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シングルマザーが8月に憂鬱になるわけ 役所の現況届、これでいいのか

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

8月は、シングル家庭がもらっている児童扶養手当の「現況届」を出す月である。

児童扶養手当は、平均就労収入が200万円にしかすぎない母子家庭をささやかに支えるものだ。

月に数万円の手当でも、母子家庭にとっては命綱の役割も担っている。

1.多くの場合、郵送不可

ところがこの現況届、自治体によって異なるのだが、まずたいていの場合、平日に仕事を休んでいかなくてはいけない。

なぜ郵送が不可なのか、この件では、国会質問がされたこともある。

子どもが熱を出して仕事を休むことも多い母子家庭で、平日に役所に行くのは大きな負担である。

さらに、せめて昼休みに行こうとしても、昼休みは受付不可の自治体もあるのだ。

シングルマザーは、仕方なく有給を取って、現況届をだしにいっている。

8月なのは、お盆休みを活用したらという、せめてもの配慮といえなくもないが…。

2.交際する異性がいないことも、届けななければならない

現況届の現物を見せてもらったなかで、一番驚いた市町村に、電話をさせて戴いた。

そこでは現況届に「異性との交友関係について」という欄がある。

結婚の予定がある、100歩譲って「家の出入りがある特定の異性がいる」という項目はまだよいとしても、

「家の出入りはないが、特定の異性とお付き合いしている」

「特定の異性とのお付き合いはしていない」

という項目まであるのだ。

同性との関係ならいいのか、ということが一瞬頭をよぎりかけたが、とりあえずは脇に置く。

なぜボーイフレンドとの関係まで詳細に役所に届けなければならないのか。

担当の方によれば、異性の家の出入りがあるならば、「婚姻に準じる」と考えるのが普通なのではないかとのことだった。

家に出入りしなければ、「ギリギリセーフ」。

交際しているひとがいないことまでも届ける必要があるのか、プライバシーの侵害という苦情は来ないのかと聞いてみたが、

「制度を利用するときに、その調査に合意してもらっていると考えています。後ろめたいことがなければ、答えることに躊躇する必要はないのではないですか? 困るのは、危ない方や受け取る資格がない方で、みなさん、ご理解されていると思います」

とのことだった。

3.異性関係を問われるのは、屈辱的である。

税金から手当てをもらっているから、それくらいの調査は当然であると思われる人もいるかもしれない。

でも、成人女性(男性もいちおう対象)にそこまで聞くのは、どうかと思うのである。

最近離婚した私の友人は、「収入があって、貰えないからいい」と断ったにもかかわらず、「規則ですから」と説明を強制されたそうだ。

「ご主人とよりを戻したら、すぐに報告してください」

「交際する人ができたら、すぐに報告する義務があります」

と延々といわれ、最後に

「収入制限があるから、あなたには手当は出ません」

苦労に苦労を重ねてやっと離婚が成立した晴れ晴れしい日だったにもかかわらず、貰えもしない手当てをめぐって、離婚女性は当然のようにこんな扱いを受けるのかと、屈辱感に打ち震えたといっていた。

貰っている立場であれば、もっと屈辱的だろう。

表記の再考を求めたい。

4.面会交流をすると「偽装離婚」に?

面会交流も記入する欄がある。

面会交流を促進する近年の風潮を反映しているのかと思ったら、事態は逆だった。

「普通は年に数回だし、月に1回くらいではないでしょうか? 週に何度も会っているなら、婚姻状態にあると判断せざるを得なくないですか?」

面会交流をすると、「偽装離婚」を疑われ、児童扶養手当の受給要件にもかかかわるとなったら、母子家庭は面会交流に躊躇わざるを得ない。

偽装離婚だという「タレコミ」の電話も、かかってくるそうだ。

安心して面会交流ができるように、こういうところも配慮を求めたい。

(取材に応じてくださった担当者の方に感謝します。今回、書ききれないことも多くありました。改めて記事にしたいと思います。また、現況届ほかに関して、問題や疑問をお持ちの方は、ご意見をお寄せいただけると幸いです。sendayukiあっとまーくgmail.com まで。あっとまーくを@に替えてください)。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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