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【学校の働き方改革のゆくえ】対症療法の策はいらない。抜本的な働き方改革とは!?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
文部科学省が入っているビル(筆者撮影)

文科省や中教審は、小手先だけの策を検討しているのか?

全国各地の学校の先生たちは、どう見ているだろうか。

最近、こんなニュースが次々と報じられている。

●学校の働き方改革の一環として、年間の変形労働制の導入を検討。

●新指導要領で、総合的な学習の時間の一部を民間のNPO等が担えるように。

 (教師の引率等は必要なし。)

●退職後の教員や企業経験者等が教員免許を失効していても、「臨時免許」で対応可能に。教師不足を受けて。

はじめに断っておくが、わたしは、これらについて反対なのではない。だが、おそらく多くの教職員の方、あるいは保護者や教師志望の学生さんたちはこういうニュースを見て、こう感じたのではないだろうか。

また小手先か

また対症療法か

まるで、大けがをした子どもに、ばんそうこうで対応しているかのようにも見える。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

対症療法では通用しない現実

このたとえを続けると、いまの小中学校の現場は”救急搬送”ものである。

国による大規模調査(教員勤務実態調査、2016年実施)によると、自宅残業を含めてラフに推計すると、月80時間という過労死ライン超えの教員は小学校で約6割、中学校で約75%にも上る。民間を含めてこんな業界はほかにはない。異常事態が続いているのだ。とても悲しいことだが、生徒思いの熱心な先生が病気となったり、最悪の場合、過労死となっている事案も多い。

小手先ではない、大本の議論とは、たとえば、こうである。

●働き方改革を抜本的に進めるには、教師の業務量を大幅に減らすこと。あるいはそれで足りないなら、教職員数を増やす策を考えること。

●学習指導要領の負担が重いなら、教育委員会の裁量で何かの教科の時間を選択して減らしてよいとすること。あるいは、教育委員会の権限で国が定める年間標準時数を多少下回ってもよいように改めることも必要ではないか?

●教師不足対策ならば、免許更新制そのものが必要なのかどうか、さらに言えば、教員免許制自体が限界に来ているのではないかということを念頭に置いた検討を進めること。

抜本的な働き方改革とは

おそらく、文科省や中教審の関係者のなかには、こんなことはとっくの昔に分かっている、という人もいると思う。だが、いくら考えていても、ちゃんと伝わっていないとすれば、本人たちの意図とは別に、検討状況の一部分だけが注目されて、教師になりたい人を減らすネガティブなニュースとして拡散しかねない。(もちろん、どんな対策にも功罪があるので、慎重に検討を重ねるのは大事だが。)

働き方改革の関係でいうと、中教審では、年間の変形労働制の導入だけを議論しているのでは、決してない。まだ確定的なことは言えないが、多くの委員は、学校や教師の業務量の大幅な削減が不可避だと考えていると思う(そういう発言は多い)。

ひとつ、ファクト(事実)、データを確認しておこう。

次の表は、国の大規模調査をもとに、週60時間以上勤務しており、過労死ライン超えの可能性の高い人の平日1日の使い方と、60時間未満の人のものとを比較したものだ。

画像

表中の黄色の箇所は、週60時間以上勤務の人とそれ未満の人で時間の使い方に比較的差が大きいものだ。

中学校教師の場合、授業準備、成績処理(採点などを含む)、行事、部活動、学級経営などが該当する(小学校のデータは割愛するが、部活動以外は似た傾向を示している)。これらは、忙しい人はより丁寧に長い時間やっているということなので、見直しの余地があると考えられるものだ。

また、表中の水色の箇所は、両者の違いは小さいが、1日に占める比重が比較的重い(時間が長い)ものを指す。小さいものをコツコツ改善することも大事だが、この水色の業務のように、ウェイトの大きなものにもメスを入れないと、大きな時間は生まれない。

年間変形労働を入れても、あるいは入れなくても、大事なことは、こうした色付けした箇所の業務を中心に見直しを図っていくことだ。つまり、大きなものにメスを入れて、教師の時間外を抑制・削減するとともに、授業の質を高めることといった本来業務にもっと時間をかけやすくすることが、本来の働き方改革である。

しかも、残業は多くても月45時間程度に抑制しようという話も出ている(中教審ではまだ確定はしておらず検討中)。こういう目標を見据えると、そうとう大ナタを振るわないと、時間は生まれない。詳しくは↓

【学校の働き方改革のゆくえ】教師にも月45時間内の残業上限が付くか?

教師の業務量削減の具体策は?

学校、そして教師の仕事を大幅に減らすためにはどうすればよいだろうか。個人的な考えとしては、次の策が必須だと思う。

1)部活動にかける時間の削減

中学、高校の時間外の要因の多くは部活動だ。これは調査データ上も明かである。

また、少子化と教員数減のわりには部活数は減っていない。部活数の縮小、精選は不可避である。

※多くの部活を持ち続けているので、やりたくもない人を顧問にさせないといけなくなるし、部活動指導員や外部指導者を多少配置しても足りないという事態となる。

大会、コンクールの見直し(数の削減やオフシーズンの設定等)も進めて、過熱化を抑制していくことも必要だ。

わたしは、部活をやめろと言っているのではない。部活動の教育効果は大きいとはいえ、欲張りに手広くやりすぎていないだろうか、また長い時間やりすぎていないだろうか、と問いかけている。本来、教師は部活ではなく、授業で勝負するものだ。

2)小学校教師の持ち授業コマ数削減

小学校は事情が異なる。6限目までずっと授業があって勤務時間内に仕事が終わりにくい。

1人の教師がもつ授業コマ数に上限を設け、空き時間を増やす(教員数の増が必要なので決して簡単ではないが)。

高学年などは教科担任制にして授業準備や教材研究の質(生産性)を高めるようにもしたい。

3)行事の見直しや採点等の業務改善

どの学校種も共通として、行事の見直しや採点・添削のIT・AI活用も必要だ。先ほどの表で分析したとおり、行事や採点等にかけている時間は大きい。

4)子どもの登下校時間の見直し

そもそも、教員の正規の勤務時間よりも早く児童生徒が登校している。客が来たからといって開店時間前に営業する店や病院があるだろうか?

保護者の理解を得て登校時間を遅らせる。あるいは教師も保育士のようにシフト制にするか、朝版の学童をするか、何らかの対策が必要だ。

5)授業以外の教育的な活動でのスタッフの配置

日本の教師ほどマルチタスクな国はない。学習指導に加えて、生活面での指導やしつけ的なこと、進路相談、場合によっては親へのカウンセリング、給食指導、清掃指導、部活動指導などなど。1人何役になるだろうか。

給食や掃除、休み時間中の見守りはランチスタッフ等を置いて、分業できるようにしたい。あまりにも学級担任に任せ過ぎている。

もちろん、残業削減じたいが目的ではない。その先が大事であり、授業の質を高めることや研鑽に時間をかけられるようにすることを忘れてはならない。だが、現状の、大勢が過労死ラインを超える事態は異常なほど深刻であり、上記の1)~5)をセットで、どれも進めないと、おそらくうまくいかない

今日は、小手先や対症療法ではない改革が必要という話をした。もちろん、ほかにもっといいアイデアがあれば、どんどん皆さんも出してほしいし、できることからやってみてほしい。働き方改革に特効薬はない。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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