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年末に、露軍によるウクライナへの大規模攻撃が激しくなっている。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ミサイル攻撃の後に煙が上がる。キーウにて12月29日。(写真:ロイター/アフロ)

年末になって、ロシア軍によるウクライナへの大規模攻撃が、激しくなっている。

まず29日(木)には、ウクライナ大統領府は、約120発のミサイルが、同国を狙ったと発表した。その後、発射されたロシアのミサイル69発のうち54発が「撃墜された」とも発表している。

同日の終わりには、「ほとんどの地域」が停電の影響を受けていると、ゼレンスキー大統領は、日々の報告で嘆いた。

「キーウを含む地方や首都そのもの、リヴィウ地方、オデーサ、へルソン周辺、ヴィニツィア、トランスカルパティアでは特に困難である」と述べた。キーウは4割が停電となっていた。

西部の中心的都市リヴィウでは、市電もトロリーバスも止まり、9割の市民が電気を失ったが、30日の午前中には、電気技師たちの懸命の努力により、復旧した。

29日はこのように大規模なインフラ攻撃が主で、ウクライナ西部の主要都市の9割を停電にした。夜の30日にかけては、ドローン攻撃が始まった

北東部のスーミ州は、夜間にさらなるロシアの空爆を受けたという。

ウクライナ軍の30日朝の発表によると、ロシアは16機の自爆ドローンを発射した。イラン製のShahed-131/136であり、同国の南東部と北部から送られたが、ウクライナ軍によって破壊されたと報告されている。

キーウでは、現地時間で30日午前2時ごろに空襲警報を発表し、2時間余り続いた。夜中に空襲警報では、市民は全然眠れなかったに違いない。

首都はロシア軍の撤退後、一時落ち着きを取り戻したが、また不安で危険な状況になってしまった。

ドローン7機が首都に向けて飛来したが、クリチコ市長によると、ウクライナの防空部隊が市内上空で5機、その近辺で2機を撃墜したとのこと。行政区の住宅用建物と非住宅用建物の窓ガラスが破損したが、幸いなことにけが人はいなかった。

また30日の午前9時50分には、ミコライウにも空襲警報のサイレンが鳴り響いた。警報は10時25分に解除されたが、その25分後に再び鳴った。同市の市長によると、正式に警報が停止されたのは、12時22分だった。

ロシアは、キーウの北、ベラルーシ国境から遠くないチェルニヒフ地方でも砲撃を強め、特にセメニフカの町では1名が死亡した。市内の電力供給も途絶えている。

さらに、ハルキウ州のカテリニフカ村でも砲撃があり、2人が死亡、2人が負傷したという。

ただ、ロシア側も被害を訴えている。両国の国境の近く、ウクライナのハルキウから近いベルゴロド州も爆撃を受けたと、知事は述べている。

さらなる支援の呼びかけ

NATOのストルテンベルグ事務総長は、ドイツの通信社DPAが30日に発表したインタビューにおいて、同盟加盟国に対し、ウクライナに武器・弾薬をさらに提供するよう呼びかけた。

「ウクライナを勝たせ、プーチンを勝たせないようにすることは、われわれの安全保障上の利益である」と述べた。

ゼレンスキー大統領の確固たる姿勢

ゼレンスキー大統領は28日、年末恒例の議会演説で「ウクライナは世界的なリーダーの一員となった。我々の国の色は全世界の勇気と不屈の精神のシンボルになっている」、「欧州連合(EU)を団結させたのはウクライナだ。結果的に団結は可能だということがわかった」などと述べた。

そして、各国は今やロシアが自分たちの言うことを聞くかどうかではなく、ウクライナからほかに何を期待できるかに関心を持っていると主張した。

ロシアによるウクライナ攻撃の中、ウクライナ議会のセッションに出席するゼレンスキー大統領。12月28日
ロシアによるウクライナ攻撃の中、ウクライナ議会のセッションに出席するゼレンスキー大統領。12月28日提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ

このことで、日本人のコメントで「傲慢だ」「助けてもらって当たり前だと思っているのでは」といった反応があった。

情報の字面を見ていると、そういう反応が出るのかもしれないと思うが、敵の攻撃にさらされて電気もなく、街には空襲警報が鳴り響いている状態で、このように言っていることは忘れないでいたいと思う。国家のリーダーとして、必死に国民を鼓舞しているのだ・・・。

ロシアの戦争犯罪を訴えるために

ウクライナは、戦後も見据えて、西側の協力を得ながら、自国領土におけるロシアの戦争犯罪の証拠を集めようとしている。

【参考記事】

プーチン大統領を「侵略という犯罪」で裁くには。司法関係者の闘い【前編】 国連は何をしているか

プーチン大統領を裁くには:新しい特別法廷の設置と、ヨーロッパ市民、国際刑事裁判所の闘い【後編】

処刑、誘拐、無差別爆撃、性的暴行・・・5万8000件もの戦争犯罪の可能性について調査している。AP通信によると、戦争に関する国際法違反の事例を600件確認することができたという。

AP通信が集めたデータによると、学校への攻撃は93件、うち36件は子供が死亡、拷問、拉致、処刑、死体への冒涜など、市民への直接攻撃は200件にのぼる。ロシアの標的は、教会、文化センター、病院、食糧供給センター、エネルギーのインフラなどである。

破壊された祖母の家の廃墟で遊ぶ少年。ウクライナ・クピエンスク。10月16日。
破壊された祖母の家の廃墟で遊ぶ少年。ウクライナ・クピエンスク。10月16日。写真:ロイター/アフロ

それでも、ロシア側は、一切を否定している。ネベンジア国連ロシア大使は、ブチャで民間人が拷問されたり処刑されたりしたことはなかったと主張していた。

これらは、複数のジャーナリストや調査員が現地で虐殺の様子を綿密に記録したものなのだ。

【参考記事】

非難し合うロシアとウクライナ、どちらが正しいのか。国連が介護施設50人の死者をめぐり双方の責任を調査

しかし、攻撃が激しくなればなるほど犠牲者と戦争犯罪は増え、同時に調査をするのが困難になってくるというジレンマを抱える。

そのような国境を越えたメディアの連帯の活動に、日本の大メディアは一翼を担えているのだろうか。

「外務省が危険な所に行くなというから、行きません」ではなくて、国や民族を超えた正義のために、人権のために働くという思想や意識が薄いと感じるが、島国日本の長い歴史や地政学上、難しいのだろうか・・・。

それにしても、いいかげん「ロシアによるウクライナ侵攻」という言い方をやめたらどうか。これは戦争だ。その言い方をするなら、「侵攻」ではなくて「侵略」というべきではないだろうか。

【参考記事】

なぜウクライナ「侵攻」なのだろう。「侵略」でも「戦争」でもないのはどうして?

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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