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ゴールデングローブ賞受賞の『ボヘミアン・ラプソディ』、このままアカデミー賞も獲る可能性は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーから受賞の祝福を受けるラミ・マレック(写真:ロイター/アフロ)

1月6日(現地時間)に行われたゴールデングローブ賞の授賞式結果で、最大のサプライズのひとつが『ボヘミアン・ラプソディ』の作品賞(映画ドラマ部門)受賞だった。日本でも興行収入100億円(!)が見えてきて、この熱狂ぶりから作品賞は当然と思う人もいるかもしれないが、アメリカでも予想外のヒットとはいえ熱狂的というわけではなく、今年の賞レースでも作品賞「ノミネート」あたりの位置につけていたからだ。「本命不在」と言われる今年の賞レースを象徴する受賞だったようにも感じる。

ただ、ゴールデングローブ賞の場合、映画はドラマ部門とミュージカル/コメディ部門に分かれており、今年はどちらかといえばミュージカル/コメディ部門に有力作品が集中していた。今回作品賞を受賞した『グリーンブック』に、『女王陛下のお気に入り』、『バイス』などなど……。一方でドラマ部門も『アリー/ スター誕生』、『ブラック・クランズマン』あたりにも大きな可能性があった。それらを蹴散らしての『ボヘミアン・ラプソディ』の受賞は、今後のアカデミー賞への追い風になっている。

じつはアカデミー賞と一致しづらい作品賞

もうひとつ『ボヘミアン・ラプソディ』が受賞した理由は、本命不在の今年の賞レースで、頭ひとつ抜け出ていた『ROMA/ローマ』が外国語映画賞に入っていたこと。当然、同作は外国語映画賞を受賞したうえに、監督賞まで受賞し、賞レースでの勢いを示した。アカデミー賞では『ROMA/ローマ』も作品賞のカテゴリーに入りそうで、『グリーンブック』などと争うと思われてきたが、そこに『ボヘミアン・ラプソディ』も加わる可能性も高くなった。

ゴールデングローブ賞で作品賞を受賞した作品が、そのままアカデミー賞で作品賞に輝く確率は、じつは意外に高くなく、過去20年を振り返ると……

アカデミー賞作品賞20本のうち、ゴールデングローブでも作品賞を受賞したのは、9本と半分以下。昨年の『シェイプ・オブ・ウォーター』もゴールデングローブでは監督賞受賞で作品賞は逃している。重なった9本のうち、ドラマ部門が6本で、ミュージカル/コメディ部門が3本。つまり今年の『ボヘミアン・ラプソディ』のようにドラマ部門受賞→アカデミー賞作品賞は30%(過去20年)という確率になる。ゴールデングローブとアカデミーでは投票者がまったく違うので、この結果は当然といえば当然だ。

これまでの本年度の前哨戦での作品賞結果も

ナショナル・ボード・オブ・レビュー 『グリーンブック』

NY映画批評家協会賞 『ROMA/ローマ』

LA映画批評家協会賞 『ROMA/ローマ』

ボストン映画批評家協会賞 『ビール・ストリートの恋人たち』

と、『ボヘミアン・ラプソディ』の名は挙がっていない。

ラミ・マレックはオスカーへの夢を広げる

というわけで『ボヘミアン・ラプソディ』は、今回の受賞でアカデミー賞への淡い期待感が高まった、という感じか。監督賞にノミネートされる可能性も低いので(ブライアン・シンガー監督は途中降板。今回のゴールデングローブでも受賞スピーチで彼の名が言及されなかった)、作品賞本命となるのは難しいだろう。

しかし、今回のゴールデングローブで、オスカーへの夢が一気に膨れ上がったのは、主演男優賞のラミ・マレックだ。この部門も強力なライバルがミュージカル/コメディ部門にいて(『バイス』のクリスチャン・ベール、『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセン)ラッキーな部分もあったが、ゴールデングローブでドラマ部門の主演男優賞が、そのままアカデミー賞で受賞したのは、過去20年間で14人。つまり70%という高確率。しかも過去6回はすべて一致している。冷静な判断からするとライバルは強力だが、確率としてはラミ・マレックのオスカー受賞も現実味を帯びているのだ。

この後のSAG(全米俳優組合賞)などで大勢が判明してくるのだが、ゴールデングローブを終えた現段階で、日本の『ボヘミアン・ラプソディ』ファンは、アカデミー賞受賞への夢を膨らませても良さそうである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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