【学校の働き方改革のゆくえ】教師にも月45時間内の残業上限が付くか?

教師にも月45時間以内などの残業規制を設ける動き

中教審(中央教育審議会という国の審議会)で、学校の働き方改革の議論が大詰めを迎えつつある。きょうも第17回目の会議、2時間40分も検討した。(会議が長いのは働き方改革の視点からもけっして褒められたものではないが、重要な検討事項が多く、これでも議論しつくせなかったくらいだ。)

保護者等にはまだまだ知られていないが、公立学校の教師には残業代は出ない。これは、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法という長~い法律)で規定されているためで、このあり方も、重要な検討事項のひとつとなっている。教師は「定額働かせ放題じゃないか」などの批判も強い法律だ。

だが、おそらく給特法のあり方以上に、重要な事柄が決まろうとしている。正式決定ではないが、今のところ、中教審の議論は、公立学校の教師に時間外勤務(残業)時間の上限の目安を国で設定しよう、という動きにある。しかも、その上限は、先般国会で働き方改革関連法が成立したことを受けて、民間企業等で時間外の上限となる「月45時間以内、年間360時間以内」を原則とすることを軸に検討が進んでいる

(写真素材 photo AC)
(写真素材 photo AC)

つまり、長時間労働の是正と多様な働き方を促進していくという、社会の流れから学校が取り残されないように、学校、教師もしっかり上限以内で仕事を終わらせる世の中にしよう、というわけだ。なお、企業等でも上記は原則であり、臨時的な特別な事情がある場合では年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定するとされている。が、今のところ、この例外規定のほうで教師もいい、という意見は、どの委員からも出ていない(わたしは原則のほうに即して考えるべきという意見は本日述べた)。

※なお、私立学校や国立大学附属学校の教師については、労基法が丸々適用されるのでこのテーマでは対象外だ。こうした方には上記の企業等と同様の規制が及ぶ。

月45時間以内ということは、夕方1時間程度残業か?

このため、まだまだ正式決定ではなく、今後の議論次第ではあるが、公立学校の先生の働き方も、月45時間以内、年間360時間以内に残業は抑えようという流れで来ている

これは、どういう意味、インパクト(影響)があるのか。

少し計算すれば分かるが、毎月の平日は22日前後あるので、1日あたり2時間程度しか残業はできない、してはいけない、ということだ。

しかも、教師というのは、朝が早い仕事だ。国の大規模調査である教員勤務実態調査(2016年実施)によると、小中学校の教師の平均的な出勤時間は朝の7時半。正規の勤務時間は8:15~16:45などの場合が多い(自治体により若干異なる)ので、朝すでに1時間近い残業はしている(授業準備や児童生徒の健康観察、見守り、欠席連絡への対応など)。仮に月45時間、年間360時間までしか残業できないとなると、夕方は1時間程度で切り上げよ、ということである。18時頃で退勤ということだ。かつ、平日2時間残業を続ける人の場合、土日は働いてはいけない。

繰り返す。ちょっと考えたら分かるが、これは相当高いハードルだ。なんせ現状では、月あたり80時間という過労死ラインを超えている人も非常に多いのが小中学校の実態だからだ。こういう人には、残業を半分以上削れと言われていることを意味する。

「教師なら、児童生徒のため、長時間労働でもやむなし」ではない。

この動きについて、世間や保護者はどう思うだろうか?教師自身もどう感じるだろうか?

様々なご意見があるだろうが、

  • 先生たち、残業規制ができたとしても、だからといって、早く切り上げられるものなの?
  • そんなので教育の質が下がっては、たまったもんじゃない!

という心配も大きいと思う。

また、「これは国による壮大な”ジタハラ”(時間短縮ハラスメント)だ」という意見もあるかもしれない。

こうした意見、声にしっかり向き合って対策を考えておくことも大事だが、もうひとつ考えたいことがある。教師は聖職という感覚で、「児童生徒のためなら、身を粉にして長く働いたらよい」という考え方もいかがなものか、ということを。

教師の長時間労働にはさまざまな弊害がある。詳しくは下記の記事に書いたが、教師が長時間労働では、豊かなインプットもできず、自己研鑽もどんどん細り、肉体的に精神的にも疲れきる人が多く出てきている。これでは、児童生徒のためにも、けっしてならない。

小学生に学校の長時間労働の問題、働き方改革の必要性を語ってみた

きょうの中教審でも相原委員がおっしゃっていたが、むしろ教師は、世の中から遅れをとるのではなく、最先端、フロントを行くというくらいでいたい。世の中全体が高生産性社会、育児・介護などがあっても働きやすい職場にシフトしていこうとするなか、学校も率先してそうなっていくべきだ。

残業規制を設けると、痛みも伴う可能性はある

とはいえ、月45時間以内などとなるには、社会としても、学校や教師の仕事を、いまの現状のままではなく、もっとスリムにしていくよう理解、協力していくことが必要だ。こう書くと、きれい事のように聞こえるが、言い換えると、改革には一定の痛みが伴う可能性もある

このことを私はペーパーを提出し、問題提起した。少し長くなるが、ここに一部抜粋しておく。※フルバージョンは文科省のウェブページで間もなく公表になる。

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○月45時間以内といった目標を学校に課すならば、教育行政としても、あるいは社会としても、大きな選択を迫られる。言い換えれば、どこかには痛みが伴うということを意味しているのではないか。

例えば、詳細は精査が必要であるが、次のことが必要となる可能性がある。

★部活動指導は、教育的意義は大きいものの、現行のスポーツ庁ガイドライン等以上に大幅に削減することを検討。これに伴い、オフシーズンの導入や大会の見直し等も必須に。

★給食、掃除、休み時間等に学級担任が見守る、指導するという、これまでの日本型教育の慣習を大きく見直すこと。教師がノータッチとはいかないが、サポートスタッフや地域人材等を入れることで、複数学級で一人の教師がみるように転換する。

★行事は既に精選している学校が多いが、準備時間を含めてさらなる見直しを。

★ICT等の活用や教委との分担等により、会議や事務の精選と効率化、また、採点・添削等の生産性向上を図ること。

★高校、特別支援学校には、小中学校にはない特有の課題もある。高校では進路指導業務の大幅な削減(例:朝補習の廃止、eポートフォリオの負担軽減)、特支では授業準備(独自に教材を作ることが多い)の効率化なくしては、目標達成できないのではないか。

○仮に、これらの改革・改善では限界があると言うならば、選択肢としては、教員定数を増やせるかどうか(特に小学校)が焦点となる。だが、どこから財源をもってくるのか?

出典:妹尾提出ペーパー

また、会議中に口頭で申し上げたが、朝1時間程度の残業を減らしたいのであれば、子どもたちの登校時間を社会全体としてもっと遅らせることを是認する必要がある。これには、もちろん、働く人、企業等の理解、協力も不可欠だ。あるいは、朝に子どもたちのケアをするスタッフを小学校等に配置していく必要があるが、そんな財源があるのかという話にもなる。

今後はこうした点も含めて、議論していきたい。いずれにせよ、社会も、教師自身も、日本型教育を見つめなおす、大きな分岐点に今ある。

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