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「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画はどんなプロセスでバズったか?〜NHK #(笑)動画作ってみた〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画サムネイル

「ストップ恋愛ゼッタイダメ」が1位通過

11月15日付の記事で書いたが、NHKの実験プロジェクト「#(笑)動画作ってみた」に企画からアドバイザー的に関わっている。5チームのテレビ制作者、ネット動画の作り手が動画を制作し、競い合ってもらうものだ。5チームをまず3チームに絞り、最終的に優勝者を1チーム決定する。1次絞り込みの結果を元に、先日「フォーラム」と呼ばれるディスカッションが行われた。これと、最終結果が出たあとのフォーラムを収録し、来年3月にBSで放送する流れだ。フォーラムの様子と、その中で興味深かった点を紹介しよう。

まずトップで1次を通過したのは「ストップ恋愛ゼッタイダメ」を制作した藤井亮さんだ。この動画はかなりネット上でバズったので見た人もいるかもしれない。NHKのクレジットでこんな動画をネットで見るのはちょっとドキドキする。説明するより見てもらうのが早いだろう。

1位というのは、視聴回数に加えて、視聴時間、満足度、拡散力の4つの指標から総合順位を付けたものだ。「ストップ恋愛」は3つの指標で1位をとり、総合トップにつながった。

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他の動画も紹介しよう。2位は「じんぼさんと遊ぼう」。2時間サスペンスのパロディを、言われて見ると2時間サスペンスによく出演している神保悟志さんが一人何役も演じる楽しい動画。制作は2時間サスペンスの制作で知られる国際放映だ。

3位は京都の人気劇団・ヨーロッパ企画によるショートコント。宇宙船の中で展開するおマヌケな物語だ。セットのチープさがまた味がある。

ここまでが予選通過の作品で、以下4位と5位は残念ながら次へ進めない。4位は人気YouTuberおるたなChannelの「やってみた」動画だ。本命視されていただけに意外な予選落ちだった。

5位は、番組制作会社AX-ONによる「競技ツッコミ選手権」。ごく普通の映像にツッコミを入れることで面白くできるかを競う。実は私はこの作品がイチオシだったので残念だ。

でんぱ組.incのMCで中身の濃い議論になったフォーラム

さてこの結果を受けてのフォーラムは、非常に濃厚なディスカッションになった。この企画は動画の面白さを競い合うものだが、それを題材に議論するのが実は重要な部分なのだ。今回の指標設定も“試しに“やってみたもので、必ずしもこれで動画の絶対的な価値付けができるとは言えない。予選落ちの2作品も決して“劣っていた“わけでもなく、それぞれ面白かった。だから一種の“遊び“と受けとめてほしいし、その指標でいいのかどうかも議論したいところだ。

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フォーラムは、でんぱ組.incのみなさんをMCに、「週間動画RANKING」を運営するアレン・スワーツさんと寺島功毅さん、キングコングの西野亮廣さん、Twitterの分析で参加したデータセクションの伊與田孝志さんと吉沢知夏さん、そして私というメンバーで展開された。もちろん作った本人たちも参加した。(途中から謎のバラエティプロデューサーも飛び入り参加したのだが、それはまた別の機会に)

議論は多様なテーマで進んだので、ぜひ3月の番組で見てもらえればと思う。でんぱ組.incのみなさんのMCぶりも楽しいだけでなく、彼女たちが自分たちの活動を日々考えていることがよくわかるもので、素晴らしかった。

多様な議論の中で、ここでとりあげたいのが「バズはどんなプロセスで起こるのか」だ。

「ストップ恋愛」動画は、ある時からネット上で大変盛り上がり、最終的には45万回以上も再生された。考えてみると不思議だ。再生数は、おるたなChannelが圧倒的だろうと事前に予想していたのだ。何しろ、YouTubeのチャンネル登録者が50万人もいる。だったら数十万回の再生は、登録者に呼びかけるだけで達成できそうに思える。一方藤井さんは「石田三成CM」のヒット作があるクリエイター(電通関西のプランナーだがここでは個人として参加している)だが、何十万人もファンがいるわけではない。

この謎に関しては、データセクション社が作成したグラフが答えになりそうだ。

グラフ提供:データセクション社
グラフ提供:データセクション社

「ストップ恋愛」動画についてツイートした人数を追って行くと、突然爆発的に増えた日があったという。11月19日のことだ。まず、「石田三成」アカウントがツイートして一気に伸びた。石田三成を演じたツイートが人気で、フォロワー数は98,000を超えている。いわゆる”インフルエンサー”アカウントで、影響力は絶大。

これにより急激にツイートされていき、「おもしろ動画まとめアカウント」がツイートしはじめて加速した。こういう人たちは、つねに話題になっている動画を探し回っているのだろう。

次にニュースサイトが反応し、記事が掲載されていった。そして主要なニュースポータルサイトがそれらの記事をとりあげる。

インフルエンサー→おもしろ動画→ニュースサイト→ニュースポータル、という流れだ。分析したデータセクション社・伊與田孝志さんによれば、これは動画が拡散するひとつのパターンで、「ストップ恋愛」動画はそのパターンにうまく入り込めたと言えるそうだ。それぞれの段階をステップアップする過程で、「拡散の伝搬」が行われているのだという。その火付け役がインフルエンサーのツイートだった。

人びとと結びつきあうことでファンが生まれ、ファンが増える

こう書くと、動画拡散には手練手管があり、それを駆使することが大事なように思えるかもしれない。「ストップ恋愛」のtwitterアカウントは実際、動画についてツイートしたユーザーに積極的にからんでいったという。それは拡散のためであり、同時に本気のコミュニケーションだったのだと思う。この動画の面白さを伝えたい。わかってもらいたい。動画が面白いからというだけでなく、わかってほしいという真摯な思いがファンを生み拡散していったのではないか。

フォーラムの議論の中で、キングコングの西野さんがこんなことを言った。「絵本を出してその個展を開く時にクラウドファンディングを呼びかけたらたくさんのみなさんから資金を寄せてもらえた。それは実はお金が集まっただけではなく、味方になってくれる人が集まったととらえている。お金を出してもらうことで、活動を見守ってくれる人たちができて支えてくれた。大事なのはお金よりそこだと思う」だいたいそんな話だった。この話には学びが多いし、いろんなことに敷延できると思う。

クラウドファンディングでお金を集めることと、twitter上で興味を持ってくれた人に話しかけることは、似ているのではないだろうか。そしてネット上でのそうした行為は、実はものすごくたくさんの人が見てくれている。出資してくれたり言葉を交わしたりした人と同時に、それを見かけた人まで徐々に巻き込んでいく。気持ちまで拡散し、連鎖的に共振していく。そこがネットの最大の価値なのかもしれない。

この「#(笑)動画作ってみた」はこんな風に、テレビとネットの狭間で何が起こり、どう受けとめるべきかを見出そうという企画だ。今後の進展にも注目してもらえればと思う。1次ステップで残った3組が、次にどんな動画をつくるのか、私にとっても楽しみだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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