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『猿の惑星』『エイリアン』『ブレードランナー』…。まるで名作SFの復活祭。その傾向と理由

斉藤博昭映画ジャーナリスト
今週末、10/13(金)に公開される『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』

現在公開中の『エイリアン:コヴェナント』に続き、今週末からは『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』が公開。さらに今月末には『ブレードランナー 2049』。SF映画の歴史を飾った名作の、それぞれの新バージョンや続編が一気にスクリーンをにぎわせることになった。年末には『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』も公開……ということで、秋から冬は名作SFの「復活祭」と呼びたい状況だ。

ただし『エイリアン』と『猿の惑星』は、全米や他国の公開がそれぞれ5月7月とサマーシーズンだったので、日本のように「一気に公開」という感じではない。とはいえ、2017年は名作SFの後継作品が量産された年となった。

ちなみに2014年、イギリスのTimeOut誌が発表した「SF映画ベスト100」(選者はアルフォンソ・キュアロン、ギレルモ・デル・トロ、スティーヴン・キングら、映画監督・作家・科学者など150人)ではベスト10が

1. 2001年宇宙の旅(1968)

2. ブレードランナー(1982)

3. エイリアン(1979)

4. 未知との遭遇(1977)

5. エイリアン2(1986)

6. スター・ウォーズ(1977)

7. 未来世紀ブラジル(1985)

8. メトロポリス(1926)

9. ターミネーター(1984)

10. スター・ウォーズ 帝国の逆襲(1980)

となっている。『猿の惑星』(1968)は少し離れて29位。ベスト10の3作が今年、新作を誕生させたことになる。

絶賛を受ける、再生の成功作

『エイリアン:コヴェナント』
『エイリアン:コヴェナント』

新作の仕上がりについて、『エイリアン:コヴェナント』は賛否両論あるものの、『猿の惑星:聖戦記』と『ブレードランナー 2049』は絶賛評が大半を占めている。まさしく大成功の復活である。この3作の共通点は、オリジナル作品との濃密なリンクだ。『エイリアン:コヴェナント』は、『エイリアン』(1979)につながっていく物語を、オリジナル版のリドリー・スコットが自ら監督して撮り上げたもの。『エイリアン2』以降、他の監督が進化させたシリーズを、5年前の『プロメテウス』をきっかけに、あえてリドリーが自分の世界に引き戻したいという執念の産物でもある。

『猿の惑星:聖戦記』は、2011年に始まった『猿の惑星:新世記』からの3部作、完結編で、こちらも『猿の惑星』(1969)への「布石」が大きな見どころになっている。『エイリアン』と同じく、オリジナルの原点へ返っていく物語なのだ。前2作が、『エイリアン』でいえば『プロメテウス』と同じ役割のようにも見えるが、こちらは「新シリーズ」という印象が強く、アンディ・サーキスによるパフォーマンス・キャプチャーや、驚異のCGで完成された主人公シーザーら、類人猿たちの映像が、この最新作では信じがたいレベルに到達。オリジナルの『猿の惑星』はすっかり忘れ、シーザーが率いる類人猿と、将軍が指揮をとる人間の戦いに没入させる。すでに『新世記』からそうだったが。われわれ観客は完全にシーザー(=類人猿側)の目線に立たされ、人間を敵と認知して物語に入り込むことになる。冒頭に訪れるシーザーの悲劇に始まり、この『聖戦記』は“サル共感度”が半端ではなく、クライマックスの感動の度合いも、おそらく予想を超えることだろう。

『ブレードランナー 2049』
『ブレードランナー 2049』

そして『ブレードランナー 2049』も、前作から30年後の物語ということで、そのつながりが物語上、重要な位置を占める。ではもし、オリジナルを観ていなかったら、まったく楽しめないのか? そんなことはない。『ブレードランナー 2049』は作品単体として、芸術品と呼んでもいいビジュアルに耽溺させ、SF映画を革新する域に達しているのだから……。有無を言わさず圧倒されるという意味で、むしろ『2001年宇宙の旅』の体験に近いかもしれない。人間の切実な本能や運命まで描いたドラマも、胸に迫ることになる。

もう一度、新たな未来を描きたいという欲求

この3作、単純に「オリジナルを観ていなくても心から楽しめる」順に並べると

『猿の惑星:聖戦記』

『ブレードランナー 2049』

『エイリアン:コヴェナント』

ということになるだろうか。

不朽の名作を源流にした映画が相次ぐこの秋だが、ハリウッドでのこうした傾向は今に始まったことではない。シリーズや続編、リメイク、近年は名作アニメの実写化など、手を替え、品を替えの商法で「再生」に頼りきっている。しかし名作SFの復活は、少しだけ「時代」と関係しているかもしれない。

かつて『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』が「未来」に設定した2015年も過ぎ去り、『ブレードランナー』の舞台になった2019年も間もなくやって来る。SF映画が描く「未来」が「現在」から「過去」となり、じつは社会がそんなに進歩していない現実の中、新たな未来を模索する。あるいはテクノロジーの弊害をリアルに受け止める。これはSF映画の大前提でもあるが、名作から時代が大きく一回りして、同じ作り手がもう一度、自作をアップデートしたいという思いが強まり、あるいは、オリジナルに深い敬意を抱いた気鋭のクリエイターが、前作に引けを取らない傑作を生み出そうとする。

名作が誕生してから一定の歳月が流れたとき、そんな激しい衝動が高まり、SFは新たな輝きを求めて甦るのかもしれない。

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』

10月13日(金)、全国ロードショー

配給:20世紀フォックス映画

(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

『エイリアン:コヴェナント』

全国公開中

配給:20世紀フォックス映画

(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

『ブレードランナー 2049』

10月27日(金)、全国ロードショー

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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