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スター来日中止の流れも、シネコンは通常活況。長期的には? 現時点の新型コロナウイルスの映画界への影響

斉藤博昭映画ジャーナリスト
オスカーの喜びを胸に来日するはずのレネー・ゼルウィガーだったが……(写真:REX/アフロ)

日本でも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される状況で、映画業界にも少しずつ影響が出始めている。

とりあえず現段階で新作の公開が中止などという話はないものの、3/13公開のディズニー/ピクサー新作『2分の1の魔法』が、2/27〜28、3/3のTOHOシネマズでの試写会イベントの中止を発表した。

現在の状況で日本にプロモーションに行くのは……

来日を予定していたスターの動向にも影響が出ている。先日のアカデミー賞で主演女優賞を受賞し、今月下旬に来日予定だったレネー・ゼルウィガーは、キャンセルの方向で動いているという。来日時にインタビューを予定していた媒体には、Skypeによる取材が打診されたりしているのだ。オスカーを獲得した絶好のタイミングだっただけに、まだ来日への希望を託したいが難しそうである。

同じく今年のアカデミー賞で主演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンも、3/27公開の『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のプロモーションで来日の話が出ていたが、こちらもキャンセルになる可能性が高いという。

レネーの『ジュディ 虹の彼方に』も、『ストーリー・オブ・マイライフ〜』も、超拡大ロードショーの大作ではないので、通常の公開なら、そもそも来日の話も出なかったかもしれない。しかしアカデミー賞直後に映画の公開を合わせたことで、受賞者やノミニー本人を日本に呼べば、宣伝効果は大きかったはず。一方で、レネーやシアーシャの側から考えれば、ウイルス感染のリスクはかなり低いとはいえ、この時期にわざわざ日本へ来るだけのメリットは少ないのも事実だ。現段階で「コロナウイルスのために来日中止」とは正式に発表されていないものの、この流れから理由を想像するのは難しくない。

ただし、2/28公開で、アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督は先週、予定どおり来日してプロモーションを行なっている。また先日、取材で日本を訪れたアメリカやブラジル、スペインの映画ジャーナリストに会う機会があったが、みな来日への躊躇はなかったという。香港経由で来日したアメリカ人の映画ジャーナリストからは「香港では、ほぼ全員がマスク姿。日本は街や電車でも半分くらいですね。大丈夫なんですか?」と尋ねられた。

三連休の初日、TOHOシネマズ新宿でのチケットの状況。(撮影/筆者)
三連休の初日、TOHOシネマズ新宿でのチケットの状況。(撮影/筆者)

各種イベントが中止や延期になっているなか、映画館の営業は通常どおり続いている。2/22からの三連休の初日、映画館はいつもの週末のような賑わいを保っている。先週末(2/15〜16)は1位の『パラサイト 半地下の家族』、2位の『1917 命をかけた伝令』とも数字はまあまあ。この三連休の初日、TOHOシネマズ新宿では、完売が続く『ミッドサマー』や、満席に近い『パラサイト』『スキャンダル』など通常の休日の活況という感じだ。

2/22、新宿ピカデリーは舞台挨拶つきの上映があるということでロビーが大混雑。(撮影/筆者)
2/22、新宿ピカデリーは舞台挨拶つきの上映があるということでロビーが大混雑。(撮影/筆者)

人々が激しく動き回るわけではない映画館は、感染のリスクが少ないという報道も耳にしたりするものの、韓国の大邱の教会で起こったような感染が、もし日本の映画館で起こってしまえば、シネコンは全国規模での営業停止となる可能性もあり、予断は許さない。

政府支援で日本のスター共演の、旧正月映画の運命は…?

その映画館営業停止で何より深刻な状況なのは中国で、北京や上海といった大都市を含め、国内ほぼすべての映画館は休業のまま。2月1週目の週末は、ほんのわずかに売上が計上されていたが、2週目はその数字が発表されなくなった。一年で最も興行収入を稼ぐ旧正月のシーズンに、この映画館休業が重なってしまったことで、中国の映画界は想像を絶するダメージを受けてしまった。今年の旧正月映画の目玉であった『唐人街探案3』は人気シリーズの最新作で、妻夫木聡、長澤まさみ、浅野忠信、染谷将太、三浦友和という、日本が誇るスターたちが重要な役で出演。日本でもロケが行われた同作は、海外映画の日本ロケを誘致するため、内閣府の事業として製作費の一部を補助するプロジェクトの対象となった作品。ハリウッド映画の『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』とともに、最初の対象2作に選ばれたのだ。しかしこのまま中国で公開されないとなると、日本での劇場公開もどうなるか、不透明だという。

また、中国は世界で第2位の映画市場であり、たとえば3/27に北米で公開されるディズニーの『ムーラン』は、同名アニメの実写化で、中国人が主人公という設定。当然、中国での大ヒットが見込まれている。今のところ、中国での公開日は発表されないままだが、北米と近い時期に想定されていたはずで、このまま映画館の営業停止が続けば、『ムーラン』の公開もどうなるかわからない。

日本では4/10公開の『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、予定されていた北京のワールドプレミアの中止が発表された。こちらも中国での公開が不可能になれば、『ムーラン』と同じくスタジオにとって大きな打撃となる。『007』は日本での来日プロモーションも期待されているだけに、その行方もどうなるか……。

新型コロナウイルスによる映画界への影響は、あちこちで皺よせが生まれ、それが時間をかけて世界規模で大きくなっていきそうな気配だ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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