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運命だった。初日に会って、一瞬で絆が生まれた。『ボヘミアン・ラプソディ』来日インタビュー

斉藤博昭映画ジャーナリスト
左からグウィリム・リー、ラミ・マレック、ジョーマッゼロ。もう一人の写真を挟んで

クイーンのファンがとくに多い日本でも公開が始まった『ボヘミアン・ラプソディ』。その公開直前に来日を果たしたのが、フレディ・マーキュリー役のラミ・マレック、ブライアン・メイ役のグウィリム・リー、ジョン・ディーコン役のジョー・マッゼロだ。残念ながらロジャー・テイラー役のベン・ハーディは現在、撮影中の新作のスケジュール変更で直前にキャンセル。しかし当初、予定がなかった彼らの来日が実現したのは、日本でのヒットの可能性が高くなったからだと考えられる。

先日のラミ・マレックの単独インタビューに続いて、グウィリム・リーとジョー・マッゼロを中心にお届けする。

フレディがダイアナ妃をゲイバーに……は真実?

さまざまな「逸話」のあるクイーンだが、演じた彼らが最も驚いたエピソードは何だったのだろう。

ジョー・マッゼロ(以下、ジョー)「『アンダー・プレッシャー』の曲を作っているとき、ジョン・ディーコンが最高のベースラインを思いついたんだけど、その後、ランチに行ったら全部忘れちゃったらしいんだ。そうしたらロジャー・テイラーが『こうだったよ』と弾いてくれた。あれだけ天才的なジョンも1時間で物忘れするなんて、ちょっと愛着がわいたよ」

グウィリム・リー(以下、グウィリム)「ブライアン・メイは天文学の博士課程を中断して、クイーンの活動を始めた。結局、博士課程を修了したのが2007年。35年間のギャップイヤー(大学など学業の中断時期)としては世界最長なんじゃないかな」

ラミ・マレック(以下、ラミ)「フレディ・マーキュリーは入浴中にアイデアがひらめき、アシスタントにギターを持ってこさせて、バスタブの中で『愛という名の欲望』を作った。今回の映画でそのシーンを撮ったのに、残念ながらカットされてしまった。僕のお気に入りのシーンだったのに……。あと、フレディがダイアナ妃を男装させてゲイバーに連れて行ったのも、100%真実みたいだよ」

演じた4人があまりにそっくりで、ファンも納得
演じた4人があまりにそっくりで、ファンも納得

インタビュールームに並ぶ目の前の3人は、おたがいの答えに反応しながら、じゃれ合う姿が微笑ましい。演じたメンバーの人間関係が、素顔の自分たちの関係に影響を与えたのだろうか。最も年下のジョン・ディーコンは、今回の映画でもからかわれる場面などもあったが、じつは彼が解散の危機を乗り越えるきっかけを作ったりしている。

ジョー「クイーンというバンドは、つねに争いが起こって、もめるのが日常だった。でも演じた僕らの関係は、まったく真逆。初日に会ったときから、不思議なくらい打ち解けたんだよ。笑いのツボも一緒だったりして、演じながらおたがいを信頼し、才能を引き上げ合う感覚があった」

グウィリム「実際の年齢では、(ロジャー・テイラーを演じた)ベンがいちばん若いのかな」

ジョー「そうそう。ベンは遊ばれる対象になってた(笑)」

ラミ「そして最年長は僕だから、みんなを従わせた(笑)」

グウィリム「いや、ラミは謙虚なリーダーだったよ。映画の記者会見のシーンでも、フレディが『僕はバンドのリーダーじゃない。ただのリードボーカルだ』と言うが、僕らの中のラミもそんな感じ。作品を牽引し、トーンを決める存在になっていたね」

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俳優がミュージシャンを演じると、楽器の演奏などに多少の違和感も生じるが、『ボヘミアン・ラプソディ』では、そういった嘘くささが一切ない。3人に音楽経験を聞いてみると……。

グウィリム「リズムギターの経験はあったけど、リードギターは初めてだった。ブライアン役では、ただ弾けばいいわけじゃない。音を聴いただけで彼だとわかる、独特のスタイルがあるんだ。最初はハンドダブル(手の部分のみ代役)を使っていたが、ライブシーンを繰り返し撮っているうち、最後はすべて自分の手で弾いていたよ」

ジョー「1年くらいギターレッスンを受けたことはあったが、ベースは弾いたことがなかった。役が決まりそうだと聞いて、3ヶ月くらい友人に借りたベースで練習し、撮影の5週間前くらいから猛特訓したな」

ラミ「僕は歌もダンスも、ピアノもすべて未経験だった。ようやく『ボヘミアン・ラプソディ』と『伝説のチャンピオン』をピアノで弾けるようになったら、なんと頭上で両手を交差させて弾くシーンがあると聞かされた。自宅のベッドで頭の上にキーボードを置いて、毎晩、寝る前に練習したよ(笑)」

最も好きなのは、あの曲……

最後に、クイーンの曲の中で個人的ベストを聞くと、なんとジョーとラミの答えが一致した。それは『愛にすべてを』だった。

ジョー「『ボヘミアン・ラプソディ』はもちろん最高傑作だけど、『愛にすべてを』こそ、最も叙情的で美しく、詩の内容に誰もが共感しやすいと思うんだ」

ラミ「フレディ自身も『ボヘミアン・ラプソディ』より『愛にすべてを』が好きだと言っている。彼は時代の先駆者でもあるが、何より、偉大なストーリーテラーで詩人だった。『愛にすべてを』の『誰か、愛する相手を僕のために探してくれ』という詩なんて、他に誰も書けないんじゃない?」

グウィリム「ひとつ選ぶのは困難だけど、フレディが加入する前の『スマイル』時代の『Doing All Right(ドゥーイング・オールライト)』が好きかな。フレディが入って、まったく違うバージョンも作られ、両方を聴き比べると面白いんだよ」

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『ボヘミアン・ラプソディ』

11月9日(金) 全国ロードショー

配給:20世紀フォックス映画

(c) 2018 Twentieth Century Fox

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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