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「ゴジラ」でハリウッドにおける広島の描写に苦心した監督。新作でAIが核爆発を起こす未来を描いた思い

斉藤博昭映画ジャーナリスト
古田貴之氏、ギャレス・エドワーズ監督、LEO(BE:FIRST)(撮影/筆者)

映画『ザ・クリエイター/創造者』は今から約50年後の未来を描き、SF作品として革新的なアプローチが話題を集めている。

メインとなっているのは、AIと人間の闘い。ここ数年、急激な進化をみせ、日常的なニュースとして取り上げられ、映画の題材になるケースも急増したAI=人工知能。本作のギャレス・エドワーズ監督は、そのAIが人間にとって救いとなるのか、脅威になるのかを問いかける。

アメリカなど西洋の社会がAIを脅威とみなし、一方で本作に登場する“ニューアジア”という世界、つまり日本を含めたアジア社会はAIとの共存を成立させようとしている。そして映画は、どちらかと言えば、アジア側、AI側の視点に共感させるような作りになっている。ハリウッド大作、しかもギャレス・エドワーズ監督はイギリス人にもかかわらず、このような視点になっているのが、ある意味、重要だ。

日本公開に先立って、10/18に行われた監督の会見には、千葉工業大学 furo所長でロボット・クリエイターの古田貴之氏も同席。エドワーズ監督が描いた50年後のAI世界について「未来の技術を、ここまで正確に予想した作品は初めてではないか」と賞賛する。「AIがなぜ自我をもつのか。その謎を解くシーンも発見できる」と、ロボットの専門家もそのリアリティに固唾をのんだことを告白していた。

物語はショッキングな描写から始まる。進化したAIが人間に反旗を翻し、ロサンゼルスに核爆発を起こしてしまうのだ。

今年も『オッペンハイマー』などで話題になったように、この核爆発は日本人のわれわれにとっても衝撃的だ。ギャレス・エドワーズ監督は、かつて『GODZILLA ゴジラ』でも広島の原爆のエピソードを盛り込んだ。しかし当時、その描写を入れるかどうかで製作側で論議があったのも事実。渡辺謙が演じる芹沢博士が、父が広島で被爆した経緯を語るシーンは撮影しながらも、本編では大幅にカット。かろうじて短い映像で広島の“痕跡”が残されたのみだった。渡辺謙もその悔しさを何度となく語っている。アメリカ映画として被爆体験にきっちり向き合えない葛藤も見てとれたが、そんな経験を経て、今回の未来の核爆発にエドワーズ監督がどう向き合ったのかを聞いてみた。

質問に答えるギャレス・エドワーズ監督(撮影/筆者)
質問に答えるギャレス・エドワーズ監督(撮影/筆者)

「あのシーンに関しては、ほとんどの人が気がつかなかったかと思いますが、私たちは今でも誇りを持っています。私は『ゴジラ』の前に広島に関してBBCでドキュメンタリーを作ったこともあり、広島の状況がどれだけ悲惨だったか、歴史的な認識は備えていたつもり。もちろん渡辺謙さんは言うまでもありません。彼が父親の話をして、(原爆投下の)8時15分で止まった時計を見せる演技は本当に素晴らしいものでした。あのシーンの撮影では、アメリカの国防総省もサポートしてくれ、結果的に短いカットになりましたが、ハリウッドの娯楽作品で、あのような“瞬間”を挿入できたことは重要です」

ただし、『ザ・クリエイター/創造者』の核爆発に関しては、『ゴジラ』や広島ではなく、別の歴史的トピックが頭にあったことを、エドワーズ監督は続ける。

「2001年の、9.11同時多発テロのことを考えながら作りました。(あのようなことが未来で起これば)AIが自動運転で、何か誤作動が起こってボタンが押され、核ミサイルが発射されてしまう。そのあたりの脅威を、アメリカ、そして西洋社会がAIを拒絶している事実を、本作で象徴させました。現在、とくにアメリカではAIを拒否、反対する気運も高まり、私は興味深くその動きを見守っています。一方、日本ではそのような感情よりも、テクノロジーに関して信頼し、楽観的に受け入れようとする傾向が感じられます。その理由は私も詳しく分析できませんが、『ザ・クリエイター/創造者』の中に反映させました。私自身もAIに対しては、未来に良いものがもたらされる、人間が助けてもらえる…と信じているタイプ。世界の中で、このように考え方が違うのも現実なのでしょう」

50年後の未来、AIと人間の共存がどうなっているか、誰にもわからない。映画作りに関して「何がどうなるか、説明できないこと、疑問を投げかけることが原動力」と語る監督の思いが、『ザ・クリエイター/創造者』に強烈に凝縮されている。

今から20年以上も前に、母国イギリスで観た日本の『子連れ狼』に感動し、「いつか、こういう映画を作りたい」と夢をふくらませたギャレス・エドワーズ監督(たしかに『ザ・クリエイター/創造者』には『子連れ狼』のエッセンスも感じられる)。『AKIRA』や、『ブレードランナー』で描かれた日本、ソニーのウォークマン、任天堂のゲームなど、多くの日本発カルチャーから影響を受けた新作が、いま日本で公開されることに、心から幸せを感じている。

(c) 2023 20th Century Studios
(c) 2023 20th Century Studios

『ザ・クリエイター/創造者』

10月20日(金) 全国の劇場にて公開

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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