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NHKのクレジットで世に出ているのが不安になるネット動画対決

境治コピーライター/メディアコンサルタント
#(笑)動画作ってみたトップページ画像より

NHKが取り組む笑える動画対決がクライマックスへ

12月の記事で紹介したNHKの「#(笑)動画作ってみた」という動画対決が、絞られた3チームによって最終ステップを迎えている。いよいよ本日、1月31日までの4つの指標で結果が出る。

参考(12月の記事→「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画はどんなプロセスでバズったか?~NHK #(笑)動画作ってみた~)

3つの作品は、正直言っておじさんである私の理解を超えかけている。ぜひみなさんも見てもらって、褒めたり貶したりしてほしい。いずれも”笑える動画”のボーダーラインに挑んだ問題作揃いだ。

既存のジャンルに当てはまらない「プロファイリング昔話」

一回戦の動画「ストップ恋愛ゼッタイダメ」がかなりバズった藤井氏。まずはそちらをあらためて見てほしい。

「ストップ恋愛ゼッタイダメ」サムネイル画像
「ストップ恋愛ゼッタイダメ」サムネイル画像

→「ストップ恋愛ゼッタイダメ」動画ページ

ネットで話題になったので見た方も多いかもしれない。この動画も私の理解ギリギリだったが、かろうじてその範疇だったのは、どことなく見たような(でも絶対に見たことない)教育ビデオのスタイルに収まっているからだと思う。ところが、決勝作品はもう遠いところに行ってしまった。

「プロファイリング昔話」サムネイル画像
「プロファイリング昔話」サムネイル画像

→「プロファイリング昔話」動画ページ

見てもらえただろうか。これは・・・何だろう?私の頭の中でこの動画をどこに置いてどう整理すればいいかわからない。なぜプロファイリングで昔話を語るのか、元似顔絵捜査官・犬塚氏をわざわざ出してきた意味すらわからなくて途方に暮れてしまう。だが強烈な印象を残したことは間違いない。

自ら作ったフレームを突き破ってしまった「家政婦もミタ」

次は、2時間サスペンスをテレビで制作してきた国際放映が挑んだ「2サス」のパロディ。まずは一作目を見てもらいたい。誰もが何度も目にしてきた俳優・神保悟志を文字通り使い倒した怪作だ。

「2サス刑事・十律川警部」サムネイル画像
「2サス刑事・十律川警部」サムネイル画像

→「2サス刑事・十律川警部」動画ページ

すべての役を神保氏が演じるという、自ら作ってきた2サスの世界で遊んだ作品。さすがクオリティも高く、楽しめる動画だ。

その続きとして、またもや神保氏で遊びまくって、決勝に挑んできたのがこれだ。

「家政婦もミタ」サムネイル画像
「家政婦もミタ」サムネイル画像

→「家政婦もミタ」動画ページ

どうだろう?前作もかなり無茶な作品だが、「2サスのパロディ」の枠に収まっている安心感があり、楽しく笑うことができた。だが今作は・・・これまた何と言っていいかわからなくなってしまった。もちろんこちらも「家政婦は見た」もしくは「家政婦のミタ」のパロディとして始まっているのだが、途中からそこを踏み出し、とんでもない方向に走って行ってしまった感がある。ついていけた方も多いかもしれないが、私は途中から食らいつくのを諦めた。理解の範囲を超えてしまったのだ。

「あるある!」の範囲の中で留まってくれた「ミクロコスモス」

次に見てもらうのは、ヨーロッパ企画の「ミクロコスモス」だ。これもまず前作を紹介する。

「ミクロコスモス」サムネイル画像
「ミクロコスモス」サムネイル画像

→「ミクロコスモス」動画ページ

壮大な宇宙を舞台に繰り広げられる馬鹿馬鹿しいコントで素直に楽しめる。そして二作目だが、前の2チームからするとこれも果たして私は理解できるだろうかと不安におののきながら見てみた。

「ミクロコスモス・エイリアン編」サムネイル画像
「ミクロコスモス・エイリアン編」サムネイル画像

→「ミクロコスモス・エイリアン編」動画ページ

私はこれを、最後の方は声に出して笑いながら見た。笑って見終わって、ホッと胸をなでおろした。ああよかった。私にも理解できた。理解の範疇に留まってくれた。むしろ、一作目よりもわかりやすく「あるある!」と指差したくなる題材で最後まで攻めてくれた。

”面白い”とは何なのか、あらためてわからなくなった

さてこの動画対決は、総合的なポイントを比べて最終的な結果が出る。その要素の一つに再生数があるが、それだけで決まるのではない。

という前提で、再生数を見ると、ここまで「プロファイリング昔話」が圧倒的に多い。26万回を超えており、次の「家政婦もミタ」とは10倍の差がついている。

またTwitterで「プロファイリング昔話」を検索すると、かなりバズっているのもわかる。Tweetを見ると、「ツボにはまった」という人も多いようだ。だが未だに私にはこの動画はわからない。理解の範疇を突き抜けてしまっている。「家政婦もミタ」もそうだ。「ミクロコスモス」は安心して笑えた。

この対決は、あらかじめNHKが選び抜いたチームが挑んでおり、かなりレベルの高い争いになったと思う。それぞれ一回戦を勝ち抜き、またのちに放送されるのだが、一回戦についてディスカッションする「フォーラム」も行われた上で、決勝戦に臨んでいる。フォーラムで出たいろんな意見やデータをもとに、みんな相当考えたに違いない。だから、ハイレベルな戦いがさらにレベルアップしている。

そしておそらくそれぞれ、何かの臨界点に挑んだのだと思う。その結果、スレスレのギリギリを目指したのだ。それが、私のようなロートルには「遠くに行った」と受け止められた一方で、広いネットにはそんなギリギリのラインも楽しめる見巧者が大勢いたのだろう。

そうすると、”面白い”とは実に微妙なものだと思えてくる。理解できるから面白いのか、理解できないから笑えるのか。人により違うのかもしれない。実際、子どもの頃大笑いした番組をいま見てもちっとも笑えなかったりする。時代によっても変わるのだろう。

そんなことを考えさせられたこの企画。近々また「フォーラム」が開催されるので、これについてもまた書きたいと思う。

それにしても心配なのは、こんなスレスレの動画たちを、NHKのクレジットで世の中に出してよかったのかということだ。誰かが怒られたりお叱りの電話が行ったりしないか、大丈夫だろうか?

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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