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イラン製軍事ドローン、ロシアに工場設置し6000機生産・ウクライナ攻撃へ:米国報道

佐藤仁学術研究員・著述家
イラン製軍事ドローンでキーウに攻撃(写真:ロイター/アフロ)

攻撃側が優位な神風ドローン

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。

2022年10月にはロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃して、国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義を無視して軍事施設ではない民間の建物に攻撃を行っている。一般市民の犠牲者も出ている。11月に入ってからはイラン製軍事ドローンでの攻撃が激減したことから、英国国防省はイラン製軍事ドローンの在庫が枯渇したのではないかとの見解を示していた。12月に入ってからはロシア軍はイラン製軍事ドローンで電力施設にも攻撃を行いオデーサ近郊の150万人以上の市民生活に打撃を与えていた。さらにクリスマスシーズンも年末も大晦日でもロシア軍はイラン製軍事ドローン「シャハド136」と「シャハド131」を大量に投入してウクライナ全土に攻撃を行っている。1月の新年が明けてからも大量のイラン製の軍事ドローンによるウクライナへの攻撃は終わっていない。ウクライナ軍も迎撃を行っているが、ロシア軍のウクライナでの攻撃を支えている兵器の1つがイラン製軍事ドローンである。2月になってもロシア軍は毎日イラン製軍事ドローンでウクライナに攻撃を続けている。

そして2023年1月31日にはアメリカ商務省はイランの軍事ドローンを開発している企業など7団体に輸出規制を課した。これに対してニュ―ヨークのイラン国連代表部はロイターの取材で「イランの軍事ドローンは全てイラン国内で製造されているため、米国による制裁はイランでの軍事ドローンの開発に全く影響を与えない。このことはウクライナで迎撃されて破壊されているドローンで西側諸国の部品を使用しているドローンは、イラン製ではないことを強く示唆している」と語っていた。

そんななか、アメリカのメディア・ウォールストリートジャーナルはイランが設計した軍事ドローンをロシアに設置する工場え生産していくとロシア政府とイラン政府が協議を進めていると報じていた。新たにロシアに設置する予定のドローン工場ではウクライナ紛争で使用するためのドローン6000機を生産する予定で、イラン政府の高官が2023年1月上旬にロシアを訪問して建設予定地の視察も行っていた。工場はまだ建設されていない。

イランの軍事ドローンをロシアの工場で開発、製造するという報道はこれが初めてではなく、以前にもイギリスのメディアが報じていた。また2022年12月にはアメリカ政府もロシアとイランが合同でロシアでドローンに生産拠点を設置することを検討していると伝えていた。

6000機生産体制はウクライナ軍にとって脅威

今回のウォールストリートジャーナルの報道では6000機という具体的な台数まで報じられている。ロシア軍はほぼ毎日、イラン製の軍事ドローン「シャハド」でウクライナ軍の軍事施設や民間施設などを攻撃している。「シャハド」は標的に突っ込んでいき爆発するタイプのいわゆる神風ドローンなので、1回使用してしまったら爆発するので再利用はできない。また標的に当たる前にウクライナ軍に迎撃されて破壊されてしまうことも多い。そのため神風ドローンは何機でも必要であり、数が多いほど迎撃するのも大変であり、攻撃の威力も強いので脅威である。

現在、ウクライナ軍では人間の兵士が地対空ミサイルなどをもって迎撃している。またはトラックやバンなどの後方部に機関銃や地対空ミサイルを設置してドローンが飛来してくる場所に走っていき迎撃している。つまりウクライナ軍の対抗策も人海戦術であり、そのような迎撃しているウクライナ兵に大量の神風ドローンが突っ込んできたら、迎撃が間にあわない。神風ドローンは攻撃する側が優位である。

ウクライナ軍では2022年2月24日にロシア軍に侵攻されてから殺害したロシア軍の兵士の数、破壊した戦車、戦闘機など兵器の数をほぼ毎日公表している。破壊されたドローンの数は2022年2月から1年間で1950機程度である。実際にはもっと多いだろうが、ドローンは上空で破壊されてしまい、残骸が粉々になることが多いのでカウントされていないドローンを含めるともっと多いであろう。ウォールストリートジャーナルが報じているように6000機をロシアで生産して攻撃を行ってくるようになったらかなり脅威であり、ウクライナ軍の迎撃態勢も万全にする必要が迫られてくる。

現在、イラン製軍事ドローンはイランで製造されてロシアに納入されているが、ロシアで製造されるようになれば輸送コストも削減されるし、製造したらすぐに戦争で使用することができる。ロシアではロシア製の監視・偵察ドローン「Orlan-10」、「Eleron-3」などを製造している。また、イラン製軍事ドローン「シャハド」と同じようないわゆる神風ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」などロシア製の神風ドローンも既に製造して、ウクライナ軍への攻撃に使用している。

神風ドローンの開発や製造は大型ミサイルや、ドイツ政府が提供する戦車レオパルトのように複雑ではない。またそのような大型で精密な兵器と比べると開発、製造するのにコストも時間もかからない。工場にラインを設置して必要な部品が揃えば組立てて製造することができる。ロシアには既に攻撃ドローンを開発するノウハウを持っている企業も多いので、「シャハド」シリーズをロシア国内で開発するのも決して難しくはない。

▼イラン製軍事ドローン「シャハド136」

インフラ施設などにイラン製ドローンで攻撃
インフラ施設などにイラン製ドローンで攻撃提供:Press service of the State Emergency Service of Ukraine/ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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