87歳のアウシュビッツ所長の息子が父に向き合い元囚人のユダヤ人と対面するドキュメンタリー映画
2024年に制作されたドキュメンタリー映画『The Commandant's Shadow』が2024年5月に米国で公開された。アウシュビッツ絶滅収容所の所長だったルドルフ・フェルディナント・ヘスの息子で87歳になるハンズ・ユルゲン・ヘスが登場。
アウシュビッツ絶滅収容所に隣接されたヴィラで平和な幼少時を生活していたハンズ・ユルゲン・ヘスがアウシュビッツ絶滅収容所所長だった父と初めて向き合い、アウシュビッツ絶滅収容所に収容されていたホロコースト生存者と対面するドキュメンタリー映画。
▼「The Commandant's Shadow」オフィシャルトレーラー
ホロコーストの「記憶のデジタル化」として貴重なドキュメンタリー映画
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
「The Commandant's Shadow」はアウシュビッツ絶滅収容所の所長の息子で87歳のハンズ・ユルゲン・ヘスが登場したり、アウシュビッツ絶滅収容所の生存者が登場したりする史実に基づいたドキュメンタリー映画である。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約20万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。ホロコースト映画は「ホロコーストの記憶のデジタル化」にとって重要なツールの1つである。
「The Commandant's Shadow」はアウシュビッツ絶滅収容所の所長の息子でホロコースト時代のアウシュビッツ絶滅収容所のことも所長だった父ヘスのこともよく知っている87歳のハンズ・ユルゲン・ヘスが登場し、当時の記憶や思い出を後に語りデジタル化されている証言も多く歴史研究の観点からも貴重である。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。
アウシュビッツ絶滅収容所博物館の公式SNSでは本映画の公開に際して「過去に起きた真実に誠意に向き合うこと以外に和解は起こらないことをこのドキュメンタリー映画で理解できます。過去に真剣に向き合うことによって同じ悲惨な歴史を繰り返さないで、よりよい将来を作ることができます」とコメントしている。
▼ルドルフ・ヘスの息子がアウシュビッツ絶滅収容所の生存者と対面することを伝える米国の報道