ホロコースト生存者の父が娘と冷戦後に故郷ポーランドを訪問する映画「Treasure」
2023年に制作された映画『Treasure』が2024年に公開されていく。1999年に出版されたオーストラリア人の作家リリー・ブレットの小説「Too Many Men」がベースになっている。
冷戦後の1991年にアメリカに住んでいるホロコースト生存者の父がジャーナリストの娘と幼少時に生活していたワルシャワとゲットー跡地を訪問するストーリー。
▼「Treasure」オフィシャルトレ―ラー
冷戦終結後に多くのホロコースト生存者がかつての東欧の故郷を訪問した証言の多くがデジタル化されて後世への記憶として継承
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
「Treasure」はいわゆるホロコースト映画の一作品であるが、従来のホロコースト映画のように絶滅収容所での残虐シーンよりも過去の思い出に接しながらコメディタッチに描かれている。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。「Treasure」も基本的には小説がベースになっているフィクションである。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画は「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つだ。
映画「Treasure」でもホロコースト生存者の父が娘とナチスに迫害されていたワルシャワを40年以上ぶりに訪問して、当時のことを思い出すという「記憶」がモチーフになっている。またホロコースト生存者が何十年以上経って生まれ育った故郷を家族らと再訪することは多い。現在はホロコースト生存者が高齢化が進んでしまったためなかなか旅行に行くことができない。だが、冷戦が1989年に終結して旧東側諸国にも行きやすくなる1990年代はまだホロコースト生存者も心身ともに健康な方が多かった。そのため、多くのホロコースト生存者が故郷だった東欧に足を運んでいた。その時の記憶や思い出を後に語りデジタル化されている証言も多く歴史研究の観点からも貴重である。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。