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ハリウッドのストライキはメーガン妃のNetflix契約にも影響を与えるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
メーガン妃も現在ストライキ中の全米映画俳優組合の一員(写真:ロイター/アフロ)

 全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキを始めて、丸10日。労働条件の交渉相手である、メジャースタジオや配信会社を代表する全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)とは、スト開始以来、話し合いのテーブルについてもおらず、険悪ムードは高まる一方だ。

 俳優たちはAMPTPに対して抗議をしているわけなので、ストライキの間、敵を助ける活動はできない。つまり、AMPTPが代表するスタジオ、テレビ局、配信会社がかかわる作品の撮影、製作準備、リハーサル、宣伝活動、今後の出演交渉などは、一切許されない。

 それはつまり、メーガン妃とNetflixも、今後のプロジェクトについて話し合いができないということ。ハリー王子と結婚する前、「SUITS/スーツ」などテレビドラマに出ていたメーガン妃は、もちろんSAG-AFTRAの組合員である。そしてNetflixはというと、今回のストライキが「Netflixストライキ」と呼ばれるように、今やAMPTPにおける中心的な存在だ。

 メーガン妃とハリー王子は、2020年9月、ドキュメンタリー、映画、子供向け作品など複数のプロジェクトを製作することでNetflixと契約を結んだ。契約の規模は1億ドル(およそ140億円)とされる。その1本目として昨年末に配信開始した6話構成のドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」は、酷評されながらもアクセス数は好調で、ヒット作となった。

 しかし、その後はさっぱりなのだ。メーガン妃が企画したアニメーションシリーズ「Pearl」は、製作準備中だった昨年5月、キャンセルされることが決定。ハリー王子が手がけたドキュメンタリーシリーズ「Heart of Invictus」もキャンセルかとの噂が出たが、Netflixは否定し、「2023年の夏に配信予定」と述べたものの、2023年夏ももう半分が過ぎている。メーガン妃が南アフリカの女性たちに安全な出産について教えるドキュメンタリーの案が出ているとの報道も聞かれたが、これまた定かではない。

「ハリー&メーガン」はヒットしたが…(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex/Netflix)
「ハリー&メーガン」はヒットしたが…(Courtesy of Prince Harry and Meghan, The Duke and Duchess of Sussex/Netflix)

 メーガン妃とハリー王子は、知名度こそあってもアイデアが乏しく、次々に面白いことを生み出していく能力はないという事実に気づいたSpotifyは、先月、夫妻と結んでいた2,000万ドルと言われる契約を解消した。「次はNetflixか?」とささやかれると、Netflixの広報担当者は「私たちは(メーガン妃とハリー王子のプロダクション会社)アーチウェル・プロダクションとのパートナーシップに価値を見出しています。これからも数多くの作品を一緒に手がけていきます」と述べている。しかし、それは本音だろうか。もしそうでなければ、このストライキはNetflixにとって契約解消のチャンスだ。

 ストライキは間違いなく厄介ながら、メジャースタジオやテレビ局、配信会社は、過去に結んだ長期契約から抜け出して経費を削減できるメリットもあると見ている。契約の中にはたいてい「不可抗力の事態が起きた場合、契約を解除できる」という条項があり、ストライキはそこに当てはまるからだ。

 とりわけ、配信ビジネスが置かれた状況は、メーガン妃とハリー王子がNetflixと契約を結んだ3年前から大きく変わった。今、配信各社は、その頃のように会員数を増やす目的でお金をどんどん使ってひたすら作品を作ろうとするのでなく、収益を出さなければというプレッシャーを抱え、いろいろな部分を見直している。作る作品や予算は吟味されるようになり、スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス、マイケル・ファスベンダーが出演予定だったナンシー・マイヤーズ監督の映画も、お金がかかりすぎるという理由で却下されてしまった。ストライキがいつまで続くかは誰にもわからないが、その前から良いアイデアが出なかったのに、話し合いもできない時間がひたすら過ぎていく中でも、Netflixはアーチウェル・プロダクションとのパートナーシップに価値を感じ続けるだろうか。

ハリウッドの大物は夫妻とお近づきになるのを避けている?

 メーガン妃とハリー王子をめぐる状況も、少し前とは違ってきている。オプラ・ウィンフリーによる独占テレビインタビューでイギリス王室の人種差別を訴えた時にはアメリカ人から同情が寄せられたが、発言が事実と違うとわかっていくうちに、ふたりの好感度はアメリカでも大きく低下してきた。そんなふたりと組んで自分のビジネスに利用したウィンフリーの人気も下がり、昨年夏、Ranker.comが行った「最もイラつくセレブ」投票では、首位をメーガン妃、2位をハリー王子、3位をウィンフリーが獲得している。ウィンフリーは長年アメリカで絶大に愛されてきた人物だけに、これは相当にショックだったはずだ。

 今年1月のウィンフリーの誕生日パーティには、ジェニファー・ロペス、シャロン・ストーン、キム・カーダシアンなど大物女性セレブが集まったが、メーガン妃は呼ばれていない。「News Nation」のポーラ・フローリッチは、ハリウッドの大物はメーガン妃夫妻とお友達のように見られるのを避けていると語っている。イギリス人に敬愛されるウィリアム王子やキャサリン妃の悪口を言って稼いだふたりのお友達だと見られると、自分の映画やテレビがイギリスで良く受け入れてもらえないかもしれないからだ。

 都合の悪いことをバラされる恐れもある。ハリー王子は、回顧録「Spare」に、コートニー・コックスのホームパーティで冷蔵庫にあった違法ドラッグを使ったと書き、コックスは必死になって自己弁護するはめに追いやられた。誰もそんな目には遭いたくない。

ハリー王子の回顧録は、この夏最も捨てられた本

 ところで「Spare」といえば、今年1月に発売されてベストセラーにはなったが、この夏、一番捨てられている本なのだそうだ。「Express」が報じるところによると、スペイン、ギリシャ、トルコなどのホテルの部屋、プールサイド、海辺などには、バカンスでやってきた人たちが置きっぱなしにしていったこの本が非常に目立つのだという。記事の中で、旅行業者オン・ザ・ビーチのチーフ・カスタマー・オフィサーは、「こんな状況は見たことがありません。人気のリゾートの忘れ物管理室はこの本だらけなんですよ。最初は面白がっていましたが、そのうちホテルが私たちのところに本を送ってくるようになって、もう送らないでくださいとお願いしています」とコメントしている。

 つまり、話題につられて買いはしたが、何度も読みたいとか、ずっととっておきたいと思わせるものではなかったということだろう。ハリー王子はその出版社とも複数プロジェクトの契約を結んでいるし、メーガン妃も本を書くことを考えていると過去に報道されている。ここからも契約を切られないように、ストライキ中はすばらしい本のアイデアを出すことに専念してみるべきか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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