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児童扶養手当の現況届の罰ゲーム 食事や相手の家への訪問回数まで報告?

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
写真はイメージです(写真:アフロ)

はっきりと人権侵害だと思う。控えめに言って「罰ゲーム」だ。毎年8月に、ひとり親が提供する児童扶養手当の現況届の件だ。

去年にも現況届について書かせてもらった(シングルマザーが8月に憂鬱になるわけ 役所の現況届、これでいいのか)。こうした問題化の結果、厚生労働省が動き、ひとり親が行政の窓口につながるための「支援」なのだから、「取扱いに遺漏のないよう特段の配慮」を市町村に求めるという成果があった(シングルマザー、手当をもらえなくても妊娠報告義務はある? 児童扶養手当の現状届の現状)。

とくに、郵送不可の自治体が多いことを問題にしたところ、今年から郵送可となった自治体も現れたようだ。同封された封筒を見て、ジーンとされたらしい。それはそうだ。

残念ながら去年私が取材した自治体は、「郵送を受け付けるところなんてあるんですか? 周囲の自治体にも確認してみます」と言ってくれたが、質問を含め、変化なしであった。

さて、今回私がニュースを書いたのは、「悪化」している自治体が現れたからである。

前夫との自宅の食事の回数

前夫が宿泊の頻度

自分が前夫の家に訪問するかどうか

これらは「偽装離婚」を疑っているというなら、100歩譲ろう。困ったときに前夫にも頼れなくするとは、シングルマザーの困難をより深くするとは思うが。しかし

交際相手と同居していますか?

自宅に定期的に訪問してきますか?(週に何回?)

あなたの自宅で食事をすることがありますか?(週に何回?)

あなたの自宅に宿泊することがありますか?(週に何回?)

あなたは交際相手宅に定期的に訪問していますか?(週に何回?)

あなたは交際相手から生計費の補助を受けていますか?

さらに

預貯金の額(就労金額が多い場合は任意)

親・兄弟姉妹・祖父母等からの支援で、現金はもちろんのこと、食料・生活雑貨・衣料の支援はありますか?

その他支援は、具体的に

思春期の時に、付き合っている相手のことを「どういう付き合いなの?」と心配されたひとはいないだろうか?

そのときには、「うるさいな。いくら親でもそんなことは放っておいてくれよ。もう大人なんだ」と思わなかっただろうか。

それを、大人になってからなぜ離婚したら、根掘り葉掘り、行政に相手のうちに行くかどうかまで聞かれなければならないのか?

ただでさえ離婚した身で、さらに手当てを受けているひとに、屈辱感を抱かせると思わないのだろうか?

児童扶養手当の何に関係があるのだろうか。

しかもこういった現況届は、離婚しているだけで収入制限を超えて実際に手当てを受け取っていないひとにも提出させているである。

つまり、離婚してただけで、お金ももらっていないのに、根掘り葉掘りプライバシーをほじくり返されている人がいるのだ。

現況届を出さないと、将来もしも必要になったときに、もらえませんからねと居丈高に念押しされた人もいる。

今年の7月にも、児童扶養手当を受けている女性宅に、夜間職員が「調査」に入り、タンスのなかまで撮影した事件が発覚した。女性は結果として、心を病んでしまった(シングルへの児童扶養手当を廃止せよ! 調査で鬱に追い込む現状とは?)。シングル女性の素行を監視しているようで、とても気づまりだ。このような調査に行くことがある旨を、明記されていた自治体もあった。

私が考える必要な設問は、以下のようなものである。

世帯を同一にするパートナーがいますか?

もしくは

誰かから金銭的援助を受けていますか?

そして記事にも書いたように、既婚、離婚、未婚、死別を問わず、子どもに手当てを出せばよいと思う。シングルになった女性への、罰であるとしか思えない。ぜひ、自治体は考えて欲しいものだ。

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武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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