Yahoo!ニュース

オーストラリア 子供向けオンライン研修でヒトラー登場し「偉大な指導者の特徴は?」炎上・謝罪へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:Shutterstock/アフロ)

子供向けリーダー研修の教材にヒトラーの肖像画とナチスドイツのカギ十字

オーストラリアのビクトリア州で子供向けのオンラインでのリーダー研修で、ナチスドイツの総統だったヒトラーの肖像画とナチスドイツのシンボルのハーケンクロイツ(カギ十字)が登場し、ネットでも大炎上してビクトリア州政府の財団が謝罪した。

オンラインで5月13日に開催された子供向けのリーダー研修で、ヒトラーの肖像画とカギ十字が登場すると「偉大なリーダーの特徴は何でしょうか?」という質問が登場してきた。この研修はビクトリア州政府のギャンブリング財団の主催で、オーストラリアの民間の教育企業Sports and Life Trainingが提供していた。オンライン研修やセミナーでは、外部からの参加した人が悪意をもって、そのようなコンテンツを出して、民族憎悪を煽ってしまうことがよくあるが、今回のヒトラーとカギ十字は参加者が出したのではなく、教材の中に最初から入っていたようでネットでも炎上していた。

オーストラリアの反ユダヤ主義と戦うユダヤ団体の名誉毀損防止委員会のドヴィル・アブラモヴィッチ氏は「ヒトラーが偉大な指導者(リーダー)だったと子供たちの研修で教えられたことは、あまりにも酷いことだし、非常識だ」と怒りを表明していた。さらに「教材として最初から組み込まれていたら、そのようなコンテンツから子供たちを防衛することもできませんし、ホロコーストでユダヤ人ら600万人以上を殺害したナチスドイツの総統を尊敬の対象とするようなカリキュラムは信じられないです。ホロコーストの犠牲になった方々に対して、とても失礼です」と語っていた。

ギャンブリング財団のCEOのサム・ルーカス氏は「あり得ないことで不適切でした。攻撃的であり多くの人にとって思い出したくもない写真でした。大変申し訳なかったです。決して我々はヒトラーが理想的なリーダーであると思っていません。決して未来のリーダーたちにそのような攻撃的な人になって欲しいとも思っていません」と謝罪した。同財団は研修を委託した民間の教育企業に以前に、そのような写真は削除するように指示していたが、削除されていない古い資料を使ったのが原因だったようで「しっかりと教材の書き換えが確認されるまではプログラムを再開しません」と述べていた。

「ヒトラーやナチス、ホロコーストを想起」はセンシティブ

今回、ヒトラーの肖像画とカギ十字が登場したのはオーストラリアだったが、ドイツなど欧州の諸国では600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯を殺害したナチスドイツのシンボルのハーケンクロイツ(カギ十字)やナチスドイツや総統のヒトラーを想起させるものを掲げたりすることはナチス禁止法で禁止されている。公共の場でナチス式の敬礼も禁止されている。

日本人にとってはあまり馴染みがないかもしれないが、欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人はSNS上でもヘイトスピ―チや民族憎悪の対象になりやすい。そのため、ヒトラーやナチスドイツを想起させるものだけでなく、ホロコーストを想起させるような商品に対しても非常にセンシティブである。過去に何回もそのような商品が販売されて、世界中で抗議の声が上がりネットで炎上したことがある。2016年10月には日本のアイドル欅坂46がナチス風の衣装を着てコンサートを行った際には、「2度とホロコーストの悲劇を繰り返さない」という強い信念を持って全世界の反ユダヤ主義やナチスに関わる動向を監視しているサイモン・ウィーゼンタール・センターがプロデューサー秋元康氏とソニー・ミュージックに対して強い怒りを露わにし、謝罪を要求していた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事