。

 東山氏はそうした事情についても簡単に触れた。

「この件に関しましては、最年長である私が口を開くべきだと思い、後輩たちには極力待ってもらいました。彼らの心遣いに感謝します」

 東山氏は、現在のジャニーズ所属タレントの最年長者として、しっかりと責任を見せたのだろう。そこにはウソはないように感じられる。

 筆者の取材では、当初ジュリー社長が声明を出す日は5月13日の夜(土曜日)が予定されていた。そして翌日(14日・日曜日)の朝にそれを受けて東山氏が『サンデーLIVE!!』で意見を表明し、そして月曜(15日)夜に『news zero』で櫻井氏も話す──そうした“シナリオ”であることをつかんでいた。

 だが、ジュリー社長の声明発表が日曜夜にずれ込んだために、その“シナリオ”が1週間ずれたと推測される。

テレ朝・日テレの“報道談合”の可能性

 ただ、この“シナリオ”内容に、あるいは“シナリオ”そのものに大きな問題がある可能性がある。なぜなら、出演する芸能人および芸能プロダクションが、複数の放送局の報道をコントロールした可能性が生じるからだ。

 事実、東山氏は「後輩たちには極力待ってもらいました」と話した。バラエティ番組や冠ラジオ番組などでこの一件を語ることは考えにくいので、その対象は報道・情報番組だと考えられる。そうすると、現在はジャニーズの所属タレントが出演するものは以下の4つとなる。

  • 日本テレビ『news zero』月曜:23時/櫻井翔(嵐)
  • テレビ朝日『週刊ニュースリーダー』土曜:6時/城島茂(TOKIO)
  • テレビ朝日『サンデーLIVE!!』日曜:5時50分/東山紀之(少年隊)
  • 日本テレビ『シューイチ』日曜:8時/中丸雄一(KAT-TUN)

 以上を踏まえると、東山氏が「待ってもらった」のは、櫻井氏と城島茂氏ということになる。このとき気になるのは、やはり他局である『news zero』の櫻井氏だ。

 前述したように、5月15日放送の『news zero』では、有働由美子キャスターが「この件については、番組で話し合って私が話します」と説明し、櫻井氏は画面から姿を消した。しかし、もしそれが東山氏と櫻井氏の密約、あるいはジャニーズ事務所の指示の結果であったとするならば、重大な問題が生じる可能性がある。

 なぜなら、特定の芸能プロダクションが、複数のテレビ局の報道をコントロールしていることを意味するからだ。より噛み砕いて言えば、東山氏と櫻井氏、そしてジャニーズ事務所が、テレビ朝日と日本テレビの“報道談合”をしていた可能性がある。「後輩たちには極力待ってもらいました」という発言は、その証左にほかならない。

筆者作成
筆者作成

「語るに落ちる」

 5月17日に放送されたNHK総合の『クローズアップ現代』では、地上波ではじめて被害を訴えるひとたちの映像が放送された。そのときはじめて肉声を聞くひとも多く、それはかなりのインパクトをもって受け止められたようだ。

 この番組ではもうひとつ大きなポイントがあった。そこに出演していた私・松谷創一郎が番組の最後で以下のように述べた。

「NHKもそうですが、とくに民放がいまも報道に抑制的であることはある種の共犯関係ではないか、と考えています」

「民放のテレビ朝日、フジテレビは特にそうですけれども、逃げないでちゃんと扱っていただきたいと思います」

『クローズアップ現代』2023年5月17日「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」

 この苦言がどこまで届いているのかはわからないが、テレ朝とフジがこの一件に及び腰で、まるで「ジャニーズ事務所の2軍」であることは、すでに言及していた(「ジャニーズ事務所・藤島ジュリー社長が『話したこと』と『話さなかったこと』」2023年5月15日)。ジャニーズタレントが出演する番組を担保にされていることで、テレビ朝日とフジテレビの報道がいまも抑制的なのは明白だ。ジャニーズ事務所にビビりあげた彼らは、完全に“自動忖度機”と化している。

 そして、はからずも東山氏の発言によって、ジャニーズ事務所のメディアコントロールも白日の下に晒された。日本テレビ『news zero』が、15日の放送でどのような話し合いを経て櫻井氏のコメントを控えたかはわからないが、その背景に東山氏と櫻井氏、そしてジャニーズ事務所による“報道談合”があるならば、それは大きな問題をはらんでいる。

 もちろん、日本テレビがそれを感知していなかった可能性もある。だとしたら、ジャニーズ側から巧みに介入され、“報道談合”の片棒を担がされてしまったことになる。過失かもしれないが、ここはしっかりと検証することが必要だ。

 この点については、『シェアーズカフェ・オンライン』の中嶋よしふみ編集長も昨日の段階ですでに言及しており、その記事は大きな注目を呼んでいる(「ジャニーズ事務所・東山紀之さんのコメントは、テレビ朝日と日本テレビによる報道倫理違反の可能性がある。」2023年5月21日)。

 筆者も、この問題がまだ大きく騒がれる前の3月末に、以下のように記している。

また、所属タレントの報道・情報番組への出演も効果を発揮している。現在であれば、日本テレビ『news zero』、テレビ朝日『サンデーLIVE!!』、同『週刊ニュースリーダー』などがそうだ。もちろん彼らの目の前でもジャニーズ事務所の不祥事は追及されなければならないが、現実的にそうしたことはなされない。報道機関としてそこまでの矜持があるならば、そもそもジャニーズタレントを報道番組に起用するはずがないからだ。

(中略)

現在、国会では総務省の行政文書が明らかとなり、放送局への圧力が取り沙汰されているが、民放が官邸や政府よりもずっと怖れているのは間違いなくジャニーズ事務所だ

「ジャニーズ事務所のメディアコントロール手法 「沈黙の螺旋」は破られるのか」『朝日新聞GLOBE+』2023年3月30日

 それは大げさでもなんでもなく、こうした現在を予想していたからだ。だが、その通りになってしまったことは残念で仕方がない。東山氏の「謝罪」はたしかに誠実な彼の本心かもしれないが、ジャニーズ事務所と民放テレビ局の癒着関係を明らかにしてしまった点において、「語るに落ちる」という印象だ。

 最後に──。

 この記事が公開された4時間後となる23時からは、日本テレビで『news zero』が放送される。月曜日なので、櫻井翔氏がキャスターとして出演予定だ。そこでジャニー氏の性加害問題を扱うかどうかはわからないが、櫻井氏がなんらかの発言をする可能性もある。

 はからずも今日夕方の定例記者会見で日本テレビ・石沢顕社長は「放送でもぶれずに堅持する」と明確に述べた(共同通信2023年5月22日)。報道機関としての矜持を示したことになる。

 われわれは今夜の『news zero』を注視しなければならない。

●追記

 結果的に22日『news zero』で、本件が扱われることがなかった。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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