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アメリカの制裁準備の担当次官「ロシアを金融システムの不可触民に変える行動」「前例のない制裁」と語る

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ホセ・フェルナンデス米国国務次官(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

フランスの『ル・モンド』が、アメリカのホセ・フェルナンデス米国国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)のインタビューを2月18日、発表した。

次官は、2021年8月より現職に就き、もしロシアがウクライナに軍事作戦が行われた場合に、ロシアに科す可能性のある経済制裁の準備に携わっている。

アメリカはこの2ヶ月、2014年のクリミア併合の時の反省を踏まえて、ロシアに科す制裁は「前例のないもの」という主張を繰り返してきた。しかし、内容は公表していない。

なぜ今回はより効果的なのか、という質問に対して、フェルナンデス氏は「我々は、ロシア経済、特にその金融システムに高いコストがかかる制裁を採用し、クレムリンとウラジーミル・プーチンの野心に必要不可欠な製品の輸出管理を行う準備ができています」と答えた。

さらに「ありえないと除外する選択はありません。我々は大変素早く開始し、これらの制裁は増大することをやめず、前例のないものとなるでしょう。しかし、我々が検討していることは、純粋な制裁を越えています」「我々は、ロシアを孤立させ、金融システムの不可触民(原文仏語の使用語:パリア)に変える行動について話しているのです」と述べた。

また、インタビュアーが、欧州の同盟国の間では、ロシアをスウィフト(金融情報システム)から切り離すなど、検討されているいくつかの制裁措置の妥当性に疑問が持たれていることや、ノルドストリーム2の争点を尋ねると、フェルナンデス氏は明確に否定した。

「我々は、当初から欧州のパートナーたちと緊密な協議を重ねてきました。東アジアや太平洋地域の重要な同盟国とは、迅速かつ強力な対応を行うことに幅広いコンセンサスがあります」と答え、再度「ありえないと除外する選択はありません」と述べた。

1)参考記事:バイデン「ロシアへ前代未聞の経済制裁」は、核爆弾というスウィフトか。何が問題か:欧州議会とウクライナ

2)参考記事:アメリカのドル制裁にロシア(や中国)はどう対抗する?4つの戦略と中露独自の金融網とは:ウクライナ危機

ノルドストリーム2については、「稼働していないのだから、圧力の手段としてもっているのは我々同盟国の側であり、ドイツであり、プーチンの側ではない」とし、「ドイツ政府が自ら、すべての選択肢がテーブルの上にあると言っている」と語った。

また、バイデン大統領が「アメリカ人にとって痛みのないものになるとは限らない」と述べたのは、アメリカ国民に大変正直であると評価。

「我々は、世界中の天然ガスの会社や産出国と連携しているのです。ロシア以外のガスの追加量を特定するように努めました」と語ったのだが、その際に日本を例を出し、「最近、日本は素晴らしい連帯感を示しました。欧州のエネルギー安全保障を支援することを発表し、液化天然ガスの出荷先を欧州に向けたのです」と褒めた。

フェルナンデス氏は、「私の仕事は、我々の供給が最大限守られていることを確かなものにし、アメリカ人に影響を与える価格ショックを緩和することです」と述べ、ガス市場の不安定化を抑えたいというバイデン政権の意志を確認した。

フェルナンデス氏は何度も、外交による対話と交渉で解決を望み、制裁は第一の手段ではないと述べている。そしてこれは、プーチンによってつくりだされた危機であるという。

「対話がうまくいかなければ、プーチンは我々に選択の余地を与えないでしょう。我々は、第二次世界大戦以来、当たり前のこととして享受してきた、国境は侵すことのできないものであり、それぞれの人民が自らの未来を選択できるという考えを守らなければなりません」

インタビューを掲載した『ル・モンド』のサイト。この記事は、現地時間の18日(金)から19日(土)にかけての夜に、アクセス数第1位の記事であった。
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※筆者の感想

一体どんな制裁を考えているのか。底知れぬ世界一の大国の力を見せられるのだろうか。

でも、それが武力によって平和を壊し、何の非もない国の市民を傷つけ、殺し、圧迫するのを防ぐためのものであれば、歓迎したい。同じ人間として協力もしたい。

「自分の運命を自分で決める権利」とは、アメリカという国の創設の思想そのものである。それは「自由」という思想である。国連憲章の第1章第1条にも刻まれている「self determination」の思想である。

パックス・アメリカーナと呼ばれるが、やはりアメリカがしっかりしてくれないと、世界の秩序が保たれない。日本にも欧州にも、アメリカが必要なのだ。

ただ、一つ付け加えるのなら、アメリカがここまで本腰を入れるのは、やはり欧州の事件だからだとは感じる。そしてロシアは仇敵であること、ロシア系移民がアメリカ政治に影響を及ぼすほど数が多くも強くもないこと、そしてロシアは白人の国家とされているから、やりやすいという側面があるとは思う。

日本人としては、巨人アメリカよりも、ドイツの対応が身に差し迫るものがある。

ドイツにとってのロシアは、日本にとっての中国に似ている。それでもドイツは、究極の場面で、経済・お金よりも、人間の価値観を優先させる腹を決めた。日本は、来たるべき時代にその覚悟ができるだろうか。

ドイツには、自国を支えてくれるEUの仲間の国々があるが、日本は孤独な国であるので、一層難しいだろう。

もし今回の制裁が実行されるのなら、中国に対する大きな抑止となると良いのだが・・・。

最後に。欧州で、ウクライナ人の様子や考えていることは、かなり報道されている。でも、圧迫がひどくなる一方のロシアで、一般の人々が真に何を考えているのか、ほとんど伝わってこない。それは日本の報道でも同じだ。

もし本当にプーチン大統領が武力行使を決行し、大規模な制裁が行われ、市民の生活を直撃したら、ロシアの市民が、自由を求めて独裁制に蜂起する可能性があるのではないだろうか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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