(1)欧州連合(EU)「一般教書(施政方針)2018:ヨーロッパ主権のとき」ユンケル委員長演説全文訳

左が筆頭副委員長ティマーマンス氏、真ん中がユンケル氏、真後ろが議長タイヤーニ氏(写真:ロイター/アフロ)

9月12日(水)、フランスのストラスブールの欧州議会において、欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長が、欧州連合(EU)の2018年度一般教書演説(施政方針)演説を行った。数回に分けて全文を翻訳公開する。

とにかく、この演説を全文翻訳公開することが、欧州連合の一番の理解につながると思う。

私たち日本人が巨大な経済協定を結んだEUという相手は、どういう組織なのか。どういう人達なのか、何を考えているのか、何を目指しているのか。この一般教書演説(施政方針)演説を見るのが、一番いいと思う。特に今年の演説は、ユンケル氏最後の一般教書演説となるためか、平和への切なる願いがこもっており、今までよりも心情が投影されている感じがした。

ユンケル氏は語学が達者で、英語、フランス語、ドイツ語を話す。去年は演説のおよそ5割をフランス語、4割をドイツ語、1割を英語で演説したが、今年はフランス語を使っている割合が多かった。フランス語が8割弱、ドイツ語が2割弱、英語が1割未満くらいという配分であった。

翻訳はフランス語をもとに行った。英語で演説したところは英語から日本語に翻訳を、ドイツ語のところはフランス語訳をベースにしつつ英語も見ながら日本語翻訳した。

章分けと、章タイトルの< >は、欧州委員会が公表した原稿に沿っている。現実の演説では、章タイトルは話していない。( )のタイトルは、筆者がつけたもの。

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一般教書(施政方針)演説 2018

「ヨーロッパの主権のとき」

(The State of the Union 2018: THE HOUR OF EUROPEAN SOVEREIGNTY)

ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長

2018年9月12日

<イントロダクション 行動し警戒するのは焼け付くように熱い義務である>(平和への思い)

欧州議会議長殿、欧州議員の皆さま、

時に、歴史は慎み深く、足跡を残し、そして素早く去っていきます。

このことは、物事の流れを変えるために5年の任期しか与えられていない欧州委員会の働きについても当てはまります。

現在の委員会は、一つの章なのです。欧州連合の長い歴史においては、ほんの短い一瞬なのです。今私が率いている委員会に最終的な評価を与える時は、まだ到来していません。

ですから、私は今日、我々がこの4年間で成し得たことの評価を、あなた方に示すことは致しません。

逆に、私はあなた方に、仕事はこれから12ヶ月間続いている、不完全な欧州連合を、より完璧な一つの連合にするために毎日続いていると言いたいのです。

為すべきことは残っており、今あなた方に話したいのはそのことなのです。

自己満足もない、威張ることもない。謙虚さと仕事、まさにこれが委員会が我がものとする姿勢です。まさにこれが、来たるべき月々の議題(アジェンダ)です。

時に歴史は、真の意味における歴史ですが、国家の生涯に予告もなく勝手に押しかけてきて、なかなか去ってくれないものです。

このことは、不意に欧州大陸を襲った1914年の大戦争(第一次世界大戦)に当てはまりました。1913年は本当に、日光が輝き、平穏で、平和で、楽観的だったのです。

1913年、ヨーロッパ人は、長期的な平和のなかに暮らすと思っていました。しかし、翌年にはヨーロッパを襲った戦争が起こったのです。

私がこの時代に言及しているのは、我々が新しい大災害の入り口にいると思うからではありません。

欧州連合は、平和の保証人です。この平和の大陸で、幸せに生きようではありませんか。この大陸は、欧州連合を通じて平和を経験しているのです。

欧州連合をもっと尊重しようではありませんか。そのイメージを汚さず、我々のあり方や生き方を守ろうではありませんか。

他者に敵対するためではない郷土愛(愛国心:patriotisme)にはOui(Yes) と言いましょう。他者を否定し嫌う、過大評価された愛国主義(ナショナリズム:nationalisme)にはNon(No)と言いましょう。そのような愛国主義は、破壊するものであり、私たちがより良い生活を送るための解決策を探すものではなく、罪人を探すものなのです。

欧州連合創設の協定は、もう二度と戦争は嫌であるという思いであり、このことは焼け付くように熱い要請であり続けています。私たちや、私たちの周囲に必要不可欠な警戒についての、焼け付くように熱い義務なのです。

<2018年の欧州連合の状態「実を結ぶ努力」>(景気と雇用)

2018年のこんにち、欧州連合はどのような状態でしょうか。

リーマンブラザーズから10年、ヨーロッパはゆっくりと経済金融危機のページをめくって、次に進みました。危機は、よそから私たちのもとにやって来て、とても頻繁に残酷な形で私たちを打ち付けました。

欧州連合は、21四半期連続で成長を示しています。

雇用は、再び堅調になっています。2014年以来、約1200万人の雇用が創出されました。1200万人とは、ベルギーの人口よりも多いのです。

2億3900万人の男女が、ヨーロッパで働いています。このように多かったことはありませんでした。

若者の失業は、14,8%に及んでいます。この数字はあまりに高いですが、2000年以来、最低の水準にあります。

投資は、ヨーロッパに戻っています。とりわけ我々の「戦略的投資のための欧州基金」のおかげです。これは、ますます稀になっていますが「ユンケル・プラン」と呼ぶ人たちが今もいる計画で、3350億ユーロを公私の投資のために運営する計画です。4000億ユーロに向かおうとしています。

それから、ギリシャがあります。苦痛と言わなければならない数年間ののち、かつてない深刻な社会問題の後に、でも、かつてないほどの連帯の後に、ギリシャはプログラムを実施し、足取りを戻すのに成功しました。私はギリシャの人々の、ヘラクレスのように大力を要する努力に敬意を表します。この努力を、他のヨーロッパ人は過小評価し続けています。

私は常に、ギリシャとその尊厳、ヨーロッパにおけるギリシャの役割、特にユーロ圏内にギリシャが居続けることを擁護してきました。私はそのことを誇りに思います。

ヨーロッパはまた、通商の強者としての地位を再確認しました。世界の通商の強者であることは、我々が主権を分かち合う必要があることを示す証拠以外の、何ものでもありません。欧州連合はこんにち、70カ国と貿易協定を締結しています。我々は全体で世界のGDPの40%を占めています。これらの貿易協定の合意は、非常によく誤って意義を唱えられますが、世界の他の地域へ、ヨーロッパの高い規範(標準)を輸出するのに役立つのです。食品の安全性、労働法、環境、および消費者の権利に関してです。

7月、緊張した危険な国際情勢のただ中で、私はまさに1週間で、北京、東京、ワシントンを訪れ、欧州委員会の長として話すことができました。世界で最も大きい単一市場の名のもとに、世界経済の5分の1を占める一つの連合の名のもとに、その価値観と利益を守るつもりでいる一つの連合の名のもとに話したのです。

私はヨーロッパを、開かれた大陸として示しましたが、提供された大陸としては示しませんでした。

私が原則においても詳細においても示すことができたヨーロッパの統一に支えられて、私は、私たちの市民や私たちの企業の具体的な成果を得るために、欧州連合の声を聞かせることができました。

統合して、私たちヨーロッパ人は、一つの連合として、避けては通れない力になりました。ワシントンでは、私はヨーロッパの名において話をしました。私がトランプ大統領と行った交渉で得ることができた合意を、驚きだと描く人たちがいました。ところが、ヨーロッパがただ一つの声で話す能力があったからといって、驚くことはなかったのです。ヨーロッパは、必要な時こそ、たった一人の人間のように(人間として)行動しなければならないのです。

<世界的な責任>

気候に関するパリ協定を、我々が守り続けてやまなかったのは、我々ヨーロッパ人は、次の世代にもっと清潔な惑星を残したいからです。私は、2030年に向けたCO2削減目標に関して、エネルギー担当委員の分析に同意します。これらは科学的に正確で、政治的に必要です。

この夏の干ばつは、農民だけでなく、未来の世代の将来を確実に守るためには、我々の努力こそが重要であると、劇的にかつ明白に思わせました。

私たちは、自分の前にある課題を見ながら、よそを見つめることはできません。我々欧州委員会と、あなた方欧州議会の方々は、将来を見つめなければなりません。

欧州議会のみなさん、

絶え間なく変化する世界は、これまでにないほど激変しました。私たちの大陸が直面するべき外部の課題は、日々増えています。

したがって、より統一された一つの欧州を構築しようという私たちの努力も、一秒でも気を緩めることはできません。

ヨーロッパは、安定性を輸出することができます。今まで我々の連合が拡大し続けて、そうしてきたように。拡大は、私にとって成功なのです。なぜなら我々は、欧州の地理と歴史を和解させることに成功したからです。

しかし、行うべき努力はまだあります。

我々は、西バルカン人に対する我々の態度を不可逆的な方法で定義しなければなりません。さもなければ、他の人たちが、我々のすぐ隣を変化させて形作る任を担うでしょう。

私たちの周りも見てみましょう。私たちがいる今この時、シリアのイドリブで起こっていることは、私たち全員にとって、深く直ちに憂慮するもとであるべきなのです。実際に発表された災害である、差し迫った人道的災害に直面して、我々は黙ってはいけません。

シリア紛争は、第二次世界大戦以来ヨーロッパ人が恩恵を受けている国際秩序が、ますます疑問視されていることを示しています。

こんにちの世界では、ヨーロッパは、もはや昨日の約束がまだ明日も守られているかどうか、確信をもてないのです。昨日の同盟は、もう明日の同盟ではないかもしれないのです。

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