イスラエルのヤド・バシェム:オンラインでホロコースト映画を視聴&レクチャーするプログラム提供
第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・バシェムという博物館がある。
ヤド・バシェムには約490万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの100万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。ヤド・バシェムのデジタル化されたコンテンツは欧米やイスラエルのホロコースト教育で多く活用されている。
大量に存在する「ホロコースト映画」と記憶のデジタル化
そのヤド・バシェムでは2024年5月から毎月1回、オンラインでホロコースト映画の上映会と専門家によるホロコースト時代の歴史や当時の生活などの解説を行う。オンラインなので世界中から視聴することは可能だがヘブライ語でしか提供していない。
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではないのだが、ヤド・バシェムが提供するようなオンラインでの映画視聴の教材は大量にある。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶力も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約20万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画やテレビドラマはホロコーストの記憶を後世に伝える「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つだ。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画やドラマの視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画やドラマをよく観るという大人も多い。また小説や本として読むのは大変だが映画やドラマなら見てみようという人も多い。
1人でアマゾン・プライムやネットフリックスなどでホロコースト映画を観ていると気が滅入って途中でやめてしまう人もいるが、何人かのグループや教室などで他の人と一緒に視聴するとホロコースト映画でも最後まで視聴することができるという人もいる。そのためヤド・バシェムが提供するオンラインでのホロコースト映画を視聴してレクチャーを受けるプログラムも、1人では最後までホロコースト映画を観ることができないという人にも向いている。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのはデジタル化された映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって映画やドラマの果たす役割は大きい。