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NHKは6つのテキストサイトを停止、新聞業界は得をするのか?

境治コピーライター/メディアコンサルタント
AdobeFireflyにより生成

NHKが自分で選択し、新聞協会の攻勢もあってテキストニュースを縮小

NHKは「政治マガジン」「事件記者取材ノート」「国際ニュースナビ」「サクサク経済Q&A」「サイカル」「アスリート×ことば」の6つの特設サイトを3月29日に終了する。この件は内部情報を得ていたので記事にしようと思っていたら、朝日新聞が報じていた。

NHK、「政治マガジン」など6サイト更新停止へ 新サービスを検討(朝日新聞3月7日)

これには驚いた。新聞協会が要望していたことを、NHKが具体化するのに「関係者への取材でわかった」とスクープのように書くのはどういう神経だろう。

「サイトの停止でサービス低下を懸念する声があるが」とまで書いていて、だったら要望するなよと言いたくなる。

NHKテキストニュース縮小の経緯については2月29日にも佐々木俊尚氏をゲストに配信した「新メディア酔談」で説明している。

この中で佐々木氏にお見せした、経緯を説明するチャートを載せておこう。

筆者作成
筆者作成

23年5月26日の総務省有識者会議「公共放送ワーキンググループ」でNHK井上副会長が「NHKのネット業務は放送と同一の内容」を方針とするとプレゼンしたことが発端だ。元々NHKネット業務が必須業務化されることに反対していた日本新聞協会がこれに勢いづくように大攻勢をかけ、最終的にNHKのテキスト情報は災害時や重大事件を除くと「番組表など放送番組に密接に関連する情報又は放送番組を補完する情報等に限定する」と決まってしまった。

NHKが自ら言い出したことであるのは間違いない。その代わり、放送の同時配信アプリ「NHKプラス」は必須業務となり、テレビを持たない人でも積極的に使いたい人は契約できることになった。

つまり、NHKは「プラス」の有料化と引き換えに、テキストニュースの大幅縮小を呑むことで、新聞協会とバーター取引をしたと見ることができる。ていうか、そうなのだ。

共同通信は、新聞協会が必須業務化を承認したとわざわざ記事にしている。まるで29日に向けてタイミングを合わせたかのような動きではないか?

NHKネット配信必須化受け入れ 範囲限定を評価、新聞協会 (共同通信:3月8日)

そこに、国民にとっての利益になるかどうかの視点は全くない。そこをまったく考えずに業界の内輪だけを気にして決めた、国民不在の決定だ。だが果たして、新聞社にとって利益になるのだろうか?新聞協会には、メディアがどれだけ危機的状況かが見えていないようだ。

新聞は伸びるネット広告市場で売上を落としている

新聞業界の人々は私が想像していた以上に「NHK民業圧迫論」を唱える。頭の硬い年配者が言っているだけで若い現場の皆さんはそんなこと考えていないと思っていたが、そうでもないようだ。

ここからは新聞の皆さんに言いたいのだが、新聞協会の言う通りなら今回NHKのテキストニュースが大幅に縮小されることで、民業圧迫が大きく後退するはずだ。それで皆さんは実際に得をするのだろうか?経済的メリットがあるの?

2月27日に電通が発表した「2023年日本の広告費」で衝撃を受けたのは、「新聞デジタル」が下がっていたことだ。

電通「2023年日本の広告費」図表2:媒体別広告費<2021年~2023年>より
電通「2023年日本の広告費」図表2:媒体別広告費<2021年~2023年>より

電通は「インターネット広告費」の中に2018年から「マス四媒体由来のデジタル広告費」の分類を設け、それぞれのデジタル版の広告収入を載せている。「ラジオデジタル」はradikoの売上だろう。「テレビメディア関連動画広告」はTVerやABEMAだと思う。

「新聞デジタル」「雑誌デジタル」はそれぞれのネット版のことだ。「新聞デジタル」は雑誌に比べると小さいが、毎年伸びていた。インターネット広告市場全体が伸びているから当然と言えば当然。伸びないはずがない。

ところが、2023年は208億円で、前年の221億円から6%近く下がっていたのだ。そんなことがあるのかと驚いた。

電通「日本の広告費」2018年〜2023年のデータをもとに筆者作成
電通「日本の広告費」2018年〜2023年のデータをもとに筆者作成

伸びている市場でとにかく活動していれば、全体に合わせて伸びるものだ。下がるなんてこと、起きるはずがない。だが起きていた。上の2軸グラフを見れば明らかなように、ネット広告の成長に沿って伸びていた新聞デジタルが、突然カクンと折れて下がっている。

NHKの民業圧迫のせいだろうか?NHKは前々からネット展開を行なってきた。それが突然2023年になって急に本格的に圧迫してこうなったのか?いやいや、NHKのテキストニュースにそこまでのパワーはないし、突然影響するなんておかしい。ではなぜか?私が運営するMediaBorderでも先日来書いているように、ネット業界が荒れているせいだ。MFAサイトが広告収入を収奪したり、SNSで記事が前ほど拡散されなくなったり、おかしなことになっている。

ネット広告市場は悪魔に侵され3兆3330億円に膨らんだ(MediaBorder:3月4日)

つまり、新聞にせよNHKにせよ、まっとうな記事が流通しにくくなっているのだ。MFAだの、フェイクニュースだの、詐欺広告だの、インプレゾンビだのにネット上のコミュニケーションが侵されているからだ。

そんな中でのNHKのテキストニュース縮小はとんでもない大間違いではないだろうか。少なくとも、カオス化するネット空間においてまともな情報源が減ってしまうのだ。国民にとって、よりによってこんな時になんてことするんだという事態。

新聞のネット版にとってもむしろマイナスに働きそうだ。まっとうなニュースが減ることで、他のまっとうなニュースの流通にも悪影響を及ぼすのではないか?

「民業圧迫論」は正しい主張と言えるのか?ライバルを蹴落としたつもりが、自分たちの居場所まで削ってしまっていないか?

想像してみてほしい。来年電通が発表する「2024年日本の広告費」で「新聞デジタル」は回復するだろうか?NHKテキストニュースが縮小したおかげで、あなたたちの広告収入は増えるのか?そんな実感あるの?

たぶん、増えないんですよ。なぜならば、この現象はNHKとまったく関係なく起こっているから。新聞のネット版へのトラフィックがそもそも減ってるからだよ。おかしなサイトが増え、SNSでは雑誌のスクープを軸にした罵り合いが氾濫し、SNSでは雑誌のスクープを軸にした罵り合いが氾濫し、まっとうなニュースがYahoo!とスマニューでしか届かなくなっている。

全メディアで協力して情報圏を作れ、国民のために

これを解決するには、スクラムを組むしかない。NHKのテキストニュースを縮小するのではなく、それをポータルのように使ってまっとうなニュース同士でリンクを貼って連携していく。

NHKでガザのニュースを読んだら、朝日新聞や読売新聞の解説記事に飛べる。両方を読み比べることができる。

能登半島の復興の記事がNHKに出たら地元紙にリンクが貼られていて、もっと細かい地域のニュースが読める。読者はそのリンクを渡っていれば、荒れたネット空間に出なくてもまっとうな情報が手に入る。

もちろんその情報圏には民放のニュースも入ってもいい。いま動画ニュースは結構視聴されている。YouTubeでは怪しい陰謀論動画だけが見られているわけではなく、意外に民放のキャスターによる解説動画が何十万回も再生されている。能登半島地震の時もローカル局の動画がかなり回った。

それらも相互リンクに加わってもらい、新聞でさらに解説した記事に飛べれば、読む側にとってこんな便利な仕組みはない。

これまで、既存メディアはプラットフォーマーにしてやられてきた。服従させられ、広告収入を抜かれてきた。逆襲する時だ。

その際に「新たな国産プラットフォーム」なんて作らなくてもいい。NHKをハブにすればいいのだ。なにしろ彼らは広告収入を得てはいけない。経済的にはスルーで、得られるべき広告収入は新聞や民放がちょうだいすればいいわけだ。

NHKから新聞へ、民放へ。民放から新聞へ、新聞から民放へ。そんな空間をつくれば私たちも安心して渡り歩ける。荒波に打たれかねないカオスの海へ出る必要は無くなる。人々を不安にしない公共情報圏は今なら作れる。荒れたネットに辟易としている人々は大勢いるはずだから。

もちろん使う側は気軽にネットにも出ればいい。選択肢を、自己責任のネットワールドと、信頼できるメディアに囲まれた安心世界と、両方用意し使い分けてもらえばいい。

これが絶対正解とは言わないが、方向性としては協力し合って何らかの共栄圏をつくることで間違いないと思う。その線に沿って一緒に話し合えば、適した形が見つかるはずだ。

だが問題はNHKにしろ新聞業界にしろ、上層部は「国民のために力を合わせる」なんてことは考えないことだ。なぜならば、ネットを自分で使ってないから、いまの荒廃ぶりがわからない。そして残念なことに、上層部で議論してもらわないと共栄圏は実現しない。

いや、どうかなあ?新聞業界の人は若い層も「NHKは敵だ!」で凝り固まってるんじゃないの?共栄圏を構築する、なんて発想がそもそも、新聞業界には持ち得ないことかもしれない。

それはともかく、29日に起きようとしているのは、言論界が自らの首にギロチンを落とすようなことだ。NHKも新聞業界も、その重みがまったくわかってない。もう手遅れだ。どうしようもなく愚かなことが、もうすぐ起ころうとしている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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