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『ふてほど』河合優実以外にも注目を。冬ドラマで抜擢に応えた3人の新進女優

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)フジテレビ

冬クールのドラマが終盤に差し掛かっている。今期は『不適切にもほどがある!』(TBS系)が話題を呼び、昭和のスケバンを演じる河合優実が地上波連続ドラマでは初の大役にして、脚光を浴びた。彼女のインパクトとドラマの注目度に隠れた感はあるが、他にも抜擢に応えた新進女優が目につく。3人をピックアップしたい。

二階堂ふみに続く存在になるか

 河合優実は連続ドラマでのレギュラー出演は少なかったが、映画界ではすでに名の知られた存在だった。2021年公開の『由宇子の天秤』で、主人公のドキュメンタリーディレクターの父親が妊娠させた女子高生を演じ、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭の最優秀新人賞などを受賞。他にも『サマーフィルムに乗って』、『PLAN75』、昨年公開で主演の『少女は卒業しない』など多くの作品に出演し、演技を高く評価されていた。

 昨年はNHK BSの連続ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』で、家庭に問題を抱えながらタフに生きる役で主演。それでも軸は映画に置くかと思われたが、来期には深夜ドラマ『RoOT/ルート』(テレビ東京系)での主演が決まっている。『ふてほど』での評判で、さらにドラマに進出する転機となるかもしれない。

 そういう展開をした女優には二階堂ふみがいる。やはり当初は『ヒミズ』、『地獄でなぜ悪い』、『私の男』などで鮮烈な演技を評価されつつ、陰のあるイメージもあり映画向きのイメージがあった。

 しかし、「知名度を広めたい」とレギュラーになった『ぐるぐるナインディナイン』の『ゴチになります!』でのバラエティ展開と合わせ、ドラマ出演も増やしていく。朝ドラ『エール』でヒロイン、昨年は大ヒットした『VIVANT』にも出演し、現在もラブストーリーの『Eye Love You』(TBS系)に主演。テレビでもすっかりお馴染みになった。河合も続くのだろうか。

(C)TBS
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『君が心をくれたから』出口夏希の良き妹ぶり

 その河合に負けないくらい光っているのが、永野芽郁と山田裕貴のファンタジーラブストーリー『君が心をくれたから』(フジテレビ系)で、山田が演じる朝野太陽の妹・春陽役の出口夏希だ。

 永野が演じる逢原雨が、事故に遭った太陽の命を救う奇跡を起こすのと引き換えに、五感を失っていく重苦しい物語の中、唯一の陽気なキャラクターとして、場を明るくする役割を担ってきた。

 いつも元気いっぱい。高校時代から雨に想いを寄せる太陽に、「コクっておいでよ!」と体をぶつけながらけしかけて、「時は来た」と往年のプロレスラー・橋本真也のモノマネも見せた。

 父親にバッグをねだって「毎度ありぃ!」などとちゃっかりしたところも見せながら、根は健気なまでに家族想い。太陽が雨への想いを断ち切ろうと、高校卒業のときに渡しそびれたままの指輪を草むらに捨てた際には、1人で手を汚しながら探し出して雨に届けた。「おにい(兄)の青春を成仏させて」と真剣に訴える姿は感動を呼び、本当に良い妹だなと感じさせる。

 後半では、太陽が雨のために家業の花火師をやめると聞き、葛藤しながら雨に「おにいの前からいなくなってください」と懇願する場面も。兄を想うゆえに憎まれ役になって。

 一見おおらかな役を、出口が繊細に作り上げていることが伝わる。シーンごとに自然な変化を付けながら、兄を想う核からブレがなく、好感を生んでいる。

次期クールでは山下智久主演ドラマのヒロイン

 出口は母親が中国人という22歳。「ミスセブンティーン2018」から「Seventeen」専属モデルになったときから、美少女ぶりは際立っていた。現在は「non-no」でモデルを務める一方、女優活動も並行し、昨年から大きな役が増えている。

 Netflixのドラマ『舞妓さんちのまかないさん』では森七菜とW主演で舞妓見習い役。青春恋愛コミックの名作をドラマ化したWOWOWの『アオハライド』でも主演を務めた。

 ロングヒット中の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』では、福原遥が演じる戦時下にタイムスリップしてきた女子高生と友だちになる少女役。前クールの『いちばんすきな花』では、田中麗奈が演じた美鳥の大学時代の役で登場し、「あの美少女は誰?」とネットをザワつかせた。

 さらに、次クールでは山下智久主演の『ブルーモーメント』(フジテレビ系)で、ゴールデン・プライム帯で初のヒロインを務めることも発表された。気象研究所の助手という役どころで、中国語が堪能な帰国子女の設定。幼い頃から話している中国語を、ドラマで披露するのは初めてという。

 同作の高田雄貴プロデューサーは「華やかさ、凛とした強さ、フレッシュさの3条件をハイレベルで兼ね備えた方」とコメントしている。ブレイクからヒロイン級の常連となっていく勢いだ。

(C)フジテレビ
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出口夏希インタビュー「朝からテンションを上げてます」

『アイのない恋人たち』岡崎紗絵は地味な役をリアルに

 恋愛偏差値の低いアラサー男女7人の群像劇『アイのない恋人たち』(ABCテレビ・テレビ朝日系)では、岡崎紗絵がゴールデン・プライム帯では初のヒロインを演じている。会社を辞めてブックカフェを経営する今村絵里加役。結婚への憧れも焦りもないまま、31歳にして男性経験がない。

 ドラマでメインキャストを務める女優はほぼ美人で華があり、こうした設定の役どころは「そんなふうに見えない」となりがち。岡崎も「Ray」でモデルも務め、普段はキラキラしながら人当たりもいいタイプだが、この絵里加役ではメイクをほとんどしてないそう。メガネで髪は1本しばりと見た目から変えて、地味な役にリアルさを醸し出している。

 恐る恐る始めたマッチングアプリで、売れない脚本家の久米真和(福士蒼汰)と出会い、彼の書いた脚本を読んで涙したかと思えば、キスしてきたのを突き飛ばして「クズ野郎!」とののしる。

(C)ABCテレビ
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恋愛経験のなさから一進一退が続いて

 イケメンの真和は「3回会った女性とは連絡を絶つ」と決めているが、絵里加は「4回目も会っちゃダメかな。いいって言われるまで指一本触れないから」と言われてほだされた。

 いい感じになってきたところで「つき合いたい」と切り出すと、真和に「肉体関係がないとつき合うとは言えない」と返される。一度は意を決しながら、結局「誰かを好きなるとかやめる」となったり。

 真和のことを好きではありつつ、恋愛の経験値が中学生レベルの絵里加はぎこちなく一進一退を繰り返す。その中で「私って、こんなにメンタル弱かった?  嫉妬深かった?」と自己嫌悪もしていた。

 このドラマは『女王の教室』や『家政婦のミタ』などで知られる遊川和彦の脚本ながら、極度にエキセントリックなキャラクターは登場せず、現代のアラサーの悩みや葛藤にリアリティがある。その象徴的な役を、岡崎が持ち前の美形を抑えながら等身大で体現している。

小さな役から地道にキャリアを積み重ねて

 岡崎自身は今回の役より少し下の28歳。「ミスセブンティーン2012」に広瀬すずらと共に選ばれ、「Seventeen」モデルとしてデビューした。女優としては小さな役から徐々にキャリアを積み重ね、2018年の『パーフェクトワールド』では山本美月が演じたヒロインの妹役で、松村北斗との恋愛エピソードがフィーチャーされたりも。

 2021年の『ナイト・ドクター』では、波瑠が演じた主人公と同じ夜間勤務専門の医師というメインキャストの1人。そして、2022年の深夜ドラマ『花嫁未満エスケープ』で、今カレと元カレの間で結婚を巡って揺れる役で初主演を果たした。同ドラマのタイトルをハッシュタグに付けたTikTokの再生数が1億回を超えるなど話題を呼び、続編も作られている。

 番手を上げるのと共に演技力を地道に磨き、辿り着いた初ヒロイン。『教場Ⅱ』などでは壁に当たりつつ、ダメ出しにもめげず「1000本ノック系だね」と監督に言われたこともあるとか。自身が30代に入っていく頃、さらに大きな花を開かせることを予感させる。

(C)ABCテレビ
(C)ABCテレビ

岡崎紗絵インタビュー「クズ野郎!にすべてをぶつけました」

『先生さようなら』林芽亜里がピュアさ溢れるデビュー

 深夜帯では、現在と過去の教師と生徒の恋が交錯する『先生さようなら』(日本テレビほか)で、現代パートのヒロインとなる女子高生・城嶋弥生を林芽亜里が演じている。18歳で「non-no」の最年少モデルだか、ドラマは初出演だ。

 学校に馴染めず友だちも少ない弥生は、渡辺翔太(Snow Man)が演じる美術教師の田邑拓郎に声を掛けられて美術部に入り、彼に恋をする。

 田邑が手の甲に描いた犬の絵を部屋で見つめて、ニヤニヤと妄想に耽ったり、3年生に進級して担任になった田邑と顔を合わせ、キラキラした笑顔を見せたり、ピュアさが溢れ出す。

 放課後の教室で「先生のことが好きなんです」と告白するシーンも、ドキドキを隠せないまま真っすぐに想いを伝えるのが、何とも清々しく映った。

(C)「先生さようなら」製作委員会
(C)「先生さようなら」製作委員会

人気モデルから木村拓哉と共演のCMで話題に

 林は石川県出身で、小4で「ニコ☆プチ」のモデルに。「nicola」、「non-no」と続けて“ガーリーの神様”と呼ばれ、女子中・高生の読者から絶大な人気を博している。

 高校入学と共に上京した当初は、演技にあまり乗り気でなかったというが、高2からレッスンを受け始めて楽しさを感じ、オーディションを受けるように。

 昨年には、木村拓哉が地底人に扮した「オープンハウス」のCMで、“地上人”の女子高生として出演して注目される。撮影では、素とは違う今ドキっぽい口調が難しかったそうだが、『先生さようなら』の弥生は自身との共通点が多いという。

 愛らしい顔立ちで抜群のルックスも相まって、初ドラマでインパクトを残している林。深夜に見入らせるのは、永野芽郁が2016年の『こえ恋』で連続ドラマに初主演したときを彷彿とさせる。当時の永野はすでに子役からのキャリアがあったが、今回が初ドラマの林にはさらなる伸びしろも大きく、楽しみだ。

(C)「先生さようなら」製作委員会
(C)「先生さようなら」製作委員会

林芽亜里インタビュー「先生を好きになったことはないです」

 近年ドラマ枠が増えている中、“初主演”など抜擢も多くなっている。俳優にはチャンスが広がった状況でもあり、新たな才能が世に出るのは視聴者としても歓迎したいところ。3人のここからのステップアップにも期待したい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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