シェアリングサービス時代における飲食店の始め方(ちょっと感動)

脱サラ起業の大半は失敗するといわれるが……。

葛和満博氏という預言者

私は卒倒するような豪邸のなかで、ひとりの老兵士を待ち構えていた。その老兵士こそ、私がインタビューしたいと願っていた人物であり、もはや、預言者ともいうべき存在だった。

葛和満博氏--。

出版社の帰り、神保町の古本屋で手に取った本に私は心を奪われていた。その本には、たとえば、ロバート・キヨサキ氏が、あるいは竹村健一氏が、あるいは邱永漢氏が述べていたことを、あるいは現代の論者が語る利殖法を、はるかに先取りする言説に溢れていたからだ。

葛和社長(当時、現ジャスマック会長)が運営するジャスマックのビジネスモデルは、次のようなものだ。飲食店のオーナーになるために、お金を出す一般人がいる。それを現代でいえば、証券化するようにし、ジャスマックは店舗などを用意する。そして、その店舗をまるで、銀行でいうお金のように、料理人希望者に貸し出す。それが「店舗銀行」のシステムだ。お金を出したオーナーは投資信託のように、利回りを受取る。

昔、それまで、オーナーと経営者は同一と思われていた。つまり、金を出す(オーナー)人間と、経営を執務する人間(経営者)は、おなじだった。たとえば、飲食店を開きたいと思うひとがいる。そのひとは、店のオープン資金も払うし、そして、実経営や調理も行う。しかし、それは分離されてしかるべきだ。お金を出すひとは、もしかすると、料理人としての、あるいは、経営者としての才能がないかもしれない。それであれば、分離するほうがより効率的な運営ができる。

その40年前の著作から見てみよう。

オーナーが株主になって出資した資本を、飲食店舗として投資し、委託経営によって得た利益のなかから、契約で定めた一定の配当を会社の口座へ振り込ませる。そして、店舗の管理は管理センターに委託し、管理センターはユーザーと「店長契約」を結ぶことによって、オーナー会社に対して配当保証をするわけだ。

出典:飲食業のオーナーになって儲ける法1977年

つまり、飲食店をもちたいと思っていながら、料理を出す自信がないひとがいたとする。それなら、お金さえ出せばいい。そうすると、ジャスマックの管理センターが料理人兼経営者を紹介してくれる。そうすれば、見事に特技の分離が行われる。この管理センターを運営するのが、葛和満博氏というわけだ。

これはお金を出すオーナー側にも朗報だ。お金を出せばリターンを得られる。逆に、経営者側は、お金がなくても、理想の飲食店をオープンできる。ありていにいえば、「ウィンウィンの関係」だ。ロバート・キヨサキ氏は、労働者、経営者、オーナーの違いを鮮やかな比喩で紹介したが、その比喩を待つことなく、正しい宣教者は、この日本にいたのである。

葛和満博氏という預言者

さらに葛和満博氏は、飲食店でいえば十坪前後を基本としていた。経営に詳しいひとは知るとおり、飲食店は、大きくなるほど利益率が低下する。ほんらい素晴らしいのは、小さな繁盛店だ。十坪ていどであれば、人を雇う必要すらない。投資額も大きくならない。経営を任される側からしても、ママさんひとりでなんとか切り盛りできる範囲だ。

思うに、この資本と経営の分離は、コーポレートガバナンスが流行する現在では当たり前のことだ。しかし、それを説く早さが絶対的に新しかった。さらに、この思想は、自らの経験から辿り着いたという。出資と経営を分離することにより、経営効率があがったというのだ。

彼らのこれまでの働きぶりを知っている私の目から見れば、激的な変ぼうぶりだった。私が経営しているときも、このくらい働いてくれていたらなあと思ったものだが、人間というものはそういうふうにはできていない。

給料をもらっている人間は、これくらいが給料分だと思う程度にしか働かない。そして、売り上げの上昇が利益にかえってくることが分かれば、働きに働くものなのである。しかもいまや自分の店である。

出典:「生き抜く力」の法則1993年

当たり前ではないか。

マルクスは資本家と労働者の階級が誕生する必然を歴史のなかに見て、そして、労働者階級が革命の主体となることを歴史の段階とした。それにたいして、葛和満博氏は労働階級が、自らの店をもち、自発的かつ幸福に店舗経営する夢を見たのだ。

葛和満博氏の先進性はこれだけではない。土地神話の終焉する遥か前から、自宅取得の危険性を説いていた。しかも、それはいまから40年以上も遡った時点からだ。その意見は一貫している。

たとえば、不動産としての土地のみを価値と感じる風潮についてこう違和感を述べている。

米づくりを長く主な産業としてきたわが国では、その米を生み出す「土地」が唯一無二の富の象徴でさえあった。だから、不動産と聞くと、まず「土地」を思い浮かべる人が圧倒的に多い。しかし、欧米では、「建物」である。土地の上に何が建っていて、どのように利用されているか、で不動産の価値が決まる。

出典:「生き抜く力」の法則1993年

考えて見るに、当たり前ではないか。何かがどれだけ稼ぐかは、その収益価値による。

だから氏にとって、マンション投資や、あるいは一軒家購入は、愚行に映る。なぜならば、それは収益を生まないばかりか、借金を抱える対象だからだ。

葛和会長との会話

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――現在はシェアの時代です。自動車をシェアするサービスは一般的で、かつAirbnbのような宿泊場所もシェアリングするサービスも出てきました。私は、経営と資本の分離もさることながら、飲食店の場をシェアリングする先見性に驚きました。

会長「飲食店は、AIの発達と、レシピの発展で、統計学になってきました。以前と違って相当な機械化ができます。だから、あとは人間だけでできることをやっておけばいい。経営者のタレントビジネスです。統計的に集客は予想できるので、あとは経営者の魅力を加えてほしいんですね。いまでは、オーナー側は募集しておらず、フィンテックで資金は集められます。資金は少ないけれども、挑戦したい料理人たちを集めて場を作っています」

――たとえば製造業とかで脱サラするのは難しいけれど、飲食店なら……という容易さもありますよね。

会長「選べる職業は、なかなかないと思うんですよね。定年したからはじめられる、という仕事は。だけど、飲食店であれば残りえます。もちろん飲食店といっても容易ではありません。ただ、そこは机上の空論ではなく、これまで40年もやってきたノウハウがありますからね。あるていどは統計的に売り上げと利益は予想できます」

――それに、昔は毎月末に締めて、やっと売り上げとかがわかっていたけれど……。

会長「いまでは、毎日のように各メニューの売り上げとかがわかります。次の一手も打ちやすい。客単価をあげるのが小規模の飲食店では重要ですが、そのための方法も考えられます。さらに重要なのは、飲食店が、街の魅力を使えることです。たとえば、他の仕事だったら、自分だけで頑張らなければいけません。でも、飲食店であれば、新宿の歌舞伎町とか、地方都市とか、その魅力を使って飲食店をオープンできます。これは大きな利点なんですね」

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――繁華街の魅力をそのまま使えるわけですね。話が変わるようなんですが、いまではFacebookもGoogleも、ターゲットとなる潜在顧客についてただちに宣伝を打てます。顧客リストを持たずに商売をはじめられる。そう考えると、このジャスマックのシステムも、繁華街にオープンすることで、そこに集まるお客を使えるというわけですね。

会長「さらに、ジャスマックでは、ビル一棟を購入しています。繁華街の魅力という話ですが、繁華街がなくても、ビルとして魅力的であれば人が集まる。たとえば、どこかに食事に行った帰りに、ビル内の他店で二次会をする、とか」

――ただ、私も飲食店は容易といいながら、継続する難しさがありますよね。

会長「すべてが成功はしません。数カ月たったら、撤退するひともいるのが事実です。しかし、初期費用が数千万円かかるわけではないので、失敗の傷も浅いでしょう。それにいっぽうで、失敗した人も多くはないんですよ。ずっと継続している人は多いし、どうでしょうか……撤退したのは2割くらいだと思います」

――あえていうと、雇われ店長のバージョン違い、ともいえるかと思いますが。

会長「だから、ずっと厨房に立つのではなく、その後にオーナーになっていく道も用意していますし、私たちにかかわらずともオーナーになってもらってもいいんです。リスク分散の観点からも、そっちがいいでしょう」

――もちろん挑戦しやすいとはいえ、飲食店の難しさは変わらないと思いますが。

会長「ええ。だから、その利益の出方も問題でしょう。たとえば、東京と地方都市では、土地代がまったく違います。しかし、どうでしょう。家賃はその土地代の倍率ほどは変わりません。地方の収益効率が良いともいえます。飲食店もおなじです。たとえば、ビールは全国どこでも、さほど原価は変わりません。もちろん銀座で出すビールは高いものの、博多で出すビールも土地代の差ほどはないですよね。せいぜい800円と500円の差です。だから現在ジャスマックでは、地方都市を狙っているんですね。比較的に地方が優位になっている。東京の土地代を払って収益性もうまくいくのは難しいんです。それに、リスク分散の意味もあります。地震などのリスクを避けるためには、できれば地方都市を含めた分散がふさわしいですからね」

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――会長の発言が正しいかは、ほんとうにビジネスとして上手くいっているかどうか、実績を見ればいいわけですよね。

会長「その意味では、もう現在では募集していないオーナーに対する利回り支払いについて、これまで一度も遅れたことはありません。これは私が自慢したいことの一つですよ。これから銀行が貸出先に困ると思いますが、けっきょくは、これから人に投資するしかありません。そのとき、飲食店経営者となって挑戦したいという人に投資するというのは、一つの有効手段だと思います。飲食店、とくに水商売は、いまだに粗利益が高い商売ですから」

――なるほど。なんといいますか……。ビジネスモデルをこえて、会長の人間自身に興味をもってしまいましたよ。この商売を続ける目標とかあるんですか?

会長「いや、もうあとは社会貢献ですよ。いま地方にビルを作っていて、それはデザインがすごいんですね。デザインは、人間にしかできない。あっといわせる自信があります。あと数年で、このモデルを完成させて、AIができることも突き詰めていきたい。あとは、この管理モデルを海外で展開するとか、あるいは、誰かが広めてもらいたいんですね。そして、このシステムで幸せになる料理人や経営者を一人でも増やしていきたいんです」

――ありがとうございました。

対談を終えて

こちらの質問に瞬時に答えて、語る会長の姿は、たしかに80代とは思えぬものだった。現在では「スケール」という言葉が使われる。これは、一つのビジネスモデルを拡大することで、収益と利益を増殖させていくことだ。そのとき、不動産投資も有効な手段だが、どうしても土地の価格に依存する。これから特定地の上下落を予想するのは難しい。また、株式も予想が困難だ。

私は、インデックス投資はいまだに有効とする立場にある。しかし、またグローバルREITもある。ただ、同時に目に見える投資の一つとして、飲食店経営者という人間に――投資するのも、たしかにひとつの手法だろう。

はるか40年前に、だいぶ先を見つめていた老兵士は、いまだにその熱意を衰えさせることなく、私の胸を打つことに成功した。たしかにそれは--、機械ができない、「何か」を体現しているように思われた。

対談者プロフィール:葛和 満博(くずわ みつひろ、1931年12月1日- )は、日本の実業家、経営者。店舗銀行システム を創設し、飲食店向け内装 設備付きリース店舗を展開 。株式会社 ジャスマック 取締役会長(創業者)。

1931年12月1日 、満州大連に生まれる。戦後 大阪に引き揚げ、高等学校卒業まで在住。早稲田大学 商学部在学中に貿易会社を興す。その後、数種の事業を経営。 1961年 店舗銀行システムを創設して、全国の社有商業ビルで、飲食店向け内装 設備付きリース店舗を展開。新しい所有と経営の分離の普及につとめている

ジャスマック HPアドレス:https://www.jasmac.co.jp/