Yahoo!ニュース

ハリー王子とメーガン妃、Spotifyから契約を切られる。Netflixは大丈夫か?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

 ハリー王子とメーガン妃が思わぬピンチに直面した。メーガン妃のポッドキャストを配信してきたSpotifyから、契約を切られたのだ。

 アメリカ時間16日、Spotifyと夫妻のアーチウェル・オーディオは、「Spotifyとアーチウェル・オーディオは、契約を解消することでお互いに合意しました。これまで一緒に作ってきたシリーズを、私たちは誇りに思っています」と共同声明を発表。それは聞こえは悪くないが、実はその2日前、イギリスの王室エキスパート、トム・バウアーが、Spotifyが契約解消を求めてきたと発言しているのである。バウアーはまた、夫妻が結んだもうひとつの大型契約の相手であるNetflixとの関係も危ないのではと示唆した。両社とも、現在、大幅なコスト削減を強いられているところだからだ。「それは彼らにとって問題になるかもしれませんね。お金が入ってきませんから」と、彼はコメントしている。

 夫妻との契約の金額は具体的に明かされていないが、Spotifyは2,000万ドル(およそ28億円)、Netflixは1億ドル(およそ141億円)と言われている。いずれも複数の作品を想定してのものだ。しかし、Spotifyでは、メーガン妃が主宰するポッドキャスト「Archetypes」を1シーズン制作しただけで終わってしまった。

 しかも、そこまでにも相当に時間がかかり、Spotifyをやきもきさせているのだ。契約を結んだのは2020年12月だったのに、第1話がデビューしたのは2022年8月だったのである。そして、期待に応える成績を出せなかった。第1話にはメーガン妃と親しいセリーナ・ウィリアムズがゲスト出演し、見事、ポッドキャスト部門で首位を獲得したものの、その後は次第に人気が落ち、11月に配信された最終回は22位。その頃までにはポッドキャストの競争が激化し、Spotifyにとっても足を引っ張る部門になってしまった。Spotifyは今年はじめに社員600人を解雇し、今月もさらに、ポッドキャスト部門のスタッフを含む200人を解雇すると発表している。そんな状況で、人気がないのに契約金だけはバカ高いシリーズをカットするのは、企業として当然のことだろう。

 Netflixも昨年450人をレイオフし、製作予算を見直すべく、進行していたいくつかのプロジェクトをキャンセルした。その中にはメーガン妃が製作総指揮を務めるアニメーションシリーズ「Pearl」も含まれる。昨年末にデビューした6話のドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」は、酷評を受けたことが逆に人々の興味をそそってか、話題になり、ヒットはした。次はハリー王子が顔出しもするというドキュメンタリー「Heart of Invictus」が進められているようだ。 その後にはメーガン妃が南アフリカを訪れて安全な出産について女性たちに教える様子を描くドキュメンタリーの構想もあると言われるが、これについては定かではない。

大手エージェンシーも才能を作ることはできない

 その企画が実現するのか、そしてその後もあるのかは、もちろん、視聴者を呼び込めるかどうかにかかっている。

 Netflixの「ハリー&メーガン」は、イギリス王室やメディアからいじめられても貫いたふたりの愛をテーマにしたが、そのすぐ後にハリー王子が回顧録「Spare」も出版して、もうそのネタは出し尽くされてしまった。夫妻の側も、今後はこのネタを使わないでいく方針だとも報道されている。メーガン妃は今年、ハリウッドの大手タレントエージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)と契約を結んだところで、それはエージェンシーからのアドバイスなのかもしれない。ネタの使い回しばかりだと飽きられるし、王室の悪口を言うたびに夫妻の人気は落ちてきているのが実情で、得策とは決して言えないからだ。

 しかし、それ以外で何かを作っていくとなると、本当の魅力が必要となる。Spotifyだって、もしも「Archetype」が爆発的な人気を呼び、毎週多数のリスナーを集めたならば、キャンセルはしなかっただろう。今のところ、この夫妻からは、クリエイティブな才能、ほかと違う視点が感じられない。大手タレントエージェンシーは、ストラテジーを立ててあげることはできても、才能を作ることはできない。ハリウッドでは、仕事を取れるかどうかはエージェンシー(事務所)ではなく本人の力だ。

肩書きだけで人を惹きつけるのには限界がある

 Spotifyから切られたことについて、ソーシャルメディアにも、「クリエイティビティのなさが露呈された」、「ハリーは仕事をしたことがない。メーガンはD級女優で他人が書いたせりふを読んでいただけ。NetflixとSpotifyは無駄なお金を使わなくてもよかったのに」、「肩書きだけで人を惹きつけるのには限界がある。深い人間性、他人への思いやりがあって、この人は本気で世の中を変えようとしていると感じさせないと。彼らはナルシシストだから、世の中の人には安っぽいセレブの話を聞く暇なんてないとわからないみたいだね」など、辛辣な投稿が多数寄せられている。

「ちゃんと働かないとだめなんだとこれでわかったかも」、「11月を最後に何も作っていないなら当然でしょう」と、何かを成功させるには一生懸命仕事をしないとだめなのだと指摘するものもあった。

 それはしごく真っ当な言葉。夫妻はこれを機会にそれを肝に銘じるのか。それによって、将来の収入が変わってくるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事