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マレーシアからハリウッドのトップへ…。「るろ剣」ファンのヘンリーは、日本での撮影に感無量

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ヘンリー・ゴールディング(写真:REX/アフロ)

ハリウッドではここ数年、人種の多様性が過剰なまでに意識され、特に目立つのがアジア系俳優の躍進だ。ただ基本的に、生まれた時、あるいは子供時代からアメリカ、カナダなどで育ち、英語ネイティヴな俳優が活躍している印象。いま最も勢いのある、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のオークワフィナ(NY生まれ)やシム・リウ(5歳で中国からカナダへ移住)、『ミナリ』のスティーヴン・ユァン(4歳で韓国からカナダへ移住)といった面々からも、その傾向はよくわかる。

しかし突然、ハリウッドに呼ばれ、メインキャストに抜擢されたことで、トップスターになるレアケースもある。マレーシア出身のヘンリー・ゴールディングが、その例だ。2018年、メインキャストが全員アジア系という大胆な試みで、全米ではサプライズ的な大ヒットとなった『クレイジー・リッチ!』。それがハリウッドデビュー作なのに、いきなりヒロインの相手役に大抜擢された。もともとマレーシアでは、タレントや司会者、モデルとして活躍。俳優としてのキャリアは、ごくわずかだったにもかかわらず……である。

ただ、マレーシア生まれといっても、ヘンリーの場合、父親がイングランド人なので8歳から21歳までイギリスで生活し、英語は堪能。身長186cmという存在感で、その後も『ラスト・クリスマス』『ジェントルメン』と話題作でメインキャストを務めた。1987年生まれ、現在34歳。

一気にスター俳優となったヘンリーが、ハリウッド大作で主役を任されたのが、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(10/22公開)である。これまで2作が公開されてヒットした『G.I.ジョー』。黒いマスクで顔を隠した人気キャラクター、スネークアイズを主人公に据えたこの新作は、おもな舞台が「日本」というのも大きな話題。しかもハリウッド大作として異例の日本での大がかりなロケが敢行された(内閣府による「外国映像作品ロケ誘致に関する実証調査」の対象)。

ロケ地だけでなく、日本文化も研究したスタッフによる美術も見どころ。「和」のテイストに、ヘンリー・ゴールディングの姿が映える。
ロケ地だけでなく、日本文化も研究したスタッフによる美術も見どころ。「和」のテイストに、ヘンリー・ゴールディングの姿が映える。

その日本での撮影は、2020年の2月。新型コロナウイルスが各国で報告されつつも、日本ではまだ感染例がわずかだった頃なので、ぎりぎりセーフであった。『ラスト サムライ』も撮影された姫路市の圓教寺や、岸和田城、関西の市街などでの撮影を経て、時代劇でもおなじみの茨城・ワープステーションのオープンセットへ、ハリウッド一行は移動してきた。その中心にいる、スネークアイズ役のヘンリー・ゴールディングに、日本への思いを聞くと熱い答えが返ってきた。

「日本には、この10年の間に何度も来ています。僕の妻は以前、仕事の都合で5年間、日本で生活していたので、つき合い始めた当時、彼女に会うために通っていたんですよ(笑)。麻布十番のSAVOYに、何度ピザを食べに行ったことか。(日本語で)サヴォイピザ、チョウオイシイ。その後もテレビの旅番組(マレーシアと日本の共同制作「Welcome to the Railworld Japan」)で北海道から東北、沖縄まで各地を回りました。それで日本が大好きになったんですよ」

そしてもうひとつ、ヘンリーのテンションを上げたのが、ある日本人との仕事だ。それは、アクション監督の谷垣健治。谷垣にとっても、これが初めてのハリウッド大作。彼の指導の下、ワイヤーワーク、殺陣などで、これまでのハリウッドの常識を変える試みがなされたのだ。

「今回、製作陣から『アクション監督は「るろうに剣心」の人だよ』と聞かされ、「えーーーっ、マジで!?」と大興奮しちゃった。『るろ剣』は僕の最もお気に入りの映画で、『Samurai X』(アニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の英語タイトル)も大好きで良く観てたんです。スタッフに「あれ、知ってるの?」と聞かれたので、「あったり前だよ!」という感じ。でも恥ずかしながら、谷垣健治さんという名前は今回、初めて知りました。

 ケンジはとにかく最高! 日本に来る前にカナダのバンクーバーで1ヶ月半ほど彼と、そのチームから猛特訓を受けました。日本刀を使った殺陣は本当に難しくて、撮影が始まる頃には全身が筋肉痛になっちゃって……。でもケンジのおかげで、ハリウッド映画では観ることができないユニークな武術や格闘スタイルが完成されたと思いますよ」

 日本の秘密忍者組織「嵐影」で、ヘンリーが演じるスネークアイズは覚醒する。

 その運命は、ハリウッドのトップスターへと急速に成長した、俳優ヘンリー・ゴールディングと重なるかもしれない。日本の風景をバックにした彼の勇姿を、ぜひ確認してほしい。

谷垣健治から特訓を受けたヘンリーが、数々の離れ業にチャレンジしている。
谷垣健治から特訓を受けたヘンリーが、数々の離れ業にチャレンジしている。

『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』

10月22日(金)、全国ロードショー

(c) 2021 Paramount Pictures. Hasbro, G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. 2021 Hasbro. All Rights Reserved.

配給:東和ピクチャーズ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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