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アウシュビッツに移送される9歳のロマ少女の貴重なショート動画・ドイツ系ユダヤ人が撮影してから80年

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ絶滅収容所博物館提供)

デジタル化されたホロコースト時代の貴重なショート動画

第2次大戦時にナチスドイツが約600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯、同性愛者などを殺害した。ポーランドに設置されたアウシュビッツ絶滅収容所では約110万人が殺害された。ホロコーストで殺害された約5人に1人がアウシュビッツで命を落とした。アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも博物館としてホロコーストの悲惨さを伝えており、世界中から観光客が訪問している。

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではX(旧ツイッター)でも情報発信を行っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館のX(旧ツイッター)では、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかを投稿している。大量にある犠牲者の写真の他にも文書、遺品などをデジタル化して保管しており、それら貴重な歴史的コンテンツを毎日X(旧ツイッター)で世界中に発信している。

撮影したのはオランダに避難してきたドイツ系ユダヤ人カメラマン

2024年5月19日には、80年前の1944年5月19日にオランダのウェストボルグ中継収容所からアウシュビッツ絶滅収容所に移送されて殺害された9歳のオランダ系ロマ(ジプシー)の少女アンナ・マリア・シュテインバッハ氏が移送される貨物車に乗せられドアを閉められる直前の動画を公開していた。

この動画はナチスドイツによるロマ(ジプシー)の迫害と殺害やホロコーストを紹介する動画や資料の1つとして掲載されることが多いので、日本人でも見たことがある人もいるだろう。欧米やイスラエルではとても有名はショート動画の1つである。

現在ではスマホで誰もがすぐに動画を撮影して編集して簡単に共有したりネットに公開したりできる。だが、80年前のナチスドイツ支配下のオランダの中継収容所でこの10秒程度のショート動画が撮影されたことはかなり貴重である。この動画はユダヤ系ドイツ人のカメラマンのルドルフ・ブレスラウアー氏が撮影した。

ルドルフ氏は1903年にドイツのライプツィヒで生まれたがナチスドイツの台頭によるユダヤ人迫害で1938年にオランダに逃げてきたが、オランダもナチスドイツに支配されるようになり、1944年秋にはルドルフ氏も家族とともにアウシュビッツ絶滅収容所に移送されて殺害された。

アウシュビッツ絶滅収容所の博物館では記憶のデジタル化を積極的に推進している。Xでの情報発信もデジタル化の取り組みの1つである。アウシュビッツ博物館では新型コロナ感染拡大前からオンラインやバーチャルでの展示に注力していた。仮想現実(VR)技術で紹介したり、オンラインで展示をしてホロコースト教育の教材を提供したり、パノラマで展示をしたりしている。

このショート動画もデジタル化されて現在では世界中の人が視聴することができる。ルドルフ氏が1944年5月にオランダのウェストボルグ中継収容所で撮影した10秒程度のロマ(ジプシー)の少女のショート動画は、21世紀の現在でもナチスドイツによるロマ(ジプシー)迫害と殺害のシンボルのような動画としてよく紹介されている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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