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指摘されて変更? ますます増える副題。最近の映画タイトルの傾向は…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
全米俳優組合賞を受賞し、アカデミー賞候補にもなった『ドリーム』。やっと日本公開(写真:ロイター/アフロ)

先日、この秋公開の作品『ドリーム 私たちのアポロ計画』のタイトルが変更され、シンプルに『ドリーム』となった。同作で描かれるのは、1960年代初頭のNASAの「マーキュリー計画」であったため、作品内容との違いの指摘を受けたことでの処置だといわれている。

実際にこの映画で描かれたNASAの実話が、後のアポロ計画につながってはいるので、まったくの誤りではないし、「アポロ」の方が日本人観客にも宇宙飛行をイメージしやすい……というのも、わからないでもない。原題は「Hidden Figures」=(歴史に)埋もれた(重要な)人たち、という意味。当時のNASAで有能な黒人女性職員たちが差別を乗り越えながら、能力を認められていく物語(配給の20世紀フォックス映画は当初、日本公開を見送っていたが、あまりの出来の良さに公開を決めた作品。アメリカ映画らしさに溢れた大傑作です!)。原題そのまま、または日本語訳にしてもイメージが伝わりにくいので、苦心の末の邦題だというのはよくわかる。まさにドリーム=夢をつかむ物語であるわけで……。

たまたまだが、1ケ月半ほど前にもタイトル変更があった。6月17日公開の『キング・アーサー』である。当初、『キング・アーサー 聖剣無双』というタイトルだったが、「聖剣無双」が外された。公式サイトやチラシ、ポスターなどすべて変更を余儀なくされても、訂正がなされたのである。当初、原題にはない「聖剣無双」を入れることで、ゲームファンへのアピールを考えたと、宣伝担当者は話していた。こちらの変更理由は明らかにされていないが、公開間際でのこの変更は異例である。ちなみに『ドリーム』も現在、公式サイトが変更中だ。

シンプルな表現で成功を狙う!?

洋画の場合、邦題を決める際には、本国のアプルーバル(承認)が必要となることも多い。さまざまな制限もあるなかで、日本の配給会社は知恵を絞るのである。

「Hidden Figures」→『ドリーム』のように、まったく違うタイトルにすることで、成功を狙うケースも多い。たとえば最近の例は……

The Martian(火星の人)」→『オデッセイ

The Danish Girl(デンマークの少女)」→『リリーのすべて

Big hero 6」→『ベイマックス

Frozen」→『アナと雪の女王

Edge of Tomorrow(明日の境界線)」→『オール・ユー・ニード・イズ・キル』  ※これは原題が変更されたパターン

Jack Reacher」→『アウトロー

Despicable Me(卑劣なボク)」→『怪盗グルーの月泥棒』(その後のシリーズも)

The Fast and the Furious(速く狂った者たち)」→『ワイルド・スピード

『オデッセイ』などは、あくまでもイメージ先行のタイトル。『2001年宇宙の旅(原題は「2001:A Space Odyssey」)や、デヴィッド・ボウイの名曲「スペース・オディティ」(劇中にボウイの「スターマン」が流れる。オディティと語感も似てるので?)とのつながりで、「宇宙」を連想しやすい単語だったからだろう。

過去にも『恋する惑星』、『ハートブルー』、『バタリアン』、『バス男』(!)など、ユニークな改題があったが、基本的にダラダラと長いものではなく、簡潔なタイトルが成功を導いている気がする。その意味で『ドリーム』も(特大ヒットを狙う作品ではないが)、余分な副題を外した決断が良い方向に行くことを期待したい。

シリーズものの増加で「副題」はマストに

というのも、この「副題」、近年の映画ではやたらと多い。それも「/」や「:」、「〜」、1マス空きなど表記の仕方もさまざまである。シリーズ作品の増加で、この傾向は仕方ないかもしれない。

この夏の話題作だけでも『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』『カーズ/クロスロード』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』『トランスフォーマー/最後の騎士王』『スパイダーマン:ホームカミング』などなど。

「最後の海賊」と聞くとシリーズ終結を思わせるが、そうではないようです
「最後の海賊」と聞くとシリーズ終結を思わせるが、そうではないようです

洋画の場合、原題にも副題が付いているケースが多いが、以前のようにシンプルに「2」「3」というタイトルは少なくなった(「ジョーズ」「エイリアン」「ロッキー」「オーメン」「エクソシスト」「プレデター」「ターミネーター」など)。かつては「続・〜」、「新・〜」というパターンもよくみられた。「007」や「男はつらいよ」、「スター・ウォーズ」など長期にわたるシリーズには付いていた副題が、「インディ・ジョーンズ」、「ロード・オブ・ザ・リング」あたりを経て徐々にメインストリームとなっていく。「トイ・ストーリー」のような「2」「3」とシンプルなタイトルが続く作品は、現在、逆に稀なケースである。

某映画会社の宣伝担当の人に聞くと、「特にここ数年は『シリーズ』という表現は控えるようになった。2作目、3作目はともかく、5作目くらいになるとむしろシリーズと銘打つとマイナスイメージになりかねない。新しさが失われ、新たな観客層にアピールしないのでは……という心配が増える」とのことだった。

シリーズ作品にとどまらず、副題は増え、タイトルが長くなる傾向は止まらない。たとえば6〜7月の公開作で、シリーズ以外の単体作品でも、

『ゴールド/金塊の行方』、『22年目の告白-私が殺人犯です-』、『コンビニ・ウォーズ〜バイトJK VS ミニナチ軍団〜』、『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』、『ボン・ボヤージュ〜家族旅行は大暴走〜』、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

など多数あり、全公開作のおよそ半分に副題(もしくは、それに近いもの)が付随している。

多くのコンテンツが氾濫する現在において、観客に少しでも作品の魅力や内容を伝えたい。その思いが、副題をプラスさせる一因でもあるのだろう。とはいえ、シンプルなタイトルから、観る人それぞれが想像力を広げる過程も大切にしたい。前述の『オデッセイ』も、もし『オデッセイ〜火星からの帰還〜』などと副題が付いていたら、ちょっと“安い”感じになってしまっていたかも……。「Hidden Figures」→『ドリーム』の是非はともかく、あえて潔く副題を削った『ドリーム』は。それだけでも応援したい気持ちにもなる。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』

(c) 2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

7月1日(土)全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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