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【独自調査(4)】先生たちのリアルな声、学校再開でも休校でも問題は山積み

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
こうした何気ない授業風景も、いまは、ある地域と、ない地域がある(写真:アフロ)

 前回の記事に続いて、学校再開、あるいは休校について、わたしの独自調査(アンケート)に寄せられた、学校の先生たちの生の声をお届けする。1,896件の回答を集計し、自由記入欄にも約1,000通の意見が寄せられた。(以下、「学校再開または休校に関する緊急調査」をもとに作成。一部の表現は文意を変えない範囲で修正している。)

■子どもたちの学びの機会をどう守るか、先生たちも苦心

 前回の記事では、学校再開に伴って、子どもたちや自分に感染しないか心配という声をたくさん紹介した。昨日や今日などのニュースでも、和歌山県や東京都、高知県で、教員が感染した事例が報告されている。たとえば、「和歌山・紀の川市立中でクラスター 教員3人が新型コロナ感染」毎日新聞4/9。教職員は「死」のリスクと直面している、と前回書いたが、まさに現実のものとなっている。

 前回の記事:【独自調査(3)】学校再開、先生たちの苦悩、「死」のリスクと直面する現場からの声

 一方、休校(臨時休業)になったからといって、もちろん、いいことばかりではない。最大の問題のひとつは、児童生徒の心のケアができるかということ、あるいは、学びが続くかということだ。

 オンラインで児童生徒の様子を確認できたり、少しおしゃべりできたり、あるいは授業ができたりできるといいと、多くの先生たちも感じているが、現実には、その準備も環境も、多くの学校現場は整っていない。関連する声を紹介する。

学校再開はリスクしかありません。命を守るために、今は休校を延長し、オンライン授業をすすめるべきです。教育の転換期だと思います。子供たちのみならず、私たち、教員も命の危険にさらされます。

現実問題として感染者が増えているので休校はやむ無しと思いますが、学校で把握している家庭に問題がある(家庭内暴力やネグレクト)生徒の様子がわからず心配です。1日でも登校日を設けたいのが本音です。

早急に市町村、都道府県がWiFi及び家庭のオンライン授業を受けられる環境整備に必要なものを準備するべきだと思います。感染を恐れるために自主欠席をする生徒は、学習の機会と命を天秤にかけての行動です。教育を受ける権利と命の安全、両方を確保する方法は、オンライン授業しかないと思います。また今後においては、不登校の児童生徒や病院で通学ができない生徒など、幅広い教育を受ける機会が与えられることにも繋がります。この機会にオンライン授業への切り替えを強く要望します。

休校になったとき、

・タブレットやネット環境が整っていない家庭がある。

・子どもだけで過ごしている家庭もある。

・市教委が学校がGoogleアカウントをとることを認めてくれない。

などの理由から、オンラインで授業はできそうにない

各学校単位でオンライン授業を配信するのではなく、NHKのテレビ、ラジオなどで各学年向けや小学生向けの授業をテレビ配信することを提案したい。また、子どもたちは、休み期間中に何か作品づくり、自由研究、新聞づくり、読書などができるといい。

オンライン授業をするための設備なんて、現場にはない。世間は簡単にできるだろうと考えすぎ。そして四十人などで成立するはずもない。一方向なら可能。でも、そんなので小学生が受け続けられるはずもない

休校をする場合、子どもたちの学習をどう保障するのかが重要だと思いますが、今のところ対応が後手後手になってしまい、十分な対応ができていません。地域によっては、タブレットなどを使ったオンライン学習が行われていると聞きます。なぜ公立校の中でもこれほどの差が生まれてしまっているのでしょう。既に大きく平等性が失われてしまっていると感じます。このまま休校が数ヶ月続いた場合にどうするのか、どのように子どもたちの学習を保障するのか、文科省や教育委員会はすぐに方針を示していただきたいと思っています。

基礎疾患がある、医療的ケアが必要などの重度障害の子たちが通っている学校に勤めています。子どもたちの実態から「オンライン授業は無理がある」という声が職場では聞こえますが、私はそうは思いません。

本校では毎年、夏休み中に学校のことを思い出せるようにと、授業で出てきた歌や読み聞かせなどをCDにして配布してきました。保護者からは「夏休みのCDを聞くと子どもが生き生きとした表情を見せる」「覚醒が促され、活動への意欲が湧いているよう」などの声が多く寄せられています。zoomによる朝の会(夕方の会)だけでもやれたら、睡眠リズムや情緒不安定の改善にもつながるように思います。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 以下、妹尾コメント。こうした声に示唆されるように、大勢の先生たちが、オンラインでの交流や授業、あるいはしんどい家庭へのケアのことを気にかけている。ただし、いきなり授業をするのは教員側にとってもハードルが高いし、小学生の場合などは、集中して聴き続けるのも難しいかもしれない。

 まずは、児童生徒の様子の確認からでもウェブ会議等で行いたいというアイデアは、参考になる。わたしは、保護者のスマホ等を借りることがあってもいいと思うが、パソコンやスマホがない家庭に対しては、電話などでフォローをするなど、うまく使い分けたい。この危機のなかで、「みんな一緒」とはいかないことも受容しながら、できることを進める発想が必要だろう。プリントを渡しておしまい、では、子どもたちの学び上、厳しい子が多いと思う。

参考記事:【独自調査(2)】休校になって教師は何をする?なぜオンライン交流を始めないのか?

【休校でも再開でも重要な問題】日本の先生は、子どもたちのやる気を高められているか?

■このままでは学校が崩壊する、という声も

 学校を再開した地域では、非常に大きなストレスを感じている教職員もいる。とりわけ、副校長・教頭や教務主任、養護教諭らには、感染予防対策やカリキュラム(行事を含む)の練りなおし、教育委員会等との調整などで、大きな負荷がかかっている。ある校長は、わたしにこう話をした。「このままでは、教頭が倒れないか、本当に心配です」。

 また、持病もちの方や妊娠中の方が休みたいという場合もあり、そうした意思はなるべく尊重していくべきだろうが、かといって、平時でも小学校等ではギリギリの人数で運営しているので、たいへん苦しい現実がある。

 加えて、4月は配属、異動の時期である。先月まで学生だった方も新卒として先生になっている。小学校などでは新人教師でもいきなり学級担任であることがほとんどだ。新任も大きな苦悩と困難を背負っている。こうしたことに関連する声を以下に紹介する。

小学校で教務主任をしています。毎日様々な対応に追われて1日かけて変更した対応が、夜の会見ですべて無意味になることが繰り返されています。予定を変更し新たに作り直すと、すべて変更になり、振出しに戻るの繰り返しです。度重なる変更で教員もかなり疲弊しています。何となくイライラしていたり、逆にハイテンションだったりします。

教職員で出産間近の方がおり、夏休み前まで担任をお願いしていました。しかし、勤務自体をお休みしたいとの申し出がありました。出産を控えている方や、持病のある教職員は不安の中、勤務せざるを得ません。また、教職員が自主的に休みを取ることも考えられます。この視点は今まで取り上げてこられませんでしたが、非常に危機的な状況に陥ります。

一人担任が休むだけで立ち行かなくなるのが今の学校です。この動きが広がれば、学校が崩壊します。私の自治体では今週から学校が始まりますが、できれば休校にして欲しいというのが正直なところです。

新卒で今年度新規採用された者です。担任を持つことになりました。学校のシステムをまだきちんと理解できていない状態で不安なうえに、コロナの問題が重なりさらに不安です。全国の初任者はみなさん同じような思いなのではないでしょうか。

いじめなど人権にかかわる問題にも発展してしまうのではないかと心配しています(もちろん自分自身が指導していくところではあるのですが…)。とにかく不安で仕方がありません。

学校再開した場合、学校がクラスターになる可能性は高く、その地域の生活が成り立たなくなる。今は、家で休ませるべきだと思う。勉強は再開してからでも進められる話。

マスクを一日中しておける子どもがどこにいるか、声を出さずに一日過ごせる子どもがどこにいるのか、感染者が出た場合にあの子のせいで?と市内中から好奇の目で見られ、いじめられる子どもや家族をどう守れるのか、価値観がバラバラな現代において、すべての対応や、予防対策を教員だけで行うのは、無理な話である。

教員の自覚がなく、マスクをしていない人が多い。教員内の感染が心配。それよりも行事をどうするか等話し合っていることが多く、教員がコロナウイルスの危険性を理解していないことを常々感じる。

感染が東京と比べるとあまり広がってはいませんが、常にコロナウイルスへの対策を取りながら業務をしており、気が滅入っています。教育委員会からの通知をもとに、職場は動いていますが、委員会の通知が現場丸投げに近い形なため、不安やとまどいがあふれているのも事実かと思います。

■入試がどうなるかの心配も大きい。9月の学校再開を求める声も。

 新型コロナウイルスの感染が拡大している地域では、5月の連休明けまで休校としている例が多いが、そこまでに収束に向かうとは限らない。専門家のなかには、数か月や年単位となる可能性を述べる人もいる。

 このままでは、大学入試等で有利不利が出てしまうのではないかという声も寄せられた。地域間格差(休校する地域と、学校再開する地域)と家庭の教育力・経済力等による格差(自宅学習は家庭の影響が強く出やすい)の両方が広がる可能性が高い。

大学受験の子どもがいるので学校は再開してほしいという気持ちはあるが、生徒の安全には変えられないため、全国的に8月まで休校にし、年度始めを欧米諸国に揃えて9月にしてはどうかと思う。このまま地域によって授業日数に差がついた状態で大学受験を行ってよいのか疑問である。

オンライン授業を全国的にできるように進めるべき。現状でもできている所と、できないない自治体で差がついてしまう。

学習格差が広がることは懸念材料だ。大学入学共通テストも予定通りの時期で行うのか、非常に不安。

6月入試、9月入学などの措置を全国一斉にとってほしい。全国一斉でなければダメ。格差が広がる。

当座、今年度の学校年度開始を9月までのばして、そこからの1年間とすべき。もう始めているところは半年間の休校措置でよい。その間に、ICT環境など、双方向の遠隔授業が可能な状態を整備して、9月までにコロナが収束していない事態にも備えるべき。

写真素材:photo AC
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 以下、妹尾コメント。思い起こせば、いまの高校3年生は、大学入試改革が迷走し、センター試験に代わる共通テストで、英語の民間試験と記述式試験のいずれもが撤回となった子たちである。新型コロナの影響を見極めるのはだれにとっても困難なことだとは思うが、文科省と大学が早めに入試上の措置を発表しないと、また大きな混乱を生むことになりかねない。

■あまり報道されていない問題もたくさんある。

 最後に、次の問題は、報道などで見かける機会は少ないが、重要な指摘だと思うので、紹介する。

小学校6年生の未履修部分への対応問題。報道を見る限り、卒業式を実施して小学校の課程を修了したこととしてしまった。

これに対して小学校教諭の免許も小学校の内容を指導したこともない中学校教員が教えるということが全く問題にされていない

新学期が始まり、なにも授業をしていない状態で課題ばかり与えることに疑問を感じる。オンラインで授業を実施できる環境があれば良いが、私の自治体では厳しい。成績もつけることが難しい状態で1学期のほとんどが終わってしまうことが心配だ。

非常勤であるため、休校=収入0である。食い繋ぐために、派遣の日雇い労働を始めたが、肉体労働が多く身体がいつまでもつか心配です。

子供達の日々の生活と学習も心配事項です。この遅れをどのように取り戻すか。金銭に余裕がある家庭は塾や家庭教師をつけるでしょうが、貧困の家庭はそれも出来ません。この差が差別等のより深い問題に発展していくことに懸念しています。

 もちろん、この未曽有の危機のなかで、問題ばかり、不平ばかり言っていても、建設的ではない。だが、問題や現実の事実に目を背けていても、解決には向かわない。わたしの今後の記事ではどうしていくかも発信していきたいと思うが、今回の記事などでは、独自調査から見えてきた現実の一端を共有できればと思う。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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