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朝ドラで趣里、伊藤沙莉と非キラキラ系のヒロインを連続起用。8年前の脇役タイプの主役転換を再現か

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『虎に翼』に主演の伊藤沙莉(C)NHK

 朝ドラ『虎に翼』がスタートから2週目を終えた。日本初の女性弁護士で、後に裁判官から裁判所長も務めた三淵嘉子さんがモデルの主人公・猪爪寅子を演じているのが伊藤沙莉。

 元より硬軟自在の演技力には定評あったが、「はて?」とコミカルな味わいもまぶしながら、女性は結婚して家庭に入るのが当然とされていた時代に、法曹への道を切り拓く気概をみなぎらせている。

 1週目の終わり、大学の女子部法科への進学を反対していた母親に「本気で地獄を見る覚悟はあるの?」と問われたときも、真っすぐな瞳とまばたきを2回してからの「ある」のひと言だけで、強い想いが伝わってきた。

新人抜擢の伝統は消えていく傾向に

 朝ドラではひと昔前まで、オーディションで世に知られていない新人をヒロインに抜擢するのが伝統だった。劇中でストーリーが展開するのと同時に、新人女優の成長ドキュメンタリーの趣きもあった。

 山口智子は『純ちゃんの応援歌』(1988年)が女優デビュー。松嶋菜々子は『ひまわり』(1996年)、竹内結子は『あすか』(1999年)が初主演。石原さとみはデビューした年にドラマ3作目で『てるてる家族』(2003年)の主演を射止めた。

 一時は低調だった朝ドラ人気を復活させた『あまちゃん』(2013年)の能年玲奈(のん)も、当時一般にはあまり名前が知られてない状況での初主演にして、大人気となっている。

 だが、その頃はもう、ヒロインオーディションを行わず、ピンポイントで直接オファーしたり、行ったとしても、すでに実績のある女優が選ばれるパターンが主流になっていた。『梅ちゃん先生』(2012年)の堀北真希、『花子とアン』(2014年)の吉高由里子、『なつぞら』(2019年)の広瀬すず、『スカーレット』(2019年)の戸田恵梨香など、みな然りだ。

単発ドラマでの演技を評価してオファー

 『虎に翼』でもヒロインのオーディションは行われず、伊藤沙莉にオファーされた。現在29歳でドラマや映画への出演は数多く、新鮮さはない。ただ、もともとは名バイプレイヤーのイメージが強かった。

 過去の朝ドラでは『ひよっこ』(2017年)に出演。米店の娘ながら米嫌いで父親と折り合いが悪い役を演じた。『この世界の片隅に』や『これは経費で落ちません!』などでも、脇でナチュラルに物語に溶け込みつつ、テンプレに収まらない表現力が徐々に注目されていく。

 いつの間にか、『いいね!光源氏くん』や『ミステリと言う勿れ』などヒロイン級の役も増えてきた中での、朝ドラヒロイン抜擢。NHKの単発ドラマ『ももさんと7人のパパゲーノ』で「ポジティブに明日を生きていく思いが感じられるお芝居が素晴らしかった」と語る制作統括の尾崎裕和氏が、前向きでチャーミングな寅子役にピッタリとオファーしたそうだ。

(C)NHK
(C)NHK

33歳での合格し歌うシーンでも引きつけて

 前作『ブギウギ』の趣里も、大きく言えば伊藤と似たタイプだ。こちらはオーディションで、放送スタート時に33歳の趣里は4回目の挑戦。応募資格の年齢ギリギリだったという。

 女優デビューは20歳。朝ドラでは『とと姉ちゃん』(2016年)の終盤に出演。『リバース』では議員秘書の夫の不倫を知り常軌を逸した行動に走る役、主演映画『生きてるだけで、愛。』では屋上での全裸シーンもあってインパクトを残したが、『私の家政夫ナギサさん』、『レッドアイズ』、『DCU』など民放ドラマでは、出番が多くはない脇役が多かった。

 だが、『ブギウギ』の前年には、BSドラマ『サワコ』に主演。かつて恋人を略奪された女性に近づき、ジワジワと復讐していく役で、狂気をはらんだ演技がゾッとさせた。こうした怖い女の役が本領のようにも思えた。

 『ブギウギ』では一転、ブギの女王・笠置シヅ子さんがモデルの福来スズ子役で、スターらしい明るさを発散。ステージシーンでの見事な歌いっぷりでも引きつけた。

トップコート公式ホームページより
トップコート公式ホームページより

民放GP帯での主役経験はない中で

 2人に共通しているのは、高い演技力は持ちつつ、この後の朝ドラに控える橋本環奈や今田美桜のようなキラキラと華やかなタイプではない。民放のGP帯で主役を張ったことは、伊藤は『虎に翼』が発表されてから放送の『シッコウ』だけ。趣里は地上波ではまだない。

 新人のヒロイン抜擢はなくなった朝ドラだが、民放ではトップに位置づけられていない実力派の起用は、新たに大きな意義となっている。

 たまたまだが、8年前にも似た流れがあった。2015年後期の『あさが来た』で波瑠、続く2016年前期の『とと姉ちゃん』で高畑充希が主演。共にキャリアがありながらオーディションで選出された。

波瑠から高畑充希と大役で実力を発揮

 2006年にデビューした波瑠は当時24歳。連ドラ出演は重ねつつ、1話のみのゲストやレギュラーでも5~6番手が続いていた。地味なイメージがあった中で、『救命病棟24時』第5シリーズでは看護師役で、最後の2話では患者の吐血を浴びてウイルスに感染し生死をさまよう。

 『ごめんね青春!』ではヒロインの姉で主人公の初恋相手という、メインの錦戸亮と満島ひかりに絡む役で、キーとなる存在感を印象付けた。そして『あさが来た』では、明治の世に炭鉱、銀行、生命保険と興していく負けん気の強い女性実業家を、凛々しく演じている。

 高畑は13歳でホリプロ主催のミュージカル主役オーディションに合格してデビュー。『ピーター・パン』の8代目の主役を6年務めたり、『奇跡の人』のヘレン・ケラー役を17歳で演じたりと、本人の志向から舞台を中心に活動していた。

 その演技力と歌唱力の高さは早くから評価を受け、朝ドラ『ごちそうさん』(2013年)では、杏が演じたヒロインの義妹役。内向的な性格から殻を破っていく姿を見せた。

 それでも華々しくビジュアル売りをしていたわけでなく、ヒロインより脇を固めるタイプかと見られていた。しかし、『とと姉ちゃん』で戦後に「暮しの手帖」がモチーフの生活情報誌を創刊する主人公に就くと、ハツラツかつ毅然とした女性像を見事に体現した。

高畑充希
高畑充希写真:つのだよしお/アフロ

朝ドラ後から連続主演の道に続くか

 その後の波瑠は『あなたのことはそれほど』、『#リモラブ』、『ナイト・ドクター』、『わたしのお嫁くん』など、民放でも完全に主役級の女優になっている。

 高畑も同様。『過保護のカホコ』、『メゾン・ド・ポリス』、『にじいろカルテ』、『unknown』など主演作が続き、ホリプロでも綾瀬はるかや石原さとみに匹敵する存在に。

 もちろん2人が培ってきた演技力があったうえだが、朝ドラでヒロインを演じたことで、脇役イメージから主役路線へと一気に変換された。知名度と人気が上がったのを受けて、民放でのランクも上がった形だ。まだ気は早いが、趣里や伊藤沙莉もそんな存在になることが期待される。

 そして、この路線から、先々の朝ドラヒロインのダークホースとして挙げたい若手女優もいる。

 『不適切にもほどにある!』で脚光を浴びたが、映画ではすでに実力を見せていた河合優実。伊藤沙莉の事務所の後輩で、子役からの経歴も似たところがある小野花梨。現在『ACMA:GAME アクマゲーム』に出演中の個性派、古川琴音。いずれも間違いなく大役をまっとうできるはずだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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