Yahoo!ニュース

動画対決で「ストップ!恋愛 ゼッタイダメ」が優勝したのはなぜなのか

境治コピーライター/メディアコンサルタント
#(笑)動画作ってみたトップページ画像より

NHKが場を用意した動画対決、大団円へ

これまで二度に渡り紹介してきた「#(笑)動画作ってみた」。NHKが5組の制作者を招いて、ネット動画対決を展開した。私は企画段階からお手伝いし、番組作りにも参加してきた。

「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画はどんなプロセスでバズったか?~NHK #(笑)動画作ってみた~(12月16日)

NHKのクレジットで世に出ているのが不安になるネット動画対決

対戦は二回に分けて行われ、一回戦で残った3チームが二回戦でも対戦し、最終的には広告クリエイター藤井亮氏が優勝した。藤井氏による動画がこの2つだ。

「ストップ恋愛ゼッタイダメ」サムネイル画像
「ストップ恋愛ゼッタイダメ」サムネイル画像

→「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画ページ

「プロファイリング昔話」サムネイル画像
「プロファイリング昔話」サムネイル画像

→「プロファイリング昔話」動画ページ

優勝者の藤井氏は、このシリーズ最後の作品を作る権利が与えられる。その動画は、この企画のまとめとして作られた番組の中で見ることができるそうだ。藤井氏のキテレツな動画がBSとはいえテレビ放送で見られるのはちょっとドキドキする。

さてこの企画は、もちろん動画対決そのものを楽しむのが趣旨だが、それを通じてテレビ番組とネット動画の作り方や楽しみ方の違い、さらにはネット動画がバズる要因や仕組みを解き明かすことも企画意図の一つだ。5組の制作者とともに、私を含めた論者が参加し、でんぱ組.incの司会進行でフォーラム形式で議論が展開された。二回の議論は盛り上がり、私も非常に啓発された。ここではその一端を紹介したい。

バズのポイントは、インフルエンサーとつっこみ

フォーラムではネットでの動画の拡散を分析してもらうために、データセクション社の伊與田孝志氏が解説者として参加した。伊與田氏によれば、バズのためには自然な拡散を狙うよりインフルエンサーの力をうまく借りることが重要だという。

グラフ提供:データセクション社
グラフ提供:データセクション社

「ストップ恋愛」がバズったのも、ある時点でツイッターアカウント”石田三成”が反応したのがきっかけだった。大河ドラマ「真田丸」へのツイートで10万人のフォロワーを抱える石田三成がこの動画に反応したことで多くの注目を集めることとなり、やがて動画まとめアカウントに広がり、ニュースサイトで記事になるに至った。

藤井氏はそのために積極的にツイートし、他のアカウントに呼びかけたりした。動画を公開してすぐに石田三成が反応したわけではない。公開したのは11月4日なので、ヒットするまで二週間かかったことになる。それまで藤井氏は地道にツイートし続けたのだ。動画の面白さだけでバズが起こるわけではなく、存在を知らしめる努力が意外に大事なことがわかる。そしてインフルエンサーとの邂逅が必要だった。

もう一つ、私にとって知らなかった”発見”となったのが、”つっこみ”についてだ。論者のアレン・スワーツ氏とともにフォーラムに参加した週刊動画ランキングの寺島功毅氏が「ネットにはつっこみ役が要らない。なぜならつっこむのはユーザーの側だから。動画の中につっこみ役がいると、参加できなくて楽しめない」というようなことを教えてくれた。

テレビ番組では、逆につっこみ役がいてくれないと困る。漫才がそうだし、観客席から笑いが聞こえるのもそういうことだ。それが”ここ笑うとこ”を示してくれる。考えてみればずいぶん主体性がないが、受動的に「テレビを見る」とはそういうことなんだろう。つっこみ役がいないと、どこで笑うのかがわからなくなる。

ネット動画では、つっこむのは見ている側だ。コメント欄やツイッターなどでツッコミを入れる行為、それも含めての動画視聴なのだ。そこがテレビ世代の私には呑み込めてなかった。一回戦に参加した「つっこみ選手権」は、私は一押しだったのだが、敗退してしまった。それはつっこみ役そのものを楽しむ企画だったので、ネット動画向きではなかったということだろう。

キンコン西野氏がクラウドファンディングの意義を解説

論者の一人として、キングコング西野亮廣氏も参加したのだが、どうしても話題が絵本の”炎上”話になってしまった。だがこれについて西野氏が話したことも、ネット動画の考え方とリンクするものだった。

クラウドファンディングの効用は、お金を集めることだけではなく、先に読者を得ることなのだと言う。千人がお金を出してくれたなら、その千人は間違いなく読者になる。1万人ならそれがまた読者になる。その上、宣伝してくれたりと、ずっと味方になってくれる。クラウドファンディングでお金を出してくれる人がたくさん集まったので、自分はこの絵本が売れると確信できたという。

この話は、私が前に記事にした「この世界の片隅に」のクラウドファンディングについてプロデューサーの真木太郎氏が言っていたこととまったく変わりがない。

ここには、上から目線が存在しない。~『この世界の片隅に』プロデューサー・真木太郎氏に訊く~

そして、1万人に売りたい時に、1万人に投網をかけるのではなく、1万人の一人一人をモリで突いていく方が実は早いのだとも言う。投網をかけて誰も振り向いてくれないかもしれないし、一人一人にアプローチする方がずっと確実なのだと。

これも藤井亮氏がインフルエンサーの反応を得るために、地道にツイートし続けたことと重なる話だと思う。一人一人に丁寧にアプローチするやり方は、ネットによって拡散という大きな副作用をもたらすようになったのだ。

画像

さてこの「#(笑)動画作ってみた」は、今夜29日夜11時15分から90分の特別番組として放送される。”テレビとネットの文化”に興味がある人は見てもらうとかなり濃厚な議論を楽しんでもらえると思う。

何より、最終的に藤井氏がどんな動画を作ったのか、私も知らないので楽しみだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

境治の最近の記事