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アンジェリーナ・ジョリー批判:「Vanity Fair」がインタビューのテープ起こしを公開

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 アンジェリーナ・ジョリーのインタビュー記事をめぐる論議が、新たな展開を迎えた。 「Vanity Fair」が、自分たちの記事に間違いはないとの声明を発表したのである。

 問題となっているのは、ジョリーが監督作「First They Killed My Father: A Daughter of Cambodia Remembers」のために行ったオーディション方法。先週、「Vanity Fair」がネットにアップした記事には、ジョリーとキャスティングディレクターが、カンボジアの孤児院、サーカス、貧しい地区の学校を訪れて、子供たちにゲームのような形のオーディションをしたとある。そのゲームで、キャスティングディレクターはテーブルの上にお金を置き、子供にどうしてそのお金が必要なのかと聞いて、それを取らせる。その上で、子供に、自分はお金を盗んでいないと嘘をつかせるというものだ。

 記者は、そのやり方を「不安を感じるほどリアル」と書いたが、読んだ人たちの多くも同感で、「貧しい子供にそんな心理ゲームをやらせるなんてひどい」という批判が、ソーシャルメディアを飛び交うことになった(アンジェリーナ・ジョリーのインタビュー記事、批判を呼ぶ)。それを受けてジョリーとカンボジア人のプロデューサー、リティ・パニュは、記述は間違いだとする声明を発表。そのシーンは脚本にあるもので、子供たちはこれが演技だと理解した上でやっていたと釈明をしている(アンジェリーナ・ジョリーが批判に反撃。「Vanity Fair」の記述は間違い)。

「Vanity Fair」によると、今月1日になって、ジョリーの弁護士が、 該当部分の削除を編集部に要求してきたとのことだ。さらに「アンジェリーナ・ジョリーの訂正」として、子供たちは事前にカメラなどを見せてもらっており、演技をやるのだと理解していたことを述べ、「誤解があったことをお詫び申し上げます」と書くように指示してきたという。しかし、記者にインタビューの録音音声とテープ起こしを提出させた編集部は、記事に間違いはないと判断した。「Vanity Fair」が発表した、該当部分の起こしは、次のようになっている。

子供時代のルオンを見つけるのは大変だったわ。それで、スラムの学校と呼ばれるところに行ったの。良い言葉じゃないけど、とても貧しいエリアの子供たちのための学校よ。子供たちは知らなかったと思うわ。私たちは、ただそこに行って、子供たちをオーディションしたの。本来のオーディションではなくて、あるゲームよ。私はそこにいなかったし、子供たちは実際のところ何をやっているかわからなかった。彼らは「カメラが来るから、ゲームをしましょうね」みたいに言われたのよ。そして「テーブルの上にお金を置きます。自分はどうしてそのお金がいるのか、考えてください」と言われる。お金だったこともあるし、クッキーだったこともあるわ。そして「はい、お金を取ってください」と言われ、「その後、私たちがそれを見たと言いますから、自分はお金を取っていないと嘘をついてください」と言われた。子供たちの様子を見るのは興味深かったわ。カメラをすごく意識している子もいた。この国には才能のある子がたくさんいるわ。(主役に選ばれた少女は)お金をとても長いこと見つめた、唯一の子供だった。お金を取った時、彼女は隠すようにして嘘をついたの。そしてお金を返さないといけなくなった時、彼女はものすごく感情的になった。心の中からあらゆる感情があふれてきたの。これを言っても、彼女と彼女の家族は怒らないと思うけれど、そのお金は何のために必要なのかと後で聞かれると、彼女は、おじいちゃんが死んだのに、立派なお葬式を上げるお金がなかったと言ったのよ。

 ジョリーによる、この元々の発言の解釈は分かれている。ネット上には、「彼女は、子供たちが知らなかったと言っているじゃないか。それが本当に(自分がもらえる)お金ではないと知らなかったんだ。問題はそこ。『Vanity Fair』は、彼女の嘘を証明した。このゲームは、お金または食べ物を取り上げた時にどんな感情を見せるかを見るためにやったこと。それがトラウマを与えたことに対して、言い訳はできない」といった「Vanity Fair」の味方をするコメントもある一方で、「自分はジョリーのファンではないけれども、起こしを読めば明白。彼女らは『(盗んだのを)見たぞ』と言うから嘘をついてね、と先に言っている。これは、あくまで『ごっこ』だ」「『Vanity Fair』は全然違うことにしてしまった。自分がアンジェリーナだったら、同じように激怒するだろう」といったジョリーの味方のコメントもある。

 そのどちらにも一理あるだろう。子供たちはそこにカメラがあるのを知っていたし、筋書きも聞かされていた。ジョリーの言う「子供たちは知らなかった」というのは、それが何の目的なのか知らなかったということではないか。しかし、「ごっこ」であったとしても、貧しい子供に一度お金を握らせて取り返し、悲しい思いをさせるのは残酷だというのも、納得できる。この点について、ジョリーは、先に発表した声明の中で、オーディションの時も含め、現場には医師やセラピストを必ず配置するなど、子供たちの心のケアを怠らなかったと主張している。

「Vanity Fair」にしてみれば、メディアとしての名誉に関わる問題。ジョリーには、慈善活動に奉仕する世界の子供たちの母というイメージがかかっている。双方とも、主張を曲げることはしないだろう。だが、不本意な形ではあるにせよ、作品の宣伝にはなったかもしれない。映画は来月のトロント映画祭で上映される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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