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アンバー・ハード、海外移住は訴訟から逃げる手段だったのか。「アメリカに住所がないから管轄外」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ジョニー・デップとの名誉毀損裁判に敗れ、負け惜しみのテレビインタビューをするも最低の視聴率に終わった後、アンバー・ハードは雲隠れをしている。そんな中、8月にはイスラエルで、そして9月にはスペインで、友人や娘と休暇を過ごしているところがパパラッチされた。仕事もなく、デップに対して約1,000万ドルの支払いを命じられたばかりなのになぜそんな余裕があるのかと人々は首を傾げ、これらのパパラッチ写真も注目されたい本人の情報提供によるものだろうと憶測されたものだ。

 これらの旅行に先駆け、彼女はカリフォルニア州ヤッカ・バレーの自宅を売っている。2019年に買ったばかりの家を、早々と売ってしまったのだ。買った時の倍近い値段で売れたため利益は出たが、デップに払わなければならない金額にはほど遠い。そもそもデップに支払う気がハードにまるでないのは明白なので、それが理由とは思えない。

 だが、今になって、これら一連の行動は計算にもとづいていた可能性が浮上してきた。保険会社との裁判から逃げるため、ハードは、アメリカに住んでいないことにしようとしたのだ。

 ハードと保険会社の間では、かなりややこしいことが起きている。ハードは、デップから訴訟を起こされる前に、トラベラーズとニューヨーク・マリン&ジェネラルというふたつの保険会社のホームオーナーズ保険に加入しており、デップとの裁判の弁護士代はそこから出してもらった。しかし、その大部分を出したのはトラベラーズで、これは不公平だと彼らはニューヨーク・マリンを訴訟。それを受けてニューヨーク・マリンはトラベラーズを逆訴訟し、一方でハードに対しても、自分たちに支払い義務はないと訴訟を起こした。意図的に誰かの名誉を毀損した場合、保険会社には支払い義務がないと、カリフォルニア州の法律で定められている。

 ばらばらに起きたこれら3つの裁判には重複する部分が多いため、ひとつにまとめられることになり、具体的なスケジュールを決めようということになった。それに対してハードは、今はそれができる状況ではないと反論したのだ。アメリカに住んでいないというのが、その理由。従って、この裁判所の管轄外であるというのである。ハードは、ニューヨーク・マリンに訴訟された時点でも、もうアメリカにはいなかったと主張し、アメリカ国民ではあってもアメリカに住所を持たない人が「ステートレス」(州がない)とされた過去の裁判例を持ち出してきている。

 しかし、ハードの言うことは、実は正しくない。ニューヨーク・マリンがハードを訴訟したのは、判決が出て1ヶ月経った7月8日だ。ハードがヤッカ・バレーの家を売ったのは7月18日。つまり、ニューヨーク・マリンから訴えられた段階では、彼女はカリフォルニア州の住人だったのだ。海外逃亡がニューヨーク・マリンによる訴訟のせいなのか、あるいはデップに敗訴し、約1,000万ドルの支払いを言い渡された時から考えていたことなのかはわからないが、人目を避けてリラックスするという単純な目的ではなかったことは見て取れる。

保険会社はデップのように優しくはない

 それでも、これはあくまで一時凌ぎに過ぎない。デップへの支払いを、控訴を願い出ることで先延ばしにしようとしているのと同じだ。控訴の申請は棄却される可能性が強いと見られ、近いうちにいずれ払わなければいけない時が来る。もっとも、「この裁判は金が目的ではない」と最初から言い続けてきたデップは、金の回収のためにハードを追い回すことはないだろう。ハードもそれを見込んでいると思われる。だが、ニューヨーク・マリンはそう優しくはない。たとえ時間稼ぎをしても、最終的に彼らの主張する弁護料支払いの拒否が認められれば、ハードには多額の負担がのしかかってくる。

 そんなふうに相変わらずトラブル続きのハードは、突然、ツイッターのアカウントを閉鎖した。インスタグラムのアカウントはまだあるものの、デップに敗訴した6月1日以来、何も新しい投稿をしていない。自ら選んで「ステートレス」になった彼女は、ひとり娘のいるシングルマザーとして、これからどう生きていこうとしているのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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