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『美女と野獣』が100億円超え。今年の洋画の大ヒット、その「共通点」は…

斉藤博昭映画ジャーナリスト

先週末、『美女と野獣』の国内での興行収入が100億円を突破した(公開42日目で達成)。この100億円という数字は、日本でのメガヒットのひとつの基準。今年の公開作ではもちろん初の快挙であり、年によってはこの数字をクリアする作品が皆無の場合もある。

過去10年間の100億円超えの作品を並べると……

2016年:『君の名は。』249.4億円 ※引き続き上映中

スター・ウォーズ/フォースの覚醒』116.3億円

2015年:なし(最高は『ジュラシック・ワールド』の95.3億円)

2014年:『アナと雪の女王』254.8億円

2013年:『風立ちぬ』120.2億円

2012年:なし(最高は『BRAVE HERATS 海猿』73.3億円)

2011年:なし(最高は『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の96.7億円)

2010年:『アバター』156億円

アリス・イン・ワンダーランド』118億円

トイ・ストーリー3』108億円

2009年:なし(最高は『ROOKIES-卒業-』の85.5億円)

2008年:『崖の上のポニョ』155億円

2007年:『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』109億円

3本という2010年は特殊として、平均すると年1本くらいのペースである。それからさらに10年前も同じような傾向。

2006年:2本、2005年:1本、2004年:4本、2003年:3本、2002年:1本、2001年:1本、2000年、1999年:なし、1998年:1本、1997年:1本

というわけで、2017年の興収レースも、今後、有力作が控えているにしても、まだ勢いが止まらない『美女と野獣』がトップに君臨する可能性はひじょうに高い。ディズニー配給であるうえに作品の知名度の高さから、この結果は予想どおりだが、2017年も半分近くを終え、ここまでの興収成績で、とくに洋画において意外な傾向が鮮明になっている。

1月以降に公開された洋画で興収1位を記録した作品と、現在までの興収の数字を並べると……

ドクター・ストレンジ(1/27公開)初登場1位 18億円〜

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(2/3公開)初登場1位 11億円〜

ラ・ラ・ランド(2/24公開)初登場1位42億円

モアナと伝説の海(3/10公開)初登場1位52億円

SING シング(3/17公開)初登場1位・4週連続50億円

美女と野獣(4/21公開) 初登場1位・現在(6/5)まで7週連続1位100億円

※続映中の作品も多く、数字は途中経過

1位にならなかったヒット作として『キングコング:髑髏島の巨神』(3/10公開)18.5億円〜、『ワイルド・スピード ICE BREAK』(4/28公開)35.5億円〜などもあるが、上位4本の数字が抜きん出ている。そしてこの4本、どれもが「」がキーポイントになっており、もっといえば、4本とも「ミュージカル」のスタイルなのである。

『モアナと伝説の海』の主題歌は、トニー賞受賞の「ハミルトン」の作曲家が手がけた
『モアナと伝説の海』の主題歌は、トニー賞受賞の「ハミルトン」の作曲家が手がけた

アカデミー賞授賞式と同じタイミングで公開された『ラ・ラ・ランド』は、うまく話題に乗っかったとはいえ、関係者にとっても意外な大ヒットとなった。この作品のジャンルは(異論もあるが)明らかにミュージカル。『モアナと伝説の海』も、主題歌の「どこまでも 〜How Far I’ll Go」が、あの『アナと雪の女王』の「Let It Go」を思い出すサビのリフレインで耳に残る。他にも歌のシーンがいくつもあり、ディズニー・ミュージカルアニメの王道の作りになっていた。

『SING シング』は「ミニオンズ」のイルミネーション・スタジオ作品
『SING シング』は「ミニオンズ」のイルミネーション・スタジオ作品

『SING シング』に至っては、各キャラクターの「歌」が主役と言ってもいい作品。厳密にいうとミュージカルではないが(ステージでのパフォーマンスという設定なので)、次々と出てくる名曲と、動物たちの個性がマッチし、これまでにない昂揚感をもたらした。その意味で、ほぼミュージカルと言っていい。

そして『美女と野獣』は、舞台化もされたミュージカルの名作である。

『ラ・ラ・ランド』以外は、日本語吹替版の歌も好評で、字幕版と観比べるリピーターの観客を増やし、数字をアップさせている。さすがに実写ミュージカルとなると、劇場公開版での「吹替」は高いハードルとなる。しかしアニメではその違和感も少なく、「アナ雪」の成功例を受け継ぎ、そこに歌の実力派をキャスティングし、うまく功を奏した作品が、たまたまであるが今年前半に集中。それが観客に受け入れられるという好循環になった。

ミュージカルだからヒットにつながるという法則は極論だが、

・「アナ雪」以来、歌が入った作品の日本語吹替版の定着と人気拡大

・『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』など有名ミュージカルの根強い人気が映画版も観客を呼ぶ

という日本ならではのミュージカル映画のヒットの要因があるのは間違いなさそう。

残念ながら2017年の後半は、ミュージカル、あるいは歌を全面にフィーチャーした作品で、大ヒットしそうなものは見当たらない。年間のヒットランクでは、昨年末に公開された『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』なども加わるので、総合ベストテンでのミュージカル濃度も薄まるだろう。とはいえ、今年前半、スクリーンから流れてくる曲に酔いしれた人たちが多数いたのは、まぎれもない事実である。

『美女と野獣』 (c) 2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

『モアナと伝説の海』 (c) 2016 Disney. All Rights Reserved.

『SING/シング』 (c) UNIVERSAL STUDIOS

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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