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2017年・このK-POPがおもしろかった![ガールズ編:2]──エイリー、Red Velvetなど

松谷創一郎ジャーナリスト
Red Velvet「Rebirth」MVより

■20~16位

▼第20位:IMLAY X Laura Brehm「Daylight」

(YouTube: 約15.7万views/2018年1月29日現在)

 2016年から始まった、週に一回新曲を発表するSMエンターテイメントの企画「SM STATION」。2年目の2017年は、複数の無名海外シンガーをピックアップしたことが注目されます。具体的には、アストリッド・ホリデイ「New Beginning」シャーリ・タフト「Love Like You」がそうですが、このローラ・ブレームもそのひとりです。

 彼女は27歳のアメリカ人シンガーソングライター。YouTubeなどで楽曲を発表してきましたが、これまで目立った活躍はほとんど見られません。韓国のIMALAYプロデュースのこの曲は、スローテンポで非常に綺麗なメロディーライン。展開も鮮やかです。

 実験的かつ機会提供としての性格も強い「SM STATION」が、今後どういう方向に発展するかわかりませんが、SMエンタのこうした動きは非常に興味深いものです。音楽がインターネットで即座にグローバル展開する状況のなか、ここから大ヒットが生まれる可能性もあります。

▼第19位:エイリー「Atmosphere (Feat.Ailee)/Juncoco X Advanced」

(YouTube: 約10.3万views/2018年1月29日現在)

 IUなどとともに若手実力派の筆頭格であるエイリー。2017年はシングル「Reminiscing」を発表しましたが、もうひとつは週に一回新曲を発表する企画「SM STATION」への登場でした。曲はDJのJuncoco X Advancedによるもので、あくまでもフィーチャリングで、内容は完全にEDM。エイリーの特徴であるパワフルなボーカルは、このアップテンポのダンスミュージックにも見事にマッチしています。上手い人は何を歌っても上手いということですね。

 とはいえ、彼女の実力であればもうちょっと大ブレイクしてもいいのかなとも思います。IUやウンジ(A pink)、ヒョリンなど、若手の実力派歌手は他にも多くいますが、いまいちブレイクしきれていない印象があります。過小評価されているとは思いませんが、上手いプロデュースに巡り合っていないかもしれません。この曲をきっかけにして欲しいものです。

▼第18位:スビン「Circle's Dream」

(YouTube: 約43万views/2018年1月29日現在)

 これまで爆発的ヒットを生み出せなかったセクシー系ガールズグループのDal★Shabetですが、昨年末に4人のメンバーのうち3人が脱退し、実質的に解散状態となりました。脱退メンバーのひとりであるスビンは、2016年に「月」、昨年は「Strawberry」などを発表し、ソロ活動を活発化させていました。

 この「Circle's Dream」は、スローテンポの非常に簡素な曲です。サビの部分も、打楽器に合わせて「ダンララリリララ、ダンララリリララ~」と繰り返すだけ。デコレーションがほとんどなく、まるで呪文のようでもありますが、それが非常に心地良いのです。

 とは言え、彼女自身が今後どれほど伸びるかは未知数。ルックス的な良さはあるので、ソロになってブレイクするかもしれません。あるいは今年24歳とまだ若いので、新グループで活躍することも期待されます。

▼第17位:Red Velvet「Rebirth」

(YouTube: 約493万views/2018年1月29日現在)

 少女時代の後釜として期待されていたものの、後にデビューしたTWICEやBLACKPINKに大きく離されてしまったRed Velvet。日本デビューも噂されていますが、その人気はいまいち上向かず、むしろ2、3年前よりも落ちている印象です。

 そんななか、2017年は大きく勝負に出た年だったかもしれません。ミニアルバム2枚に2ndアルバム『Perfect Velvet』をリリース。Red FlavorPeek-A-BooなどMV曲も多く発表しましたが、その中でもっとも興味深かったのは「SM STATION」で発表されたこの「Rebirth」です。素晴らしいのは、ずばりMVの出来。

 その内容はすごくシンプルです。教室にひとりの男性(たぶん教師)が入ってきて、女子生徒たちが大喜びする光景がスローモーションで流されるだけ。しかし、これが非常に工夫に富んでいて、素晴らしいのです。前方にいるメンバー5人が喜んだり驚いたり、室内も明るくなったり暗くなったり、さらに彼女たちの心象がちょっとしたアニメで表現されたり、後ろでは他の生徒たちが意味不明にはしゃいだり、さまざまな工夫が凝らされています。3分40秒ほどのミュージックビデオですが、使われた映像はおそらく30~40秒ほど。これが1/7から1/8の速度で流されます。完全に演出の勝利。

 なお、Red Velvet自体は、一年間の活動を通して見ていると、正直なにをしたいのかちょっとよくわかりませんでした。コンセプトが揺らいでいて、SMエンタも迷っているのかもしれません。ただ、昨日、新曲「Bad Boy」を発表しましたが、これは良かったです。今年、ブレイクすればいいですが。

▼第16位:ブレイブ・ガールズ「Rollin'」

(YouTube: 約139万views/2018年1月29日現在)

 ポスト少女時代の座を狙って、2010年代前半には多くのガールズグループが誕生しました。2011年デビューの5人組のブレイブ・ガールズもそのひとつ。当初は少し売れましたが、2013年には活動休止。2016年に長いブランクを経て復活したものの、やはり売れず。さらに初期メンバー2人が脱退し、現在はデビュー時のメンバーがいなくなりました。つまり、完全に5人が入れ替わってしまったのです。

 2017年には、この曲を出してちょっと注目されたもののやはりヒットはしませんでした。しかし、これはすごくおもしろい曲で、サビの部分の高音ボーカルがすごく良いのです。ミュージックビデオは、特筆すべきことはありませんが、予算がないなりに雰囲気は創れているかなと思います。難点は、MVでもわかるようにダンスがダサいこと。こういうところがどうにかならないと、売れませんよね。

 なおメンバーの3人は、現在『アイドル・リブーティング・プロジェクト』というテレビ番組に出演中。なにをどうリブート(再起動)するんでしょうか。

■グループの解散と活動停止

 2009年に韓国・公正取引委員会が、芸能人の契約期間を最長7年と規定したことによって、昨今のK-POPグループは7年目やそれ以降にメンバーが脱退したり解散したりするケースが非常に目立ちます。2017年で言えば2NE1、SISTAR、Wonder Girls、miss Aが解散しました。また、少女時代とT-ARAも活動停止状態になりました。

 昨年の解散においては、最後に解散曲を発表するケースも見られました。2NE1、SISTAR、Wonder Girls(MV未発表)がそうです。スポーツ選手の引退試合みたいなものですが、実績があるからこそできること。惜別の意味も込めて、それらを紹介します。

▼2NE1「GOODBYE」

(YouTube: 約1993万views/2018年1月29日現在)

「バイバイ」という意味の曲ですけれども、解散するにはもったいないと思える素晴らしいアコースティックのバラードです。しかし、2NE1の解散については、仕方ないと思った人も少なくないんじゃないでしょうか。CLさんのグローバル活動に、ボムさんの不祥事、2016年にミンジは契約を更新せずに脱退済み(戦力外通告?)、さらにYGエンターテインメントの後輩・BLACKPINKの大躍進と、解散の理由は揃っていました。

 ひとつ残念だったのは、この解散曲にミンジが加わっていないこと。ミンジはなにも聞かされておらず不満を表明しましたが、CLさん曰くミンジのために創った曲だそうです。

 昨年は、CLさんの活躍もあまり見られなくて、ちょっと今後が気になります。ボムさんはネット配信動画で、虚ろな表情を見せるなど相変わらず危うい感じです。大丈夫でしょうか。

▼SISTAR「LONELY」

(YouTube: 約1535万views/2018年1月29日現在)

 SISTARのこの7年を振り返れば、前半は順調だったと思いますが、後半はエースのヒョリンが注目されすぎて、他のメンバーが埋没したという印象です。ヒョリンの能力が突出しすぎたんですよね。音楽的にもうちょっと工夫が欲しかったかな。

 なお4人はいまでも仲良しらしく、今後なんらかのかたちで復活もあるかもしれません。

▼少女時代「Holiday」

(YouTube: 約3255万views/2018年1月29日現在)

 昨年デビュー10周年を迎えた少女時代。6thアルバム『Holiday Night』を8月に発表しましたが、ヒットしませんでした。この曲も視聴数は約3000万程度で、もうひとつの「All Night」も1400万ほど。少なくはないけれどもTWICEやBLACKPINKの2億という数字と比べると、やっぱり寂しいものがあります。その一方で、ソロ活動がさらに活発化しました。列挙すると以下です。

 そして10月に、ティファニー・スヨン・ソヒョンの3人が契約を満了。スヨンが抜けるのはけっこう意外でした。ただ解散はせず、KARAと同様に活動停止状態になるようです。こうして2007年デビューのガールズグループ、少女時代・Wonder Girls・KARAの3組は、すべて活動しない状態となりました。

 ただ、今後復活する可能性もゼロではないとは思います。昨年、2000年前後に活躍したSMエンタのS.E.S.がデビュー20周年を記念して14年ぶりに再結成し、アルバム『Remember』を発表しました。MV曲「Paradise」は、30代半ばで子持ちがふたりいるメンバーたちが大人のパフォーマンスを見せています。少女時代もこういうかたちで復活する可能性は十分にあるでしょう。

▼T-ARA「What's my name」

(YouTube: 約451万views/2018年1月29日現在)

 昨年ソヨンとボラムが抜けて4人組となったT-ARA。7月にこの曲でカムバックしましたが、いまいちヒットしませんでした。悪くはないですが、MV曲としては特徴がない印象です。

 そして12月いっぱいで、メンバー全員の契約が満了し、所属事務所のMBKエンタを離れることになりました。今年に入り、MBKエンタが「T-ARA」という商標権を出願し、それに対して4人が特許庁に不服申し立てをしていると報道されました。メンバーと事務所は、どうも円満に契約を満了したわけではなさそうなのです。ちなみにMBKエンタの代表・キム・グァンス氏は「韓国芸能界のドン」と呼ばれており、KARAが所属事務所と揉めたときに第三者にもかかわらず騒動を治めた人物だと言われています。

 この件の先行きはまだ不透明ですが、文化体育観光部傘下の大衆文化芸術産業総連合会は、「T-ARA」商標権はMBK側にあるとする声明を発表しました。K-POPでは、男性グループ・BEASTが旧事務所を離れてからその名前を使えなくなり、HIGHLIGHTとして復活したケースがあります。今回は「第二のBEAST騒動」になると言われています。ともあれ、4人でT-ARAを続けるという意志はありそうです。

 T-ARAは、2NE1、4 minute、f(x)、Rainbow、Secretなどと同じ2009年デビュー組でしたが、この世代もf(x)以外は全部解散という状況。T-ARAの場合は、ウンジョンとジヨンは女優としてもポテンシャルが高いので、彼女たちは十分にソロ活動を続けられると思います。

■15~11位

▼第15位:Bolbbalgan4「Some」

(YouTube: 約1585万views/2018年1月29日現在)

 2016年にデビューした女性デュオ「ボルパルガン・サチュンキ」。その名前は、「赤いほっぺの思春期」という意味です。昨年も「ケンカした日」で16位にランクインしました。そのアコースティックサウンドは、カーディガンズなどスウェディッシュポップスを思わせる内容です。

 この「Some」も、彼女たちらしい明るいポップス。MVは金髪ウィッグをつけるなど遊び心もあっていい感じですね。昨年は他に「Fix Me」を発表し、「Lost Without You」ではラッパーのマッド・クラウンにもフィーチャリングされましたが、これらも含めて彼女たちは発表する曲すべてハズレなし。非常に安定感があります。グループアイドルが中心となっているK-POPでは、こういうデュオは売れにくい傾向がありますが、そうしたなかでなんとか大ヒット曲を生んでほしいと願ってやみません。

▼第14位:PRISTIN「WEE WOO」

(YouTube: 約2415万views/2018年1月29日現在)

 2017年3月にデビューした10人組のPRISTINは、昨年デビューしたなかでは、もっともヒットしたガールズグループかもしれません。昨年はこのデビュー曲と「WE LIKE」を発表。非常に順調な滑り出しです。この人気の背景には、メンバーの2人・ナヨンとキョルギョンが、2016年に 大人気だった期間限定ユニット・I.O.Iのメンバーとして活動していたこともあるのでしょう。

 「WEE WOO」は、やはり「TWICE以後」のK-POPを感じさせる内容です。かわいさをアピールしているのだけど、質的には男性に媚びるそれではなく、同性にもアピールするもの。「強さ-かわいさ」の軸があるとすれば、そこで絶妙なバランスを取っています。この微細な差異でオーディエンスの反応も変わってきます。2曲目の「WE LIKE」はいまいちヒットしませんでしたが、今年はさらなる飛躍が期待されます。2~3年後に大ブレイクする可能性がある筆頭格でしょう。

▼第13位:ODD EYE CIRCLE(今月の少女[LOOΠΔ])「Girl Front」

(YouTube: 約181万views/2018年1月29日現在)

 「今月の少女[LOOΠΔ]」は、これまでのK-POPでは見られなかった長期計画の12人組グループアイドル。2016年10月から18ヶ月間かけて毎月ひとりずつシングル曲をリリースし、さらに途中でグループ内ユニットも発表するというものです。現在メンバーは11人まで発表されており、今年中に12人完全体でグループデビューが予定されています。

 昨年も大量の楽曲を発表しましたが、総じてレベルが高いです。よくぞここまでクオリティを保てていると思います。そのなかでも光ったのが、キム・リプ、ジンソル、チェリによるセカンドユニット・ODD EYE CIRCLEの「Girl Front」でした。この曲はアイドルポップスでありながらも、ダンスミュージックとしても非常に面白い出来です。男性にあまり媚びないアプローチで、昨年はMV「Sweet Crazy Love」も発表しましたが、こっちはもっとクールな印象。

 一方ほかのユニットでは、4人組の「今月の少女1/3」がデビューしており、こちらも「Love&Live」「Sonatine」を発表。こっちはどちらかと言えば「可愛い系」で、ちゃんとアプローチを分けています。

 このように1年以上かけて仕込んできたうえで、今年の完全体がどういう結果を残すのか非常に注目されます。

▼第12位:コ・ナヨン「Stars」

(YouTube: 約4万views/2018年1月29日現在)

 2016年は、YouTube の再生回数が3.7万回ほどでしかなかったのに、楽曲が良いために4位にランキングしたコ・ナヨン。2017年もほとんど注目されませんでしたが、やはり彼女は実力派だと思わせる内容でした。

 この「Stars」では、その艶やかなヴォーカルをダンスミュージックに適用していますが、大正解でした。MVでは実際ダンスも披露していますが、非常に熟れていてこのへんにも才能を感じます。昨年はもう一つ「Clumsy」という曲も発表していますが、こちらも安定感抜群。

 問題があるとすれば、MVにも表れているように、パフォーマンスが簡素すぎることでしょうか。歌と曲が良いだけなら顔出しをする必要はないわけで、人前でパフォーマンスをするのであればルックス的なアピールが必要だと思います。もちろんこの曲ではセクシーさをけっこうアピールしているんだけど、そういうのはヒョナに任せればいいと思うんですよね。YouTubeのアクセス回数を見ると相変わらず5万にも達していないので、彼女の先行きは少し心配になります。ブレイクして欲しいんですけど。

▼第11位:ヒョリン(×チャンモ)「BLUE MOON (Prod. GroovyRoom)」

(YouTube: 約591万views/2018年1月29日現在)

 「K-POP・7年の壁」を越えられず、昨年5月をもって解散したSISTAR。そのメインボーカルを務めていたヒョリンは、韓国の若手歌手では間違いなくトップレベルの実力です。2017年は、「FRUITY (Prod. GroovyRoom)」など、他のミュージシャンとのコラボレーションを積極的に展開。SISTAR解散前に発表したこの「BLUE MOON」も、チャンモ(CHANGMO)と組んだものです。ハスキーなヒョリンのボーカルがEDMと上手くマッチしています。

 事務所との契約が切れた後、ヒョリンはどうも個人事務所を作った模様。これからセルフプロデュースでどこまで能力を発揮できるか楽しみですね。

(続く)

【2017年・このK-POPがおもしろかった![ガールズ編:1]──ヒョナ、Oohyo、イ・ヒョリなど】

【2017年・このK-POPがおもしろかった![ガールズ編:3]──TWICE、BLACKPINKなど】

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2016年・このK-POPがおもしろかった![ガールズ編:1]同[2]同[3]

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ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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