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『全裸監督』『おかえりモネ』からホラーで初主演の恒松祐里 「日常でも自分の感情に目を背けません」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/安海督曜 スタイリング/武久真理江

昨年、『全裸監督シーズン2』に朝ドラ『おかえりモネ』と、対照的な役で強い印象を残した恒松祐里。映画初主演作となる『きさらぎ駅』は都市伝説を元にしたホラー。本人のたたずまいは品の良さを感じさせつつ、エキセントリックな役にも挑み続ける想いを聞いた。

22歳までの目標がギリギリで叶いました

――ずっと「主役をやりたい」と発言されていました。

恒松 実は密かに「22歳までに初主演」という目標を自分の中で立てていたんです。『きさらぎ駅』のクランクインが23歳になる2日前で、ギリギリに叶いました。

――なぜ「22歳まで」だったんですか?

恒松 私のラッキーナンバーだから、というだけの理由です(笑)。22という数字を見つけると、結構いいことがあるので。

――その初主演がホラーというのは、意外な感じもしませんでした?

恒松 実はホラーはあまり得意でなくて(笑)。おばけ屋敷とかは大丈夫ですけど、映画で怖いシーンまでの「来るぞ、来るぞ」という時間がすごく苦手です。ただ、『きさらぎ駅』は台本を読んだときも、撮影したときも、試写で初めて観たときも、私みたいにホラーが苦手な人でも楽しめると感じました。

――呪いとか幽霊系の話ではないですね。

恒松 ジメッとした怖さはありません。新しいホラーの形を提唱していて、私は“体験型アトラクションホラー”になったと思います。インスタに「ごめん、ホラーは無理」というコメントを結構いただきましたけど、テーマパークに行くような気持ちで映画館に来てもらえたら、きっと意外と楽しめます。

「ホラーは数学」と学びました

――話が来たときには、もう台本もできていたんですか?

恒松 「初主演の作品が決まりました」ということで、台本もいただきました。読んだら“FPS”とか“FPS終わり”と書いてあって、「どういう意味だろう?」と。リハーサルで永江(二朗)監督にお会いしたら、1人称視点のカメラで撮る技法だと聞きました。

――1人称の当人は映っていなくて。

恒松 そういう技法で映して、いろいろなトリックがあるとのことでした。観る方が最初のFPS視点のところで、自分もきさらぎ駅に行った気分になれると思います。監督はホラー作品をたくさん撮られていて、撮り方で人を驚かせることもできるし、現場でよく「ホラーは数学」とおっしゃっていました。

――どういう意味なんですか?

恒松 間合いや数秒の些細な違いで、人は驚いたり驚かなかったりすると。それを監督は熟知されていて、「あと1秒経ったら振り向いてください」とか、他の作品ではない演出もしていただきました。人の驚かせ方について、すごく勉強になりました。

攻略本を持ってゲームに挑むような役で楽しくて

『真・鮫島事件』など都市伝説の映画化を手掛けてきた永江二朗監督がメガホンを取った『きさらぎ駅』。大学で民俗学を学ぶ堤春奈(恒松)は、卒業論文で現代版神隠しとネットで話題になった「きさらぎ駅」の都市伝説を取り上げることに。存在しない駅での体験の投稿者とされる葉山純子(佐藤江梨子)と会い、信じられない話を聞き、「きさらぎ駅」にたどり着くヒントに気づく。

――役柄的にも堤春奈は演じ甲斐がありました?

恒松 私、ゲームが好きなんです。今回は攻略本を片手にゲームに挑むような役で、楽しい要素はいっぱいありました。現場でもゲームをしている気分で、自分だけが知っていることがあるのが楽しくて、1人でニヤッとしていました(笑)。

――普段はどんなゲームをプレイしているんですか?

恒松 任天堂のゲームが多いです。『あつ森(あつまれ どうぶつの森)』とか『ブレワイ(ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド)』とか。あと、1ヵ月くらい前にポケモンの『アルセウス』を全クリしました(笑)。

――ゲームでもホラー系はやらないんですね。

恒松 家にVRがあって、父が『バイオハザード』をやっていたんですね。人の反応を見るのは楽しいですけど、自分がやるのはちょっと怖いです(笑)。

――撮影に入る前に準備でしたことはありました?

恒松 都市伝説や異世界の話が好きな役だったので、私もホラー作品を観ようと頑張ったんですけど、やっぱり途中で「無理!」となりました(笑)。結局、都市伝説サイトを見るくらいで終わっちゃいました。

――どんなホラーを観ようとしたんですか?

恒松 永江監督の作品とか『呪怨』とか。でも、「怖~い!」となって。1人で観るのはダメでしたね(笑)。

自分だけが見つけた秘密は試したくなるかなと

――春奈はどうにでも振れるような役ではなかったですか?

恒松 フラットに普通の女性を演じることで、観てくださる方が「もしかしたら自分がこの状況に陥ってしまう」と感じられると思っていました。あとは場面ごとに起こるハプニングに、臨場感を大切にリアクションしていきました。

――肝は据わっている女性みたいですね。

恒松 そうですね。好奇心旺盛ですけど社会性はちゃんとあって、しっかりした女性だと思います。

――好奇心旺盛とはいえ、人が消えたきさらぎ駅に自分も行こうとは思いますかね?

恒松 そこは私も考えたんですけど、自分だけが見つけた秘密って、一度試したくなるのかなと。日常生活でここまで大きいことでなくても、たとえば牛丼屋さんで「このトッピングが神」とか見つけたら、もう1回食べたい気持ちになると思うんです(笑)。

――アクションも多めでした。

恒松 それほど激しくはなくて、そこら辺のちょっと笑いが起こるシチュエーションが続くところは、私の中でお気に入りです。試写でも、そのパートは1人で爆笑していました(笑)。監督が現場で「笑いと緊張は紙一重」とおっしゃっていましたけど、本当にそうだなと。怖いのが苦手な方も楽しめる場面も散りばめられています。

――緊迫感のあるシーンとのメリハリも付いて。

恒松 そういうシーンはみんなで集中して撮りました。でも、そこも現場では芹澤(興人)さんが面白すぎて、緊迫感があるだけに笑ってしまいそうになって(笑)。カットがかかると、本田望結ちゃんと「もう無理!」って爆笑していました。

普段の自分がやらないことをするのが嬉しいです

――『きさらぎ駅』を撮ったのが23歳直前ということは、去年の10月ですよね。『全裸監督シーズン2』と『おかえりモネ』が同時期に配信・放送されて話題になった年でした。

恒松 『全裸監督』を撮ったのはちょっと前でしたけど、いろいろな方に観ていただく機会が多かった1年でしたね。ちょっと変わった役を多くやらせていただけたのは、ありがたいです。

――しばらく前まで、祐里さんは品の良いイメージが強くて、あまりあれこれ挑むタイプでもないのかと思っていました。

恒松 品が良いかはわかりませんけど、2世帯でおばあちゃんたちと一緒に暮らしてきたから、ある程度のマナーは身に付いたかもしれません。でも、変わった役や作品のスパイスになる役を演じるのは好きなんです。今回の春奈は普通な役のほうかと思いましたけど、途中から変になりました(笑)。

――普段もいろいろ挑戦するほうですか?

恒松 いえ、ずっと家でお絵かきしているような子でした(笑)。どこか遠くに行くとか、バンジージャンプをするとか、そういうことはなかったですね。その分、役では普段の自分ならたぶんやらないことをやらせてもらえるのが、すごく楽しくて。

――それが役者さんの醍醐味かもしれませんね。

恒松 そういう機会が巡ってくる感じです。アクションがある作品にも結構出させてもらえたり。日常でできないことを、現場で追加で「これやろうよ」と言われると嬉しくなります。

いろいろな役をやりすぎて気づいてもらえなくて(笑)

――一方で、役幅を広げないと、女優として生き残れないような危機感もあったりしました?

恒松 でも、私は清純派ではないと自分では思っていました。恋愛映画のヒロインもやったことないですし、求められたらやりたいですけど、そういう路線ではないのかなと。逆にいろいろな役をやりすぎて、新たな自分の顔を発見できるのは嬉しい反面、観てくださる方が私だと気づいてくれないことも多くて(笑)。そこは悩みかもしれません。

――それだけ役と同化したのは、女優として正解でしょうけど。

恒松 どうなんですかね。2年後くらいに気づいてもらえることもあります(笑)。『タイトル、拒絶』とかは、特に気づかれなかったと思います。

――エキセントリックなデリヘル嬢の役でした。

恒松 最近は逆にエキセントリックな役が増えて、そっちのイメージを持っている方には、『おかえりモネ』のスーちゃんを私だと気づかれなかったり(笑)。そういうのがいつか調和して、皆さんに全部わかっていただけるといいんですけど。

ヒロインを演じて現場で堂々と構えられるように

――『タイトル、拒絶』では闇を抱えた役で、ブチ切れる場面があったりしましたが、自分の殻を破った感覚もありました?

恒松 辛いシーンはありましたけど、演じるうえでハードルだったかと言われると、作り込めばむしろ面白さを感じました。今年の夏に初めてのストレートプレイの舞台があるので、そこで私の新たな壁があるかもしれないです。

――『全裸監督』も出演して正解でしたか?

恒松 撮影していて、すごく楽しかったです。キャストの方々もスタッフの方々もとても個性的で、新たなアイデアを出していって。クリエイターたちがいい意味でぶつかり合い、どんどんクオリティを上げていく。そういうことが毎日起こる現場は、すごくぜいたくでした。

――反響も大きかったようですね。

恒松 たくさんの方に感想をいただいたり、海外の方からのインスタのコメントも多くなりました。でも、あの作品に出て一番大きかったのは、次のステップに行く自信が付いたのと、あんなに素敵な人たちがいる現場の空気感を体験できたことです。今後役者をやっていくための勇気をもらえた感じがします。

――自分の中で何かが変わったんですか?

恒松 ヒロインというポジションを初めてガッツリやらせてもらって、現場で堂々と構えられるようになりました。

人生経験からお芝居に厚みが増すと思います

――やっぱりこの1~2年で得られたものは、大きかったんでしょうね。

恒松 毎作品終わるごとに経験が全部自信になって、一歩ずつ成長できていると思います。

――演技への取り組み方には変化はありますか?

恒松 基本変わらず、現場で監督の要望に合わせる感じです。子どもの頃にただ楽しいからやっていたのに比べれば、役の人間性を多角的に考えながら、お芝居ができるようになりました。そうしたほうが、より楽しくもなるので。経験や感情は人生の中でどんどん増えて、お芝居に厚みが増していくと思うので、現場でいろいろ積み重ねつつ、自分の日々もちゃんと過ごしていけたらと思っています。

――この数年で、人生的に大きいこともあったんですか?

恒松 家族だった愛猫が亡くなりましたけど、大きい出来事より、自分の感情から目を背けず、ちゃんと消化して心の倉庫にしまっておくことで、役に活かせるかなと。昔は感情を流してしまいがちだったのが、大人になってから、心の中に湧き上がるものを大切にするようになりました。

――悲しみとかマイナスな感情も?

恒松 喜怒哀楽、全部です。子どもの頃みたいに流してしまうと、いつか戻ってきてしまうので、ちゃんと消化しておいたほうが次に進めると思います。

役として生きている瞬間が何より幸せです

――自分で映画やドラマを観て刺激を受けることもありますか?

恒松 基本イチ視聴者として観ていますけど、「自分がもしこの役だったら」とか「こんな表現の仕方があるんだ」とか、どうしても目についてしまいますね。

――最近、気になった作品も?

恒松 Netflixの『ブリジャートン家』というドラマにハマっています。昔のイギリスの貴族のお話で、シーズン1のヒロインの女性が肩の開いた服が多くて、緊張したときに首を使っていて。こういう表現方法もあるんだと目が行きました。

――映画で主演の目標を叶えた次は、連続ドラマでの主演も目指していますか?

恒松 まだやったことがないので、ぜひやりたいです。絶対大変そうですけど、素敵な作品に巡り合えて、好きな役として生きている瞬間は何より幸せなので。自分で決められるものではないとしても、オーディションのお話があればガツガツ行きます(笑)。

――女優は一生の仕事になりそうですね。

恒松 やると思います。自分の中で女優のお仕事は、生活の一部みたいなところがあるので。このまま続けて、皆さんに楽しんでもらえるエンタメを提供していきたいです。

衣装協力/lilith art duct、chabi jewery
衣装協力/lilith art duct、chabi jewery

撮影/松下茜

Profile

恒松祐里(つねまつ・ゆり)

1998年10月9日生まれ、東京都出身。

2005年にドラマ『瑠璃の島』で子役デビュー。2015年に映画『くちびるに歌を』で注目される。主な出演作はドラマ『覚悟はいいかそこの女子。』、『女子高生の無駄づかい』、『泣くな研修医』、『全裸監督シーズン2』、『おかえりモネ』、映画『散歩する侵略者』、『虹色デイズ』、『凪待ち』、『アイネクライネナハトムジーク』、『タイトル、拒絶』など。主演映画『きさらぎ駅』が6月3日公開。舞台『ザ・ウェルキン』に出演。7月7日~31日/シアターコクーン、8月3日~7日/森ノ宮ピロティホール。

『きさらぎ駅』

6月3日~全国ロードショー

監督/永江二朗 脚本/宮本武史 

出演/恒松祐里、本田望結、莉子、芹澤興人、佐藤江梨子ほか

公式HP

(C)2022「きさらぎ駅」製作委員会
(C)2022「きさらぎ駅」製作委員会

『きさらぎ駅』出演・莉子インタビュー

『きさらぎ駅』出演・本田望結インタビュー

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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