SMAP解散以後の芸能界──ゆっくりと変化を見せつつある芸能人と芸能プロダクションの関係

2017年5月9日、ホコモモラ・デ・シビラのイベントに出席したのん(写真:MANTAN/アフロ)

 思えば2016年は、芸能界の問題が表面化した一年だった。もちろんその代表的な例はSMAPだが、『あまちゃん』などで活躍してきた能年玲奈(現・のん)が所属プロダクションとの衝突からテレビから姿を消す事態も見られた。

 SMAP解散を経て今年に入っても、芸能人の処遇をめぐって芸能界は注視され続けている。新たな問題が生じる一方で、そうした状況を改善しようとする動きもある。先日報じられたばかりの元SMAPメンバー3人(稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾)の独立も、同様の文脈で注目されている。

 今年の上半期に見られた芸能人と所属プロダクションの関係について、あらためて考える。

民放から消えた能年玲奈

 最初にとりあげるのは、現在は「のん」の名で活躍する能年玲奈の活動だ。昨年、所属プロダクションのレプロエンタテインメントからの独立をめぐって衝突した能年は、現在もNHK以外の民放局の番組に出演できない状況が続いている。

 だが、のん(能年)が主演声優を務めたアニメ映画『この世界の片隅に』は、昨年11月に小規模公開でスタートしながらも興行収入25億円を超す大ヒットとなった。それだけでなく評論家が選ぶキネマ旬報ベストテンで第1位となり、2月には、日本アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞を受賞した。それは、メガヒットを記録した『君の名は。』を押しのけての快挙だった。

 とは言え、それでものん(能年)は地上波放送になかなか出演できない状況が続いている。これまで所属してきたレプロが、テレビ局などに対して契約の継続を主張しているからだ。両者の衝突については、田崎健太の記事に詳しいが(「能年玲奈『干されて改名』の全真相 ~国民的アイドルはなぜ消えた?」)、現在もレプロの公式サイトに能年の姿が確認できるように解決にはいたっていない。

3月にオンエアされたLINEモバイルのCMののん。
3月にオンエアされたLINEモバイルのCMののん。

 だが、こうした状況でも昨年12月21日放送のNHK『あさイチ』にのんがゲスト出演した。NHKにとっての能年は、朝ドラ『あまちゃん』を大ヒットに導いた功労者だからだと考えられる。また、民放の“テレビ番組”からは締め出されてはいるが、3月にCMで民放放送に顔を見せた。それが「LINEモバイル」のCMだ。スマホユーザーの多くが使用するアプリを提供しているLINE社がのんを積極的に起用したことは、非常に画期的なことだった。

清水富美加の移籍騒動

 2月に突然生じたのは、清水富美加の移籍騒動だ。今年の上半期に起きた芸能ニュースでは、もっとも注目に値するものだろう。それは新興宗教団体・幸福の科学への出家でもあったが、芸能事業も手がける同教団への移籍とも捉えられる。

レプロの公式サイトには能年玲奈のページがまだ残されている。
レプロの公式サイトには能年玲奈のページがまだ残されている。

 このときに注視すべきは、清水の所属事務所が能年(のん)と同じレプロエンタテインメントだったことだ。清水のレプロに対するギャランティや扱いへの不満は、能年が訴えていたことと重なる点も多い。しかしテレビでは、清水とレプロの関係には触れても、能年がレプロに所属していたことは完全に黙殺されていた。

 最終的に清水とレプロの契約は5月に満了し、清水は晴れて幸福の科学に移籍することとなった。これがどのようにして解決にいたったのかは不明だ。なんにせよ、それはいまだに解決を見ない能年とは大きな違いである。

 ひとつ特筆すべきは、この清水の騒動を受けて、NHKが3月1日の『クローズアップ現代+』で「芸能人が事務所をやめるとき ~“契約解除”トラブルの背景を追う~」と題した企画を組んだことだ。厚生労働省の労働基準局や弁護士、そして芸能界の業界団体である日本音楽事業者協会(音事協)に取材したその内容は、契約問題に正面から切り込んでいった報道だったといえる。

公取委が腰を上げる?

 芸能界で相次ぐこうした問題について、かねてからその動向が注目されていたのは公正取引委員会だ。なぜなら、芸能人に圧力をかけて業界から締め出すことは、独占禁止法に抵触する事態ではないか、としばしば指摘されてきたからだ。

 そんな公正取引委員会が、今年の3月にひとつのアクションを見せた。『芸能人はなぜ干されるのか?』の著書があるフリーライターの星野陽平氏を招いてヒアリングをおこなったのである。公取委のホームページでは、その発表内容も公開されている(PDF「独占禁止法をめぐる芸能界の諸問題」)。

井坂信彦衆議院議員
井坂信彦衆議院議員

 これがどれほどの意味がある動きかは不明だが、昨年の筆者の取材に対し公取委は、「独占禁止法はあらゆる事業体が対象になります。参入妨害や排除など公正な競争を妨げる行為があった場合には、当然、対象になります」との回答をしている(『PRESIDENT』2016年2月29日号)。また、昨年、筆者がインタビューした井坂信彦衆議院議員(民進党)も「一度公取委には話を聞きたい」(拙著『SMAPはなぜ解散したのか』)と述べていた。

 アメリカや韓国と比べると腰の重い日本の公取委が、さまざまな世論を受けてやっと動き出しつつあるのかもしれない。

「芸能人の権利を守る」組織の発足

 最後に取り上げるのは、「芸能人の権利を守る」を目的とした日本エンターテイナーライツ協会(ERA)の発足だ。望月宣武・向原栄大朗・安井飛鳥・河西邦剛・佐藤大和の5人の弁護士によって立ち上げられたこの組織は、3つの方針を掲げている。それが以下だ。

  • 1:芸能人らの権利を守る
  • 2:芸能人らのセカンドキャリア形成を支援する
  • 3:芸能人らの地位を向上させる

 6月9日に行われたこの記者会見には、SKE48元メンバー・桑原みずきさんなど芸能人も出席し、5人の弁護士が質疑応答も含めてこの方針についてそれぞれ説明した。筆者もこの記者会見に赴いたが、30代が中心のこの5人は芸能案件を抱えてきた経験も多く、本人自身が芸能界に明るい様子も伝わってきた。

 また「芸能界」と一言でいっても、会見で地下アイドルの例が出されるなど、その裾野は以前とくらべると格段に広がったのが実状だ。今後は、現在強く問題視されているAV出演強要などとも結びついていくことが予想される(詳しくはERA公式サイト「【活動報告】記者会見のレポート」)。

2017年6月9日、「日本エンターテイナーライツ協会」発足の記者会見。
2017年6月9日、「日本エンターテイナーライツ協会」発足の記者会見。

 この会見では、ひとつ気になったこともある。それは取材に来ているマスコミがあまり多くなかったことだ。『オリコン』は記事にしたが、取材に来ていた新聞社は記事にしておらず、他は映画系の『シネマトゥデイ』と幸福の科学の2媒体などである。テレビカメラがひとつも入っていなかったように、テレビ局は基本的に黙殺姿勢だ。

 そういえば、SMAP元メンバー3人のニュースが発表された日に、フジテレビ『バイキング』にはERAの発起人でもある佐藤大和弁護士が出演(レギュラー)していた。それは、ERA設立発表からちょうど10日後のことだったにもかかわらず、番組が始まってからなかなか佐藤弁護士に話が振られることはなかった。3人の今後について熱心に議論されていても、司会者はけっして質問しなかったのである。

 専門家がいるにもかかわらず、そのような進行がなされることは非常に不可解だった。佐藤弁護士に話が振られたのは、番組が始まってから30分以上経ってから、やっと3人の番組の行方についてのことのみだった。番組が始まる直前、佐藤弁護士は「僕はコメントする機会があるかな(((^_^;)」とTwitterでつぶやいていたが、そのとおりになってしまった。

 なお、3人のニュースが報じられた朝、佐藤弁護士は以下のようなツイートもしている。それは「一般論」との断りもあるが、法律の観点から示唆的なメッセージでもある。

これは「一般論」ですが、芸能事務所を辞める際に「事務所を辞めたあと数年間は芸能活動を禁止する。」との契約(特約)の締結を強いられることもありますが、芸能活動を禁止することは、実質的に芸能活動の道を閉ざすものであり、拘束力はないと考えています。圧力も不当な圧力になるでしょう。

出典:佐藤大和弁護士のTwitter

 元SMAPの3人が、ジャニーズ事務所とどのような契約を結んでいるかはわからない。ただし、たとえそれが芸能活動を禁止する内容だったとしても、佐藤弁護士は効力がないと捉えている。

社会の見本となる芸能界

 筆者は、過去に多くの芸能人を取材してきた経験があり、ここ5年ほどは番組で共演することも多い。また芸能界の問題に取り組む根本的な動機は、高校時代の友人2人が芸能界に進んだことでもある。ファンとして日本の芸能界に強い興味を持つことはあまりなかったが、それゆえどこか冷静に芸能界と接することができた。

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 そうしたなかで感じ取ってきたのは、芸能人になるのはとてもリスキーだということだ。多くの芸能人は10代のうちから業界に入り、他の選択肢を捨てて仕事に取り組む。仕事が軌道に乗ればいいが、必ずしもそうではない。いや、ほとんどの芸能人は成功しないまま、業界を去っていく。

 スカウトされた10代のひとたちにとって、芸能界は一瞬とても明るい世界に見えるだろう。しかし、所属する芸能プロダクションがどれほど信頼を置けるところかどうかは、本人どころか親でもなかなか判断つかないはずだ。さらに地方出身であれば、親元を離れて身近なところに相談できる大人がいない環境になる。本人が内向的な性格であれば、なおさら不安定な状況となる。

 にもかかわらず少しでも名が出てしまえば、なかなか契約を切れない状況に置かれる。ダウンタウンの松本人志も、所属プロダクションからの移籍が可能なのは、とても売れているかまったく売れていないかのどちらかだと述べたように(フジテレビ『ワイドナショー』2016年2月19日)。

 また、成功せずに芸能界を離れようと思っても、学歴は低く、他の職歴もないケースが多い。大学進学率が50%を超える現在、芸能界に入るために大学進学しないといった決断が、人生の多くを左右してしまう。芸能界の根本的な問題はやはりここにある。この業界に入る者は、10代の段階で大きなリスクを採らされてしまう。

 そうした芸能人たちを「自己責任」と切り捨てるのは、無責任な社会以外のなにものでもない。加えて芸能界は、良くも悪くも注目されるがゆえに、特殊ではあるが象徴的に扱われる。芸能界が、日本社会のお手本として機能してしまう。SMAPのあの謝罪会見が、ブラック企業の問題と重ねられたように。

 海外に目を向けてみれば、韓国では芸能人と芸能プロダクションとの専属契約が、最長で7年と決められている。「奴隷契約」とも揶揄された芸能人の処遇が問題視され、2009年に同国の公正取引委員会が統一契約書とともに定めたのだ。昨年から今年にかけて、7年の契約期間を終えたガールズグループの2NE1や4minuteが解散し、BEASTやT-ARAからメンバーが脱退したのも、この取り決めがあったからだ。

 韓国芸能界がすべて良いというわけではないが、テレビ出演などの圧力を防止するJYJ法をはじめ(詳しくは「テレビで『公開処刑』を起こさないための“JYJ法”」)、急速に状況を改善しようとする動きが見られる。これは、芸能界がソフトパワーの源であると韓国社会が認識しているからにほかならない。

 日本の芸能界が韓国のような公正性を目指せるかどうか、SMAPの元メンバー3人の今後を注視しながら、社会全体で考えていく必要があるだろう。