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「パラサイト」俳優の新作、ヤバすぎる奇人たちの実録…好調Netflixに見る偶然・必然の巡り合わせ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『狩りの時間』より、右が『パラサイト』の長男。Netflixで独占配信中

新型コロナウイルス感染拡大による、世界規模での「巣ごもり」により、映像配信サービスの需要は急加速。その最大手であるNetflixが先日、発表した有料加入者数の増加によると、2019年12月末から2020年3月末まで、その数はじつに1577万人。これは予想の2倍の伸びだという。日本を含むアジア・太平洋でも360万人増加という好調ぶりだ。

自宅待機という要素のほかに、とくにアメリカでこの加入者増加に貢献したと思われるのが、「話題作」の出現だった。

それは、ドキュメンタリー・シリーズの「タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!」。3/20に配信がスタートするや、すでに6400万世帯が視聴したとNetflixが発表。セレブたちも虜になったようで、キム・カーダシアンやジャレッド・レトらが、その面白さをSNSで拡散。シルベスター・スタローンに至っては、家族でタイガーキングのコスプレをするなど、そのブームは止まらない。

あまりに異様なキャラが、日常を忘れさせる効果も!?

何がそこまで人々を夢中にさせるのか? この「タイガーキング」、とにかくヤバすぎる人物が次々と登場するのだ。主人公のジョー・エキゾチック(本名ではない)がまず、信じがたいキャラクターの持ち主。100頭以上のトラを中心に危険な野生動物を大量に所有し、私設動物園を開く。とにかく目立ちたがりの彼は、自身の番組を作って放映。私生活では2人の男性と婚姻関係にある(3人で結婚式)。顔面ピアスに謎の髪型。あらゆる要素が超インパクト! トラとも平気でスキンシップする驚きの日常が描かれるわけだが、冒頭から、どうやらジョーが何かの罪で収監されている事実が明かされる。

「ターガーキング:ブリーダーは虎より強者?!」 このルックスだけでヤバさが伝わってくる…。Netflixで独占配信中
「ターガーキング:ブリーダーは虎より強者?!」 このルックスだけでヤバさが伝わってくる…。Netflixで独占配信中

さらに、ジョー・エキゾチック以上に衝撃レベルの怪人たちが出るわ、出るわ。ジョーの飼育に反対する動物愛護活動家のキャロルは、その恐るべき素顔が徐々に明らかになるし、ジョーが「師」と慕う、別の動物園オーナーは、カルト教団のカリスマのごとく女性たちのハーレムを作っている。そして希少動物を売買する麻薬王……。それぞれの「暗部」がエピソードを追うごとに発覚するので、ポイントの衝撃映像とともに、観始めたら止まらない作りになっているのだ。日本人の視点で観ると、「いや、アメリカ人の過激さは、やはり半端ではない」というのが率直な感想。日々、コロナのニュースで暗い気分になる人々に、逆のベクトルで刺激が与えられ、いっとき、現実を忘れられる効果があるのかもしれない。

この「タイガーキング」はコロナ禍に合わせての配信ではないが、一方で、今回のパンデミックによってNetflixで観られるようになった注目作もある。

韓国映画の『狩りの時間』だ。4/23からNetflixで配信がスタートしたこの作品は、今年2月のベルリン国際映画祭で上映され、韓国では当初、2/26に大規模劇場公開を決定。ヒットを見込める作品であった。しかし感染拡大によって、この時期の公開は延期。配給会社は、ある意味、苦肉の策としてNetflixとの交渉に応じて、その契約料で製作費を回収する手段に出た。

ある一瞬によって、『パラサイト』に似た後味も

『狩りの時間』は、経済が崩壊した近未来とも思える都市を舞台に、刑務所から出所した青年ら4人の仲間が、闇の賭博場から大金を盗み出そうとする物語。その計画が、やがて正体不明の狙撃者によって、信じがたいサバイバル戦へと発展していく。こちらも「タイガーキング」と同様に、観始めたら止まらない緊迫感とテンションが維持され、終始ドキドキが止まらない! 衝撃かつスタイリッシュなバイオレンスに、監督(『番人』のユン・ソンヒョン)の才気がみなぎる一品になっている。

主人公4人の一人が、『パラサイト 半地下の家族』で半地下側の長男を演じたチェ・ウシクというのも見どころ。状況は違うが、後味として『パラサイト』に近いものを感じる部分もあるし、あの名作『ショーシャンクの空に』を想起する人もいるかもしれない。少なくとも日本では、劇場公開されるとしたらかなり先になったはずで、『パラサイト』の余韻がある今の時期に、今作を観られるのは幸運だ。

『スペンサー・コンフィデンシャル』 マーク・ウォールバーグが『テッド』の軽さも絶妙にとりこんだ超ハマリ役。Netflixで独占配信中
『スペンサー・コンフィデンシャル』 マーク・ウォールバーグが『テッド』の軽さも絶妙にとりこんだ超ハマリ役。Netflixで独占配信中

その他にもNetflixはこの春、従来のハリウッド超大作のようなアクションエンタメを用意していた。これも新型コロナと関係なく予定どおりの配信なのだが、劇場でアクション大作を観たい人への欲求に、結果的に応えることになった。

3/6配信の『スペンサー・コンフィデンシャル』は、正義感の強さから、自制できずに手が出てしまうワイルドな警官が出所後、私立探偵として難事件に挑む。マーク・ウォールバーグ主演、ピーター・バーグ監督(『バトルシップ』)という、豪快アクションを得意とする最強コンビが、期待どおりの作品を完成。そして4/24配信『タイラー・レイク -命の奪還-』は、『アベンジャーズ』のソー役でおなじみのクリス・ヘムズワースが、そのマッチョな肉体を最大限に生かした傭兵を演じ、バングラデシュのダッカ(現地で撮影)で誘拐された少年を救う。没入感満点の映像が見もの。

『タイラー・レイク -命の奪還-』 中盤、10分にもおよぶワンカット映像は、POV(主観のカメラ)を駆使した信じがたい臨場感。Netflixで独占配信中
『タイラー・レイク -命の奪還-』 中盤、10分にもおよぶワンカット映像は、POV(主観のカメラ)を駆使した信じがたい臨場感。Netflixで独占配信中

2作とも本来なら、劇場の大スクリーンがふさわしいのだが、劇場が閉まっていることを考えれば、「今、こうして楽しめるなら」と納得。これも、この状況下でのNetflixの恩恵だ。ただ『スペンサー・コンフィデンシャル』が痛快なノリなのに対し、『タイラー・レイク』はシビアなうえに、強烈な描写も多いことから、現在の切迫したムードがちらつき、観ていてキツいかもしれない。これが劇場だったら、明らかに「異空間」だと割り切れるのだが…。

外出の自粛が推奨されるこの大型連休。日本でもNetflixなど配信への需要はさらに増すだろう。『狩りの時間』のように、今後も劇場公開が難しくなった話題作が配信に切り替わるようになれば、この流れはさらに加速するのだろうか? それとも感染拡大が落ち着いて、映画館がオープンし始めれば、やはり「ひとつの空間で、ひとつの作品を共有する喜び」を分かち合うため、観客は戻ってくるのか? 映画業界は大きな転換点に立っている気がする。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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