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サメ映画ヒット後も強烈アニマルが続々。あのOSO18も重なるコカイン摂取クマ、犬映画も危険領域に?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『コカイン・ベア』より

今年の夏の終わり。『MEG ザ・モンスターズ2』が日本でも初登場1位を記録し、巨大サメのパニックが改めて観客を魅了することを証明した。5年前の前作『MEG ザ・モンスター』も初登場1位だったとはいえ、相変わらずの人気である。

『MEG』の勢いと言っていいかどうかは別にして、この9月もモンスター並みの動物が暴れまわる映画が公開される。『コカイン・ベア』である。

近年、日本でも社会問題になっている野生のクマ。エサを求めたクマが人間の暮らす市街地にも出没するニュースがたびたび流れてくる。今年の7月には、北海道で放牧中の牛、計66頭に襲いかかったオスのヒグマ「OSO(オソ)18」が射殺された。OSO18は特別に凶暴なクマだったとされるが、このところのクマの活動が、社会に危機感を与えているのは確定的。

コカイン漬けのクマ…それは実話

そんな状況とタイミングを合わせるかのように、クマの脅威を描く映画ということで『コカイン・ベア』は注目だ。タイトルからわかるとおり「コカインを摂取したクマ」が主人公。つまり、ただでさえ恐れられる存在の野生のクマが、コカインでハイになってしまい、歯止めが効かなくなってしまう……という設定。

「MEG ザ・モンスター」シリーズに出てくるメガロドンは、絶滅種のサメで体長が23m。基本的に非現実のキャラであり、いい意味で“大げさ”、ありえない面白さで映画になったわけだが、この『コカイン・ベア』は、ちょっと違う。コカインを摂取したクマという、実際に起こった話がネタ元。驚きである。それは、1980年代のこと。南米からセスナ機でコカインを密輸していた一味が、アメリカの森の上空でコカイン詰めのバッグを投下。仲間に回収させようとした。数ヶ月後、その森で死んだクマの胃の中から15kg以上のコカインが発見された。どうやらクマが大量のコカインを食べていたらしい。この実話から生まれたのが映画『コカイン・ベア』。

人間たちが見ている前で、コカインの粉に吸い寄せられるクマさん
人間たちが見ている前で、コカインの粉に吸い寄せられるクマさん

ハイになった体重80kgのクマの暴走はあくまでもフィクションであり、「MEG ザ・モンスター」と同じく、呆れ返るノリのモンスターパニック映画に仕上がっているのだが、実話ベースというのが何とも怖い。しかも、このところのクマ出没ニュースが脳裏をかすめ、意外や意外、リアルな作品として楽しめたりも!? ハイになるクスリを野生のクマが摂取するなんて、たしかに日本では「ありえない」かもしれないが、最近の異常なニュースを目や耳にするにつけ、「もしかして」と思えてしまう。

「テッド」「デッドプール」のノリのワンコ映画

巨大サメ、ハイになったクマと話題が続くなか、別方向に「ぶっとんだ」動物映画も間もなく公開される。『スラムドッグス』だ。

『スラムドッグス』より
『スラムドッグス』より

飼い主に捨てられた犬が、仲間の犬たちと共に、飼い主の元へ帰ろうとするロードムービー……と、基本を紹介すると、かわいいワンコの癒し&感動ストーリーのようだが、この映画、癒しどころか超ブラックな笑い、お下劣なネタも満載の一本なのである。主人公の犬レジーの目的は、飼い主への“復讐”。どんな復讐なのかは、ちょっと文字にするのも躊躇するほど。当然ながら、犬にまつわるシモネタも登場し、つまり『テッド』や『デッドプール』のような快作なのである。『テッド』や『デッドプール』は、ハリウッドのコメディが当たらない日本でも大ヒットを記録。いわゆる“中学生レベル”のギャグを惜しげもなく繰り出すこの手の映画、意外に受けることを『スラムドッグス』が再び証明するかどうか?

メガロドンやコカイン摂取のクマは、当然のごとく最新CGでリアルに映像化されたが、『スラムドッグス』のワンコたちは基本、本物が演じている。実写ならではの犬のかわいさと、暴走する行動のギャップも楽しめる、というわけだ。

このように思わぬ話題作が続くアニマル映画で、2023年“芸術の秋”をぜひ堪能してほしい。

『コカイン・ベア』

9月29日(金)より全国ロードショー

(C) 2022 UNIVERSAL STUDIOS

『スラムドッグス』

11月17日(金)より全国ロードショー

(C)UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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