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(2) 一つのヨーロッパ:欧州連合(EU)「一般教書(施政方針)2018」ユンケル委員長の演説全文訳

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
演説にのぞむユンケル委員長。フランス・ストラスブールの欧州議会で。(写真:ロイター/アフロ)

これは(1)の続きです。

欧州連合(EU)「一般教書(施政方針)2018」ユンケル欧州委員会委員長の演説 全文翻訳(1)

※システムの都合により、フランス語やドイツ語に固有の文字は正確に表記できません。ご了承ください。

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<ヨーロッパの主権のとき> 

メダム、メッシュー、

今にちの世界は、強くて統一された一つのヨーロッパを必要としています。

ヨーロッパは、平和、貿易協定、安定した通貨の関係のためを思って働いています。たとえ他者が、時には貿易戦争や通貨戦争を選択する傾向にあるとしてもです。実際、私は他者の希望や期待に対して無礼である単独行動主義(unilateralisme)が好きではありません。私は常に、多国間主義者(multilateraliste)です。

もしヨーロッパが、(加盟国の)国家の政治的、経済的、軍事的な力をより認識するなら、私たちは世界的な支払人という独占的な役割を放棄するかもしれないでしょうが、私たちがとにかく留まりたい役割でしょう。

私たちは、より一層グローバル・プレーヤーにならなくてはいけません。Yes, we are global payers, but we have to be global players too. (この文だけ英語で演説:そうです、私たちはグローバルな支払人です。しかし、グローバルなプレーヤーでなくてはなりません)。

そのためにこそ、当時の強い抵抗にもかかわらず、私は2014年に欧州防衛同盟のプロジェクトを再開しました。 だからこそ、今後数カ月間欧州委員会は、欧州防衛基金とPESCO(常設防衛協力枠組み)が完全に機能するように努力し続けます。

私の目には重要なことを、この場で正確に申し上げます。我々は欧州連合を軍事化しません。 我々はもっと責任をもって独立したいと望んでいるのです。

なぜなら、強くて統一された一つのヨーロッパだけが、我々の市民を、テロリズムから気候変動まで、内外の脅威から守ることができるからです。

強くて統一された一つのヨーロッパだけが、開かれて相互につながる一つの世界において、雇用を維持することができるのです。

強くて統一された一つのヨーロッパだけが、世界のデジタル化という挑戦をコントロールできるのです。

私たちヨーロッパ人は、世界で最も大きい単一市場なので、ビッグデータの規範(標準)を構築することができるのです。人口知能のためであり、自動化のためであり、私たちの価値観、権利、市民の個性を守りながらすべてを構築するのです。私たちが団結すれば、それをすることができます。

強くて統一されたヨーロッパは、加盟国が星を取ることを可能にします。私たちのガリレオ(訳注:全地球航法衛星システム)のプログラムのおかげで、ヨーロッパは宇宙のレースの中にいます。 加盟国各々では、26もの衛星を軌道に乗せることができなかったでしょう。既に世界中で4億人のユーザーが恩恵を受けているのです。 どの加盟国も、単独ではたどり着かなかったでしょう。

ガリレオは、全部がヨーロッパではありませんが、ヨーロッパの最初の成功です。 ヨーロッパがなければ、ガリレオはありません。 このことを誇りに思いましょう。

欧州議長殿、

地政学は、ヨーロッパの主権のときが決定的に告げられたと、私たちに教えています。

ヨーロッパが自らの運命を己の手の内に入れるときなのです。 ヨーロッパが、私が 「Weltpolitikfahigkeit」(ドイツ語で「世界の政治能力」)と呼んだものを発展させるときなのです。この言葉は、世界で起きている出来事に影響を与えるために、一つの連合として役割を果たす能力のことです。 ヨーロッパは国際関係において、もっと主権組織にならなくてはなりません。

ヨーロッパの主権は、加盟国の国家主権から来ており、 国家に特有のものに取ってかわりはしません。 私たちの主権を分かち合うことは、そうしなければならないところでは、私たちのそれぞれの国民国家をより強くします。

「団結して(統合されて)私たちはより大きい(重要だ、偉大だ)」(原文は <Unis nous sommes plus grands>)というこの確信(信念)は、欧州連合の一部であることを意味するものの、本質でさえあるのです。

ヨーロッパの主権は、決して他者に敵対する形で向けられないでしょう。ヨーロッパは開放と寛容の大陸でなければなりません。そのようにあり続けます。

ヨーロッパは、世界、特に苦しんでいる世界に背を向ける要塞にはならないでしょう。 ヨーロッパは決して一つの島にならないでしょう。 ヨーロッパは多国間主義でならなくてはならないし、そのようにあり続けます。 この惑星はすべての人に属しているのであり、一部の人にだけ属しているのではありません。

このことは、2019年5月に行われる欧州議会選挙で賭けられている問題でもあります。我々がともに行動をすれば、欧州連合は結果を獲得できるのだという証拠、そしてこの任期の最初になされた約束を守るのだという証拠を、我々の仲間の市民にもたらすために、我々は欧州選挙とは別の250日間を有効に使います。

今から欧州選挙までに、ヨーロッパは北と南、東と西の違いを克服することができることを、我々は証明しなければなりません。 ヨーロッパは、ある時は2つ、ある時は4つのように分かれるには、小さすぎるのです。我々は一緒に、より主権的な一つのヨーロッパの種子を播くことができることを証明しなければなりません。(訳注:公式発表の原稿には「左派と右派の違い」も入っているが、ユンケル委員長は演説ではこれを言っていない)。

<約束を守り続ける>

(この部分はドイツ語演説)

欧州議員の皆さん、

2019年5月に人々が欧州議会選挙の投票に行く際、ヨーロッパ市民は、欧州委員会が提案した内容を気にかけることはないでしょう。しかし、自らの利益を実現させる場所であるインターネットの世界の巨大企業が課税されることを知ることには、激しく興味をもつでしょう(訳注:欧州委員会は3月、デジタル分野における課税に関する指令案を発表した)。私の知る限り、多くの投票者が望むのは、この件に関する委員会の提案が、はやく法律の力を得ることです。この願いを表明する人たちは絶対に正しいです。

ヨーロッパ人が2019年に投票に行く際、彼らが欧州委員会の善良な意向に強い印象を受けていることはほとんどないでしょう。委員会は、私たちの海洋が海のゴミ箱にならないように、使い捨てプラスチックの問題に取り組んでいるのですが。もしヨーロッパ人が我々を信頼し、我々の行動が正当であると確信してくれることを望むなら、欧州委員会が提案したように、使い捨てプラスチックの禁止をする規制をしなければなりません。

我々は確かに、大部分は美しい演説において、最も大きな問題についてはより野心的であり、重要性の低い問題についてはより控えめになりたいと言っています。

しかし、EUの規制のせいで、年2回時間を変更し続けなければならないなら、ヨーロッパ人は拍手喝采しないでしょう。欧州委員会は今、それを変えるよう提案しています。 時間の変更は廃止されるべきです。 加盟国は、補完性原理に従って、市民が夏期時間または冬季時間で生活するべきかどうかを、自分たちで決定するべきです。 欧州議会と閣僚理事会が同じ認識を持ち、域内市場と相容れる解決策を見つけることを私は願っています。 時間がなくなっています。

より一般的には、2014年欧州議会選挙の前に我々が約束したことを達成するために、今後数カ月に渡って緊密に協力し合うよう、私は我々全員に奨励します。

この任期の最初に、我々はみんなですべてを構築することを約束しました。より革新的なデジタル単一市場、より強く深まった経済通貨統合、銀行同盟、資本市場同盟、より公正な単一市場、 先進的な気候政策を伴ったエネルギー同盟、移民に関するグローバルな議題(アジェンダ)と安全保障の同盟の構築です。

(訳注:定訳に従って「同盟」と訳したが、元の単語は「union」で「連合」とも訳せる。ちなみにunionは「連邦」とも訳せるので、EU: the European Unionは「欧州連邦」も訳の上では不可能ではない)。

我々も、とにかく我々のほとんどは、もはやヨーロッパの「社会的側面」を貧しい親のように扱わず、明日の課題に対応するために発展させるという野望を温めてきました。(訳注:「社会的側面」(social dimension)とは、労働者を守るためのEUの社会政策のこと)

この委員会は既に、2014年に発表したすべての提案とイニシアチブを提示しています。半分は欧州議会と閣僚理事会ですでに採択されており、20%が軌道に乗り、30%は時に困難な協議の対象になっている状態です。

※後日、微調整をします。

続く

(3) 欧州連合(EU)「一般教書(施政方針)2018」ユンケル委員長の演説 全文翻訳:難民問題

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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