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図面管理は製造業の隠れた最重要課題だ!

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
これからの製造業は図面の管理が重要であり、それにより効率化が進む(写真:アフロ)

「まったく以前の図面が見つからない」。

コンサルティングの現場で、こんな声をよく聞く。私はサプライチェーン関連のコンサルティングに従業している。調達品の価格を分析すると、多くがばらついている。ほぼ同じ調達品なのに、100円だったり200円だったりする。調達品の履歴を調べたら、こんなデタラメな価格で決定しないはずだ。なぜ--と問うと冒頭の返信が大半だ。調べるのに莫大な時間がかかる。そして、調べる工数も捻出できない、と。

製造業で図面管理は、価格の一貫性と品質を確保するために不可欠だ。それぞれの製品や部品に対応する図面は、設計、製造、調達のプロセスにおいて、その企業が生む付加価値の源泉と核心となす情報を表現する。

しかし、図面管理には課題がばかりだ。図面のバージョンはいくつも入れ替わる。もっとも、図面のバージョンはいささか高尚すぎる。現場にいると、もっと幼稚な、原始的なニーズが満たされていない。つまり、最終バージョンであっても、異なるプロジェクト間での共有、過去の図面の追跡と保存ができていない。

さらに単純にいえば「この図面に似た製品を、以前に調達した気がする。そして、記憶の片隅にある。でも、思い出せないし、探せない」というケースが多発しているのだ。製品番号ごとの調達履歴は残っているし、価格データもすぐに調べられる。ただ、その製品番号のものがどのような寸法で、どのような形状だったのか。よくわからないし、類似品も不明なのだ。さらに、データロスのリスクもある。これらが製造業の調達担当者にとって頭痛の種だ。

図面は、企業の設計者が貴重な時間と技術を費やして作成する命の情報であるにもかかわらず、あまりにぞんざいに扱われている。これは驚愕するほどだ。私は製造業で働いていたとき「類似品が見つからないね、新しく書いたほうが早いね」と語る設計者の存在に驚愕したものだ。「ぶへ。だって先人たちが書いたんだから、それを使えばいいじゃん」といっても、「でも見つからないんだよ」と言われた。経営者は注目しないかもしれないが、“探しにくさ”は現場では立派な業務の非効率要因だ。

製造業のすべては図面に依存している。図面が不鮮明だったり、適切に整理されていなかったりすれば、製品の品質が低下するし、プロセス時間が増大する。つまり、結果として企業の競争力が低下する。こんなに重要なのに、その悪影響度を理解されていない。

現代では、古い図面が紙のみで保管されている一方で、新しい図面はCADのデジタル情報で作成される。図面管理をいっそう難解なものにしている。図面は企業の付加価値の中心を握るから、「以前の図面もせめてPDFで保存しろよ」と思うが、「PDFにしても、役に立つかわかんないもん」と言われる。紙ベースの図面は、紛失のリスクが高く、検索や共有が難しく、管理が非効率的であるのに、「役に立つかわかんないもん」という本音ゆえに、放置されている。

この問題は、新たな調達品を購入する際に過去の価格と比較することが難しくなる新たな課題をもたらす。

これらの課題に対する解決策の一つとして、図面のデジタル化と一元的なシステムでの管理が考えられる。たとえば私が注目しているのは、「CADDi DRAWER」(https://caddi-inc.com/drawer/)だ。図面をPDF化してアップロードすれば図面から製品サイズなど(図面番号や材質、部材名称、形状の特徴)を読み取りデータベースへ格納してくれる。

デジタル化とシステム化を図ることで、過去の図面を即座に見つけ出すことが可能となり、価格比較を容易にし、設計の一貫性を維持することも可能となる。

もちろん他にもITを活用したソリューションはあるだろう。こうしたシステムの導入は、リソースの最適化、効率性の向上、生産スピードの増強、そして最終的には企業の競争力の強化に直結するものだ。

過去の図面は重要だが、埋もれてしまって探せない。しかも探せるように工夫する時間もない――といった戯言を繰り返すくらいであれば、さまざまなシステムの導入を検討するほうがはるかに生産的だ。

デジタル化とシステム化された図面管理は、調達担当者が製品の生産と適用をより正確に管理し、既存の製品の改良や新製品の開発を支援する。デジタル化された図面は、すべての情報が一元化される。よって図面の共有、分析が容易になる。製造プロセス全体の透明性を高め、製造現場での協働を促進する。

全体の製造プロセスが効率的に管理されると、調達担当者はより具体的な戦略を立てる時間を融通できる。現在は価格決裁を求めるくだらないエクセル資料と、無意味なパワーポイント資料を作ることに時間を費やしている。

図面のデジタル化により、既存製品の調査や分析が容易になる。それに基づく調達判断が迅速になる。図面の情報を迅速に検索できることで、過去の調達データと比較し、最適な調達品を選択できるだろう。調達業務の効率を向上させる。

調達部門の部屋は資料で溢れているのが通常だ。しかし、図面のデジタル化は企業の持続可能性にも寄与するかもしれない。紙図は環境に悪影響を及ぼし、大量の物理的なスペースを要する。一方、デジタル化された図面はサーバーの面積だけだ。

冒頭で紹介した「まったく以前の図面が見つからない」とは、もしかすると「まったく新たな施策を見つけようとしない」と吐露しているのと同義かもしれない。

*なおこれはアフィリエイト等の記事ではない

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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